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小説

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私の書いた小説をまとめました。
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記事一覧

【小説】拍手の理由

息を2回吸って、2回吐いて。 ツンと鼻の奥を刺激する冷たい風。 だんだん脇腹が痛くなって、…

森うさぎ
1か月前
39

【小説】クリスマスに

灯火@ココロ・カタチ・ヅクル「リ・キュレーター」さんの # 灯火物語杯に参加します。 クリス…

森うさぎ
2か月前
49

【小説】『私のラプンツェル』

「本当に切っていいの?」 「うん、お願いします」 私は、鏡の前に用意されたファッション誌…

森うさぎ
6か月前
23

【小説】『忘れっぽい詩の神は堂々巡り』

愛を愛で、愛を賛美し、愛を祝ぐ。 何度も何度も、愛をつぶやいているうちに、愛が何だか分か…

森うさぎ
6か月前
25

【小説】『あなたの答え』

このカードは運命のカードです。 あなたの運命、人生の道標を表しているのです。 重々しく、…

森うさぎ
7か月前
19

【小説】『雨の七夕』

この一日のために、毎年天気がいいことを願う。 曇りや雨だと、会えないって言うから。 織姫…

森うさぎ
7か月前
33

【小説】『私たちのすべて』

私がその醜聞を知ったのは、美容院で開いた女性週刊誌でした。 70歳の男性を、20歳そこそこの女子大学生が「パパ活」と称して騙し、2000万という大金をむしり取ったのだそうです。 男性の2000万は、恐らく老後の蓄えであったのでしょう。私はいたたまれなくなって、最後まで読めず週刊誌を閉じました。 後ろから私の髪を切っていた美容師が、鏡越しに薄ら笑いを浮かべて、「その女の子、やりますよね」と言いました。 「2000万、何に使ったかって、自分の交際費だか、美容整形だかって言

【小説】『祈りの雨』

祈ったって、何も変わらないのだ。 私は唇を噛み締めて、押し入れの中で膝を抱える。 真っ暗…

森うさぎ
10か月前
32

【小説】『朝焼け』

その塔から見る朝焼けに向かって願いごとをすると、願いが叶うそうだ。 岩だらけの山頂に、誰…

森うさぎ
11か月前
29

【小説】眠り薬

それは、あの子のような温もりで、やわらかさで、眠れない私の尖った感覚を丸くしていく。 あ…

森うさぎ
1年前
31

【小説】『ココアのお客さん』

寒くなってきた。 乾燥した手で扱って、手が滑った。またコーヒーカップを割る。 がちゃん。…

森うさぎ
1年前
17

【小説】『あの日の温かさを』

鉛筆の持ち方が違うと、叱られた。 箸の握り方がみっともないと、叱られた。 反省が足りない…

森うさぎ
1年前
11

【小説】『缶ビール』

カーンと道端の空き缶でも蹴ってやりたいと思って、目を皿のようにして歩いているのに、道端に…

森うさぎ
1年前
17

【小説】『この手を』

黙って、山と積み上がっている洗濯物をたたんでいた。 家族の中で一番早起きをして、静かに静かに音を立てないように、食洗機の食器を片付け、洗いカゴの中のタッパーの隅の溝を布巾で拭いて片付ける。 夏でも真っ暗なこの時間に、私は何をしているんだろう。 新聞配達のバイクの音で、私は毎朝起床する。 家族が起きてくるのは、6時。 その時間まで私はひたすら、前日に終わらず、残された家事を淡々とこなす。 それが、私の役割だから。 無職で、役立だずな私がするべきことだから。と、私が