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(短編エッセイ)なで肩の受難/引っ越し前夜の絶望。

表題イラスト/©宇佐江みつこ

なで肩の受難

以前noteでも書いた「首激痛」の後日談になるが、

整形外科でもらった湿布を年寄りくさく毎朝貼り、飲み薬も続けた結果、痛みは徐々に和らいだ。朝ベッドから起き上がるだけの動作に、痛すぎて、10分もかかっていたのが今では幻のようである。

ところで、その時医師に言われて以来、たびたび思いを巡らせていることがある。それはずばり、「なで肩」。

医師いわく、なで肩の人はストレートネックや肩こりになりやすいのだそうで、私もレントゲンを撮られた結果明らかななで肩の特徴が発見された。
30数年生きてきて、一度も自分がなで肩であると感じたことがなかった私は、先日、小学校からの付き合いである友人に「でね、調べてもらったら私、なで肩なんだって!!」と興奮気味に報告した。すると

「ああ、うん。なで肩だよね。」

とサラ~っとうなずかれて、拍子抜け。

そうなのだ。
己の認識が欠落していただけで、レントゲンなど撮らずとも、とっくの昔に私のなで肩は周知の事実だったのである。
それどころか、
「そうなんだ…、私ぜんぜん気づいてなくて、『だからブラジャーの紐がよくずり落ちて直してんだなあ』とか思ってさー」と話すと、
「あ~昔から、よくやってたねたしかに…」と、件の友が納得するではないか。なで肩だけでなく、私のさり気ない(つもりの)ブラ紐直しまでが皆にバレていたとは…!なんたる醜態!

ふだんブラを使用しない人のために一応解説しておくが、ブラ紐には長さを調節できるベルトのようなものがあり、自分好みに短くもできる。しかしなで肩人間は、紐をMAXに短くして肩肉に食い込むくらいキツキツにして「よし!」と朝出掛けても、日中いつのまにか、やっぱり肩からずり落ちている。
その他にも、今更ながらあれもこれもと過去の不便が蘇った。

たとえば服。
私は首もとが詰まった形状が息苦しくて苦手なため、トップスは襟ぐりが深くてデコルテが丸見えな服を好んでよく着ていた。ところが、買ったときは「いい感じ~」と思っていたそれらが次第になんだか、だらしなく見えてくる。着ているうちに襟がどちらかの肩に寄ったり、形が崩れる。多分洗濯が下手だから襟が伸びちゃってんだろうなあ~と思って、最近ではそういう形の服を諦めて買わなくなった。しかし気づいたのだ。あれも、なで肩のせいだったのだと。
同じように鞄も、ショルダーバッグはすぐズリ落ちるので基本、いつも斜め掛け。

そしてちょっと飛躍するが、思い返すと私はイラストで人物を描くとき、肩をぐっと持ち上げるようなポーズを昔から実によく描いている。その方が絵的に動きが出て好き、と思っていたのだが、あれは自分の中の隠れた意識が「脱・なで肩」を訴えかけていたのかもしれない。

昨今、「骨格ウェーブ」とか「ブルベ・イエベ」、果てはそこに春夏秋冬の要素まで見いだして自分のタイプを判断し、適切なおしゃれを楽しんでいる方々がたくさんいるというのに、なで肩などという初歩の初歩な身体的特徴をこんなにも長期間見落としていた私って一体……。

なで肩よ、今まで気づいてあげられなくてごめん。これからはともに、協力して生きていこうねと思っている。


引っ越し前夜の絶望。

今、あなたが生活している空間の荷物を全て段ボールに詰めるのに、何日かかると思いますか?

ネットで見てみるとひとり暮らしの荷造りにかかる平均は1~2週間らしい。ちなみに、少し前に引っ越しをした私の荷造りにかかった時間は合計、2日。恐ろしいことに、引っ越し業者さんが来る前夜の段階でまだ荷物が半分も未整理な状態だった。

それにしても、引っ越し業界も数年で色々な変化があったようである。人生で引っ越しするのは今回で6回目だが、前回は荷物もさほど多くなく自分で車を往復し荷物を運んだ。しかし今回はいかんせんモノが増えすぎて、運び出しは業者さんにお願いしようと検索をかけた。
どこがいいのか皆目見当がつかないので、ひとまず某大手サイトで一括見積りを選んでみた。すると驚くことに、15通もの熱烈なメールが合計6社の引っ越し業者から私のもとへ届いた。しかもたった1日で。
勿論ほとんどが自動送信だったと思うが、メールボックスがまたたく間にびっしりと埋まり若干恐怖である。
ああ、電話番号を記載しないでおいて良かった…。

ぶじ業者が決まり、営業さんがアパートに来て荷物の量を概算して段ボールを置いていってくれた。これが引っ越しの1ヶ月前。
「ならすぐにでも作業すればぜんぜん間に合うじゃん」と思われそうだがウチには段ボールをかじるのが大好きな小悪魔(猫)が2匹もいて、目の前で荷造りなど始めようものならどんな惨状になるか考えるだに恐ろしい。そんなわけで、しばらく段ボールは畳んだまま布を被せて隠しておき(その上でよく2匹が遊んでいた。)引っ越し日の数日前、猫たちだけを実家へ移動させ、猫がいない状態からやっと初めて本格的な荷造りにとりかかれた次第である。

ほんとにこれ、終わる……?と絶望を漂わせながらへろへろになり前日の夜11時まで荷物を詰め、帰って別の仕事を済ませて午前2時に寝て翌朝は6時に起きて作業の続き。業者さんが来る約束の時間の前に、なんとかぜんぶ、片付いた。
テキパキと段ボールを運ぶ引っ越し屋さんに「荷造り上手ですね、完璧です!」と褒められて、なんだか泣きそうになる。良かった、いい業者さんで…。

後日、みごとに空っぽになったアパートの部屋を隅々まで掃除した。モノがひとつもない部屋は、ここに自分が引っ越してきた時にタイムトラベルしたかのようにまったく同じに戻っていた。否、勿論多少の猫被害は隅々に、あるのだが…。
おなかが空いたのでコンビニに行き、フローリングに地べた座りをして食べた。暑いからとまったく無意識に選んだのだけれど、

「あ、引っ越し蕎麦だ」

と、自分が食べているざる蕎麦を見つめて思わずつぶやいた。





今週もお読みいただきありがとうございました。首激痛、まじで大変だったので、あれ以来、隙間時間にせっせと肩をぐるぐるしている私です。
皆さんも、ご自分の体にまつわる不便との闘いが、ありますか?

◆次回予告◆
【よみきりエッセイ】昔、酔っぱらい嫌いだった私へ。

それではまた、次の月曜に。


*宇佐江みつこの短めエッセイ。その他はこちら↓



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