好物は好きなうちに

所長のお子さん（2歳くらい）は、チョコが大好きらしい。

自分で冷蔵庫からチョコの箱を探し出し、封を切ってチョコをもりもり食べる、とか。

「虫歯になるよ！ って言ってもわからないんですよね。でも、チョコは食べたいという」

チョコ一直線のお子さんの母は大変だなと思って、話を聞いていた。

でも、話を聞いていて、ふと思った。

「好物は好きなうちに、食べたいだけ食べるのがよい」と。

私は物心がつく前、ものすごく豆腐が好きだったらしい。

「何食べたい？」

「とうふー！」と答える、そんな安上がりな乳幼児だった。

豆腐、豆腐と、豆腐ばかり食べて育ち、ある時

「豆腐っておいしい？」

と自分で疑問に思ったことだけは覚えている。

そう思ったら、豆腐が嫌になった。

麻婆豆腐も、味噌汁の豆腐も、冷奴も、みんなおいしいと思えない。

豆製品全般がだめになり、唯一食べられるのは、納豆と砂糖とミックスされたきな粉（餅）だけ。

揚げも、黒豆も、枝豆も、ずんだ餅も、煮豆も、豆腐ステーキも、ありとあらゆる豆系料理も食べられなくなった。

あれだけどこに行っても、豆腐豆腐と豆腐一直線の子どもだったので、たまにしか会わない祖父母は「え？ 豆腐食べないの？ せっかく用意したのに……」と、落胆したらしい。

まあ、所詮豆腐なので、みんなで冷奴にして食べたみたいではあるけど。

今では、豆製品をまた苦も無く食べられるようになったので、どこに行っても困ることはない。

嫌いになったきっかけも、再び食べられるようになったきっかけも、自分でもよく分からない。

所長は、私の「好物は、好きなうちにたくさん食べたらよい」という意見に、「後々、アレルギーとか出ちゃうかもしれないですもんね」と納得していたけど、アレルギー云々よりも、食べたいときに、食べたいものがそこにあることは、大変貴重なことだと思うのだ。

食べたいものが、食べたいようにそこにある。

たらふく食べられる。

おいしく食べられる。

親が渋い顔をしようが、自分がハッピーなら、それって最高じゃないか。

恵まれた日本という国で、恵まれた家庭で、食べたいものがそこにあって、目一杯食べられる幸せ。

それは並大抵のラッキーじゃない。

並大抵の幸運じゃない。

ものすごく確率の低い巡り合わせ。

食べたいもの、好物が、そこにある。

誰かと何かを比べるまでもなく、食べたい！ を食べられる幸せ。

そのラッキーをみすみす逃していいものか。

好物は食べられる時に、そして食べたい時に、食べたいだけ食べる！

豆腐（と豆系料理）と和解した私だけど、やっぱり積極的に豆腐を求めていた（らしい）乳幼児のころとは違って、そんなに飛びつきたいほど豆腐を愛せるわけではない。

大事なのは、今の気持ち。

虫歯にならないように気をつけて、チョコを食べたまえ。

心の底から（こっそり）、所長のお子さんを応援する私だ。

【今日の英作文】
「安物買いの銭失い」って言うでしょ。セールでの買い物は気をつけなきゃ。
They say 'Buying cheap can be expensive.' You should be careful when shopping sales.

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