思いつきで増田に行った話

数年前秋田県に旅行したことがある。最初は青森に行くつもりだった。以前一緒に仕事をした人達がいたので会いに行こうと思ったのだ。まずその人たちの会社がある八戸でホテルを探したが、全く空きがなく予約が取れない。青森県全体まで範囲を広げて再度探したが、それでも全く空きがなかった。

仕方がないので少し範囲を広げホテルを探すことにした。旅行気分が盛り上がって来て、目的が青森に行くから旅行するに変わってしまったのだ。秋田県の増田でビジネスホテルの予約ができた。

急いで荷造りをしよう。あと数時間で新幹線に乗らなければならない。私が旅行するときは大体そうで、酔ってどこか行こうと思い立ち、翌日のホテルを予約する。人生泥縄式。

新幹線のなかで観光する場所を調べるつもりだったが睡眠不足がたたってぐっすりと寝てしまった。

ホテルに荷物を預け、さてどこにいこうかと考えているときにロビーにあるチラシが目に入った。ホテルの人が作ったと思われる手作り感あふれる観光マップで、増田の内倉が紹介されていた。豪雪地帯なので家の中に蔵を作りその中で生活すると書いてあった。私の知っている蔵とは全然違っていて想像がつかない。だから見に行くことにした。バスはあったが時間が合わなかったので歩いていくことにした。

ポツポツと民家が点在する田んぼ道を手作りマップを見ながら歩いていく。30分ほど歩くと町の中心部に着いたらしく住宅や店が増えてきた。

最初に見たのは佐藤養助漆蔵資料館だったと思う。蔵の内装は春慶塗りと説明された。私の知っている倉庫として使う蔵とは全然違った。蔵の内装を美しく飾る文化があるらしい。

いくつかの蔵を見るうちになんとなく概要が見えてきた。大正前後の交易によって栄えた時期の割と短期間に作られたものらしい。商人の文化っぽいな、と感じた。
私自身が機械メーカーでずっと働いているせいか、社屋を美しく飾ると言う感覚をあまり持っていない。そんなことより製品作りにお金を使うのだ。

マップで紹介された内倉の中に酒蔵があった。以前はいくつか酒蔵があったが現在も酒蔵として使用しているのは一ヶ所だけらしい。きっと美味しいお酒が飲めるだろうといそいそと酒蔵へ向かう。

酒蔵はちょうど大掃除中だったらしく様々な道具が表に出され、人が忙しく行き来していた。パンフレットを受け取り見てみると、まんさくの花と書いてあった。NHKのドラマのモデルとして使われたことで有名になったらしい。へえ。アレコレ試飲し、何本か自分へのお土産として買い、自宅へ郵送することにした。味は当時の自分の好みとは違ったが、それはそれで美味しくいただいた。

自分用お土産として買ったお酒を飲み終わり旅行気分も消えた頃、まんさくの花からダイレクトメールが届いた。確か作り方は同じで酒米だけ変えたお酒の飲み比べセットの紹介だったと記憶している。面白そうだと思いポチった。その後も定期的にダイレクトメールは届き、買ったり買わなかったりした。

そのうちにサブスクが始まった。しばらくは申し込まなかったが、これまた酔った勢いでサブスクを申し込んだ。一ヶ月にその時々のおすすめが四号瓶がニ本届く。続けて飲んでいるうちに自分の中の標準の味がまんさくの花になっていった。別の銘柄の酒を飲むと、まんさくの花と比べてどうかと思うようになったのだ。

今もまんさくの花の今年の新酒を飲みつつこの文章書いている。いきあたりばったりも悪くない。

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