問答日記11
少しずつ少しずつ、その人のことは忘れていこうと思っているし、そうしている。いちばん簡単に忘れる方法は、次を見つけることなのだけど、それができないような気がして仕方ないのがつらい。あれ以上に、大切にできたらと思うものをもう見つけられる気がしない。
手の中に、綺麗な金平糖の入っている瓶がある。とても美味しそうで、ひとくち食べたらきっと幸せになれるだろう。けど、その瓶の蓋がどうしても開かない。色々試したけど開かなくて、そうこうしているうちに金平糖は古くなって砂糖が溶けてくっつきはじめている。開かないので、金平糖と瓶を別々にできないから、ゴミの分別ができない。捨て方もわからないまま、ずっとこのまま抱えて生きるのだろうか。
瓶も金平糖もとても綺麗だけど、私のもののようでいて私のものじゃない。そもそもこれが誰のものなのかわからないのに、私は拾ってしまったのだ。
あのときの、彼の動揺が私のためだったとしても、彼はもう私のことなんか忘れているだろう。その時のことも覚えてないんじゃないか。それならこれが自分の話だってことにも気付かない。私の周囲に現れる気配は私のことが嫌いで彼のことだけが気になる誰かで、彼は時々現れたとしても、私はせいぜい、単なる情報源といったところだろう。いや、きっと一度だって現れてなんかいなかったのだ。最初からそう思っていたように。
あの夢の中で、彼は言っていた。一緒に考えるから諦めるなと。離れなくていいんだとそう示していた。
けど、それは夢の中だけで、現実の彼はきっと、どれだけ待っても追いかけてこない。
本当は、このエピソードは小説にでもしようかと思っていた。もし、この二人の間に同じ感情があるなら、この話は運命的な何かのひとつで、ただいい大人になっても勇気が出せずにグダグダグダグダしているだけの、よくある話だ。結末はハッピーエンドにならないとドラマとしては成立しない。
けど、ハッピーエンドを捏造することが今の私にはできなかった。できないということは割り切れていないということだ。だって、もしかしたらハッピーエンドにできたかもしれないものを、結局どうしたらいいのかわからないまま、手放そうとしているんだから。
しかし、気配の主は一体誰だったんだろう。彼と紛らわし過ぎて振り回されて疲れた。彼じゃないのなら、自分だけの楽しみをずっと邪魔されてるみたいで嫌すぎて、彼のことなんてどうでもいいふりしたりして本当に疲れたよ。
本当はやっぱり、どんなに私を嫌いでもいいから気配の主は彼であってほしいし、何かの間違いでここを見ていたらそっと教えてほしいし、今更どんな顔して会えばいいのかわからないけどひと目会いたいし、未練がましくていけない。
彼の幸せを祈っている気持ちは本当だけど、ほかの女(男の人が好きなら含男)と作る幸せなんてやっぱり見たくないしそこまで大人にはなれないので、早く気にしないようにしなくちゃ。元気かなあ、生きてるかなあって思うのもやめなくちゃ。誰のことか思い出せないけど、あのときとても素敵なものを私は拾ったんだ、それだけ覚えていられたらいいのにね。
どうしてあんなに恥ずかしそうにしていたんだろう。一生解けない謎が残ってしまった。もう、どうでもいい人の前であんな顔しちゃだめだよ。君は君の思ってる以上に、本当に素敵なんだから。少なくとも私にとっては、世界中のどんな人よりも。