三重、少年と焼きそばパンーおでかけがしたい。②ー
※記載の配信日が下書き段階の3月30日になってしまっておりますが、正しくは4月5日(月)の配信です。
読書して待つカレー焼
近鉄の急行に乗り、名古屋から約1時間かけて津へ。
改札を出ると県美術館に向かう西口がすぐ目の前だったが、駅員さんに尋ねて、東口へ繋がる地下道にいったん降りる。
ちょうどお昼の時間。三重県立美術館には併設されているフレンチのレストランがあり、前回行ったとき料理もおしゃれで、おいしくて、ぜひまた来たいなあと思ったけれど、今日は別の下調べをしてきている。
カレー焼。
というものが、津市にはあるそうな。スマホではない私の旅先の頼りはもっぱら、前日プリントアウトした地図。それを逆さにしたり線路の位置とを見比べながら、わりとすぐに「カレー焼」の目立つ看板をみつけた。老舗だという「さかえや」さん。先客は1組でラッキーと思ったのもつかのま、続々と電話注文した人たちが受け取りに訪れるので、飛び込みの私の順番はかなりあと。陽気が良いので、外でのんびり立ち読書をして待った。
待望のカレー焼。外側はベビーカステラのような色の生地で、かじると中から黄色いカレーがどっと溢れる。カレーパンの中身みたいにスパイシーな感じではなくて、昔の給食カレーのような素朴なおいしさだった。
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お腹も満足したので美術館へ向かう。前回来たのは3年くらい前だけど、けっこう道とかお店を覚えていたのでここは地図要らず。
勤めている岐阜県美でたまに、「ここは駅から遠いねえ」などのアクセスの悪さを指摘されることがあるけれど、個人的には「駅からちょっと歩く距離」のある美術館がベストだと思っている。駅から直結は確かに便利だけれど、知らない土地の美術館に行くときは、道中の景色を観察しながら、その空気を自分のなかに少し取り込んで辿り着きたい。美術館のコレクションは地元にゆかりのある作家を選んでいることが多いので、「こういう場所で育った人なんだなあ」と、少しでも知れるのが楽しいのである。
このとき開催中の企画展は『ショック・オブ・ダリ』だった。好きな画家だけど、特集展を観るのはそういえば初めて。天才と呼ばれる画家は、とにかく少年期の作品が尋常じゃなく上手い。ピカソがその好例として有名だけれど、ダリの10代の作品もすごかった。ここから出発してあのようにどんどん劇的な絵に変化していくのがまた、説得力を増すよな~と思う。
所蔵の方は、私の好きなゴヤの版画が沢山展示されていてテンションが上がった。
少年と焼きそばパン
いちど津駅に戻り、駅構内のおいしそうなパン屋さんで焼きそばパンと、チョコとカスタードのコロネが真ん中でひっついている珍しいダブルコロネを買ってみる。
ふたたび近鉄の急行で四日市へ移動。
四日市駅からさらに湯の山線というのに乗り換えて、湯の山温泉の一つ手前の無人駅で降りる。まっすぐのびた国道の向こうに、山々が広がるのどかな景色。てくてく歩くとものの数分で、本日ふたつめの美術館、パラミタミュージアムに到着した。
表に立派な枝垂桜があり、美しくて写真を撮る。なかに入って入館料を払い、ロッカーが見当たらなかったのでそのまま展示室へ。平日の午後、鑑賞者はまばらで、ほとんどの展示室が貸し切りのような状態。所蔵品を楽しんだのち、2階へあがり『堂本印象展』を観た。
ちらっと見て「日本画かあ」と思ったから、カラフルな洋画が沢山飾ってある隣室はてっきり別の画家だろうなあと思ったら、実はそちらも堂本印象。写生をもとにした伝統的な日本画から、戦後、がらりと画風を変えて、抽象表現などを用いた油絵を描くようになったらしい。
私は若いころの日本画、特に《猫》と、乳牛と人物を描いた《乳の願い》がよかった。日本画の「牛」ってほんとにいいんだよなあ…。そういえば、油絵に馬は多いが、牛の絵ってあまりないのはなぜだろう。
帰りの電車の時間を見つつ、陶芸家・鈴木五郎さんの作品がここの庭にあるとチェックしていたので、寄ってみた。地面に置かれた名前を探すまでもなく、独特のつぎはぎのような作品が豊かな植物の影からすぐに見つかる。せっかくなので庭園を少しぶらぶらしていると、そこに懐かしい「コメ」の姿があった。
コメとは、私が勝手に呼んでいる名で、正式名称は「アセビ」というらしい。(そこに書いてあった。)むかし、近所の子たちといつも遊んだ公園にその植物が生息しており、米粒と似た見た目から「コメだ」「コメだ」と連呼した記憶がある。雪柳ほどの華やかさはないが、枝先をずっしりと重くしている鈴なりの米、もとい白い花が咲いている様子はなかなかきれいだ。
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美術館を出ると小腹がすいた。四日市に戻ったらどこかで晩御飯をたべるつもりだけれど、待てないので先ほど買った、焼きそばパンを歩きながらたべることにした。行儀悪いが、近場に座るところも見当たらないし、国道沿いで立ち止まっているのも逆に怪しいので仕方ない。ラップを外し、かぶりつく。
…………おいしい!!!
なんてことないスタンダードな焼きそばパン。なのに、ものすごく、めちゃくちゃおいしい!
以前、テレビで『焼きそばパンて基本どれもおいしいけど、買う時の期待値を絶対に超えてこない』と某タレントさんが話していたが、これを先ほど津駅のパン屋で何気なく選んだ瞬間の期待をあきらかに超える感動が、いま口のなかに広がっている。ほんのりと甘いコッペパン。ほどよい濃さのソース焼きそば。そして紅ショウガ!
斜め前の道にぽつんと踏切を待つ小学生男子が目に入る。こんなとこで何食べてんだあの大人、と思われたかもしれないが構わない。
(少年よ、おとなにだってこれくらいの自由はある。)
と、心のなかでそっとつぶやく。
あっというまにたべてしまい、無人駅に戻ってきた。ホームには私ひとり。時計をみると、電車が来るまであと6分。
電車が到着するころには、エコバックからダブルコロネも姿を消したことは言うまでもない。
とっぷりと夜になり、名古屋へ戻って、アパートまでの道をバス停から歩く途中。マンションの植え込みにパラミタミュージアムの庭で見た「あれ」を偶然また見つけた。
コメ…。
正式名称は、もう覚えていない。
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今週もお読みいただきありがとうございました。今回は、残念ながらどれだけ探しても三重の猫に出会えなかったので、パラミタで買ったポストカードの《猫》です。3匹の親子猫。猫らしい仕草の特徴が描かれていて、つい目を細めてしまいます。
それではまた、次の月曜に。
◆今回のさんぽ猫◆
堂本印象《猫》(部分)※ポストカードより
…京都府立堂本印象美術館蔵。いつか行ってみたい。