2023年(1~3月)に読んで面白かった本

四半期ごとに書いている面白かった本のまとめ。
私生活が忙しかったので思ったより読めていない。


織物の世界史

毛皮、絹、綿、羊毛、合成繊維と織物についての歴史。
衣服についての歴史を広く押さえてあって読みやすかった。
1960年代までは服は自作していた人の方が多数派だったのが意外。

なぜ服がここまで安くなったのかというと、石油から作られる合成繊維の発明とコンテナによって物流が効率的になったから。

アパレルは最後の細かい調整は人の手で行わないといけない。
人手がどうしても必要になる。
輸送コストが限りなくゼロに近づいて輸送費を無視できるようになると、アパレルの工場は人件費の安い国へ向かうことになる。


イスラーム原理主義の「道しるべ」

アルカイダの教本扱い、エジプトでは発禁処分のイスラーム原理主義の教科書。
作者であるクトゥブは死刑になっている。発禁処分扱いになる本は面白いと相場が決まっているが(誰も読まない本は発禁処分にすらならない)、この本も面白かった。

最初は「イスラームで世直しする!」くらいのニュアンスだったのが、読み進めるにつれて「イスラームを信仰しない人間は害悪なので殺してもいい」くらいのニュアンスに少しずつ変わっていく。

大衆の扇動はこのようにして行う。最初は問題ないが、少しずつ過激な内容になっていく。

クルアーンには暴力的な句も書かれているが、そのような暴力的な句だけを引用して何度も強調することでイスラーム過激派の尖兵を作る。この手法は現代でも引き続き使用されている。

21世紀のイスラム過激派

作者が割と中立よりでイスラームに対して客観的に書いているので読みやすかった。一枚岩でないイスラーム過激派の関係性がよくわかる本。

イスラーム過激派といってもヌスラ戦線やアル・シャバブなどの地域密着型は息が長い。メンバーも地元民が多くて「この一線を超えたら支持が得られない」というのを理解している。

ISILなどのグローバルジハーディストは度を越えた残虐行為で地元民の支持が得られなくなって失墜するケースが多い。

イスラーム過激派もその地域に進出する時は地元部族の首長の顔を立てたり、密輸ルートの提供などの利益を提供したりと利害関係を考えながら進出を行っている。


小麦粉とパンの1万年史

旧石器時代から現代までの小麦粉の製粉について書かれた本。
イラストが多くて読みやすい。

小麦はオオムギやライムギと比較すると育てにくく、手間もかかる。
それでもなぜ人類は小麦を栽培してきたかというと、小麦は圧倒的に味が良いからである。

近代以降の小麦の製粉技術について細かく記載されている。これを見ると工学部の方が潰しが効くのがわかる。食品メーカーに入りたい場合でも、農学部より工学部卒の方が就職しやすそう。工学部ならプラントエンジニア枠で入れる。


アフガニスタン・ペーパーズ

米国は一兆ドルをアフガニスタンに投じたが、タリバン政権を潰せなかった。アルカイダとタリバンを混同して戦争を始めたのが間違いの元だった。

アルカイダはたまたまアフガニスタンに潜伏していただけのテロ組織で(ビンラディンはサウジアラビア出身で、スーダンの隠れ家を追い出されたのでアフガニスタンにいただけ)、タリバンはパシュトゥン人の部族同盟。
全く異なる組織である。

ケシの撲滅運動もたいした結果が上がらなかった。米国がケシの撲滅運動を行っていた時期に、アフガニスタンはアヘン生産量の最高記録を樹立した。

アフガニスタンの農民もケシの方が儲かるから栽培している。ザクロもピスタチオも儲けはケシに遠く及ばない。

後世で「米国衰退の始まりは?」と聞かれた時に人々は「アフガニスタンとイラクへの介入」と答えるであろう。

まとめ

最近は琴線に触れる本が少ない。読んでいる本の量が増えて「これどこかで見たな」というのが増えてきたのだと思う。

イスラーム系の本が多い。
イスラーム過激派については反対の立場であるが、「なぜ人々はイスラーム過激派に走るのか?」といった理屈や社会情勢の背景くらいは知っておいた方がいい。

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