星も時間も永遠も越えて
今日は大好きなゲームの話でも。
ずっと昔に遊んだきりなのですが、大好き過ぎて今も記憶が鮮明で、ずっと語る機会が欲しかった。なので本当に今更なのですけど、こっそり語ります。
そのゲームの名前は『LUNAR ETERNAL BLUE』(ゲームアーツ)。発売は確か1994年だったと記憶しているので、もう四半世紀前の作品ですね。
しかし四半世紀経っても、すべてのゲームの中で、特にハッピーエンドの作品の中ではいちばん好きなラストシーンがこのゲームだと言い切れるほど、大好きなんです。
主にラストシーンについて語るので、ネタバレ前提です。ゲームを遊んでいない方は十分にご注意ください。また、メガCD版について語らせていただきます。
空に「青き星」が浮かぶ世界、ルナ。遺跡巡りが好きな少年・ヒイロは、ある遺跡の中で、風変わりな赤い服に身を包んだ、美しい少女に出会います。
彼女の名はルーシア。女神アルテナに会うために青き星からやって来たと告げる彼女との出会いによって、ヒイロは否応なしに世界中を巡る冒険の旅へ出ることになります。
ルーシアは、雪と氷に閉ざされた青き星がいつか蘇る日のためにずっと眠りについていた存在で、どう考えても「人間」ではなさそうです。「女神」とされるアルテナと似たような存在なのかもしれません。
そのためルーシアには常識離れした部分が大いにあり、物語序盤は着替えを覗かれても動揺しなかったり、戦闘でも自分のことしか考えていないような行動ばかり取ったりします。ルーシアは戦闘においてプレイヤーが操作できないキャラなのですが、これが演出の一部にもなっているのですね。
恥じらいや思いやりといった、いわゆる「人間らしい感情」に欠けているのです。表情や喋り方も序盤は冷たく、その無感情ぶりが美しかったりもするのですが、ヒイロたちは随分振り回されることになります。
しかし、ルナの大地を巡り、人々の暮らしに触れていくうちに、ルーシアは徐々に人間に惹かれるようになっていくのです。
その心境の変化を表現していたのが「歌」でした。非常に細かい演出も含めた、歌とルーシアの関係性が、この作品でいちばん好きな要素かもしれません。そしてそれらがあるからこそ、この作品のラストシーンが何とも言えず胸を打つものに仕上がっているのだと思います。
そもそもこのゲーム、音楽のクオリティがたいへん高いです。オープニングテーマを聞いたときに、このゲームは絶対面白いと直感して、お年玉を握りしめて買いに走った当時の私を褒めて差し上げたいです(笑)。
オープニングテーマの、寂寥感あるメロディは切なくも美しく、これから始まる神秘と冒険の物語を予感させます。ゲーム内でも何度かこのメロディがアレンジされて使われているのを耳にすることができます。
いわゆる勇者の冒険物語のために作られる楽曲を「太陽」だとしたら、ルナの楽曲はまさに「月」をイメージさせるものです。ものすごく個人的な感想ではありますが。
話をルーシアに戻しますと、注目すべきは街のBGMとして流れている曲です。この曲はただのBGMではなく、ルナの世界で歌われている流行歌のメロディだったようです。
ルーシアは冒険の旅の途中に訪れたあちこちの街で、この歌を聞いたのでしょう。歌や踊りの存在価値など理解できなかったであろう彼女は、いつの間にかその流行歌に惹かれていったようなのです。
それは、ルーシアが時々その歌を口ずさむようになったことからプレイヤーの知るところとなります。ハミングだった歌は、いつしか歌詞をつけて歌われるようになっていきます。
ルーシアはヒイロにも惹かれるようになりますが、自分の使命である青き星の未来のために、ひとり青き星へ戻ることを選択します。このシーンの音楽や台詞が素晴らしく、私は暗記するほど繰り返し見ました。
そして流れるエンディングテーマ『光と影の輪舞』。これがまた素晴らしい歌で、オープニングテーマと同じメロディが使われています。つまりこのメロディは「使命のために生きる孤独なルーシア」を表現したものなのでしょう。
ヒイロとルーシアの別れで、ゲームは終了したように見えます。エンドクレジットまで出ますからね。確かに、ゲームはそこで一度エンディングを迎えたことになるのですが、実はここから、ゲームでしかできないであろう展開が続くのです。
いわゆる「エピローグ」の部分を、さらにゲームとして遊べるのですね。小説や映画なら演出の都合上端折られてしまうであろう部分を。
ヒイロはルーシアと再会するために、星を越える方法を探しに行くのです。
そして。
オープニングと同じ構図で始まるラストシーン。ただ、眠りについているルーシアの表情だけが違う。どことなく悲しそうな表情に変わっているのです。これもまた憎い演出です。
思いもかけない場所にいるヒイロの姿を認めたルーシアの表情。声優さんの、言葉にならない演技が素晴らしい。そりゃ、好きな男が自分のために星まで越えてきたら、嬉しくて涙も出るけど、同時に笑ってしまうでしょう。何やってるんだろうこの人、って。
このゲームはいわゆる「ボーイ・ミーツ・ガール」ものにあたるのですが、ただそれだけなら私の印象に残ることはまずなかったはずです。これほどさり気なく、それでいて深い愛情を描いたアニメやゲームはそうそうないのではないかと私は思うのです。
ラストシーンにはたった一言しか台詞がありません。ほぼ表情や音だけで語られていきます。最後に流れるのも、肩を抱いて少しだけ見つめ合い、重い雲が晴れた空を見上げるふたりの姿。ただそれだけです。
そもそも、ヒイロがルーシアを女性として意識していることは序盤からわかるようになっているものの、ヒイロがルーシアに好きだと言ったり、恋人同士のように振る舞っているシーンは作中にほぼなかったはずです。
それでも、ヒイロの愛情がどれだけ深いものかは、この過剰な演出の何もないラストシーンだけで十分過ぎるくらいにわかるのです。
好きな相手のために、星をも越える。宇宙船もロケットもないファンタジーの世界で、世界中を巡って伝説を紐解き、誰も成功したことがないという、星を越える方法を見つけ出す。それがどんなに途方も無いことか。命も人生も、すべてを賭ける程のことであったはずです。
けど、彼はそれをやってのけてしまう。そしていつもと同じ明るい笑顔で、永遠の孤独を覚悟してひとりぼっちで眠っている相手を、その孤独の檻から救い出すために迎えに行く。
これ以上の愛情表現があるでしょうか。ルーシアの元にヒイロが辿り着いた、その事実以上に、彼の愛情を語る必要は何もないのです。凍てついた世界だったはずの青き星で、二人が青空を見上げていることこそが、最初のエンディングでルーシアがヒイロに投げかけた言葉の答えなのです。
だからこそあのラストシーンは、表情と効果音と、たった一言の台詞と、涙を含んだ笑い声だけで十分で、それだけでひたすらに胸を打つものに仕上がっているのだと思います。
リメイク版を見た時に「蛇足だな」と感じたのはこれが理由かなと思います。ほんのささやかな変更で、美しいバランスはいとも簡単に崩れてしまうのだな、とリメイク版からは何度か感じました。それほど繊細な演出が施されたゲームだったんだろうなと思います。
そして、涙ぐむルーシアの姿に重なるように流れ出す音楽。丁寧にゲームを遊び続けていたプレイヤーは気付くはずです。
これは、ルーシアが街で覚えて口ずさんでいたあの歌だと。青き星への道を探す道中でも、仲間たちの口から、ルーシアがこの曲が好きだったと語られるほど、彼女が気に入っていた曲だと。
だからこそ、最後の最後にこの曲が流れることによる感動が数千倍、数億倍にもなるのです。それは彼女が本当の愛情に巡り会った証拠なのだと。エンディングテーマはこの曲でなければいけなかったのだと。
歌や音楽が人々の心に寄り添う世界の物語の締め括り方としてもこれ以上のものはないような気がします。
そのエンディングテーマ『ETERNAL BLUE〜永遠の想い〜』の、愛情を知った心を歌い上げるような歌詞と、愛らしいメロディがまた素晴らしいのです。ゲームに使用されている歌としては私はこの曲がいちばん好きです。特に、いちばん最後の歌詞は本当に大好きですね。今でも口ずさんでしまうことがあります。間奏も大好きです。
大人になって考えてみると、プレゼントより花束よりメールより、結局会いに来てくれるのがいちばん嬉しいってことですかね(笑)。しかも二度と会えない覚悟までしていたのに会いに来てくれたわけですから。
男女間の愛情に限らず、どれだけ相手のために時間と労力を割けるか、しかも自分が負担と思わず、なおかつ相手が求めていることができるか、それが愛なのだろうと感じています。
ごく当たり前のように、きっと「自分が探しに行ってやったんだぞ」などと決して言うことなく、本当は心のどこかでヒイロを待っていたのであろうルーシアを探し出したヒイロの姿は、理想的な愛情の姿そのものなのではないでしょうか。
私がミーハーに騒いでいるキャラたち(笑)のように、ヒイロについてはそこまでカッコいいと思ったことはないのですけど、愛情の形としては彼以上にいい男もなかなかいないような気がします。
作品そのものも、上質な児童文学作品のような味わいがあって楽しめました。世界観の構築から音楽、キャラクターデザインに至るまで、どことなく品があり、かつ作り込まれています。今手元に無いのですが、設定資料集も読み応えありましたしね。
声優さんも豪華です。主人公ヒイロの声が緑川光さんと言うだけで、笑ってしまう人もいるかもしれない。まったく同じ名前で、しかも同じく緑川光さんが声をあてている少年が主人公の、大ヒットしたロボットアニメがありますからね(笑)。
ルナの発売の方が少しだけ先なのですが、当時ルナを遊んでいた猛者は私の友人間では私くらいで知名度がなく、けどみんなしてそのアニメが好きだったので「こんなゲームあるんだけど」と教えたら大ウケした記憶が(笑)。
ちなみに、ロンファとルーシアも出てるからね、ガンダムW(笑)。
私の元にもいつか、「ヒイロ」が探し出しに来てくれるんじゃないか、この孤独の檻から救ってくれるんじゃないか、そう少女の頃の私に想像させた、あのラストシーン。そんな空想は人生の闇の前に崩れ去って、それより何より「私がヒイロにならなければいけないんだろうか」と考えてしまう昨今です。四半世紀の間に世の中も変わり、囚われの王子様を救い出しに行くヒロインも増えたことでしょうし。
それでも、大好きなあのエンディングテーマが今日も胸に流れるのです。遠く離れていても、二度と会えないと諦めていても、それでもきっと、この手は探しているその手に繋がれているのだと、そう囁くように。
もはや入手は困難ではないかと思われますが、機会があれば是非メガCD版を遊んで欲しい作品です。掛け値なしの名作です。
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