イスラーム経済論~利子について~

イスラーム経済論についての本を読んだので、それのまとめ。忘備録としてまとめる。書いていたら長くなったので、今回は利子について書く。

なぜ利子を取ってはいけないか

イスラム教では利子(リバー)を取るのを禁じている。利子(リバー)が利子全般を指すのか、法外な高金利(いわゆる高利貸し)を指すのかは学者によって説が分かれている。

ここでは利子全般を指していると前提して話を進める。

借りた金に利子がつくのは「手元の現金は将来の現金より価値が高い」前提があるから。すぐに使える100万円は、1年後にならないと使えない105万円より価値が高いのは感覚ではなんとなくわかる。理屈的には妥当な概念をイスラームでは禁じている。はて?

利子の話に入る前に「お金(ここでは貨幣を指す。以後貨幣と呼ぶ)はなぜ価値があるのか?」についての話をする。

貨幣に価値があるのは何とでも交換できて、価値の貯蔵ができるので他の資産と比較すると圧倒的に強いからである。

物々交換の社会を仮定しよう。小麦を持っている人間が羊毛を欲しかったとする。小麦を持っている人間は、羊毛を持っていて小麦を欲しがっている人間をわざわざ探さないといけない。

ここで貨幣を登場させる。貨幣は皆が欲しがって、かつ価値があると認めている。貨幣があれば、小麦を持っている人間は小麦を売って貨幣を手に入れればよい。手にした貨幣で羊毛を買えば無事、羊毛を手に入れられる。

貨幣があれば、羊毛を売ってくれる人間を探せばよい。羊毛を売ってくれる人間が小麦を欲しがっているか、材木を欲しがっているかはどうでもいい。とりあえず羊毛を受け取る対価として貨幣を渡しておけばいい。
貰った貨幣で小麦も材木も買えるから。

貨幣の「何とでも交換できる」特性はこの時点で強い。とりあえず適当デッキに刺しておけば強いカード、何にでも合わせられる花柄スカートのような汎用性を持つ。

次は「価値の貯蔵」について考える。
ザクロ農家がいたとしよう。ザクロには価値があるのを皆が認めているが、ザクロを大口で消費する人はいないので収穫の一部が余ってしまう。
余ったザクロは赤字覚悟の安値で叩き売りをするか、ただ腐るのを待つかで
対処する必要がある。
ザクロには資産価値はあるが、資産価値は時が経つにつれて徐々に目減りしていく。

貨幣の場合はどうか。貨幣には資産価値があって、しかもその価値の保存ができる。「今月のおこづかいは余ったので残りは貯金しよう」が可能である(貨幣の供給量は常に一定でハイパーインフレなどは起こらないと仮定した場合)。

資産価値で比べた時にザクロは時間が経つと少しずつ価値が目減りするが、貨幣は時間が経っても価値が一定に保たれる特性がある。使わない貨幣については貯金して、後で使うことも可能である。
カードゲームで例えると「今ドローしても手札を使いきれないから、ドローを次のターンに持ち越せる」と考えれば強いことがわかる。
寿司食べ放題でお腹がいっぱいになった時に、手元のイクラを明日以降も鮮度そのままで持ち越せると考えてもいい。価値の貯蔵は強い。

貨幣の何とでも交換できて、価値の貯蔵ができる特性を組み合わせるとどうなるか?
「貨幣を貯める人間が一番強い」になる。貨幣ゲーになってしまう。
将来どの商品の価値が上がるかわからないけど、とりあえず貨幣に交換しておくのが最適解になる。

貨幣の強さがわかったので、ここで利子の話に戻る。
利子の効果は資産を多く持っている人間ほど恩恵が強い。
金利が1%だと仮定した時、100万円を貸しても1万円しか増えないが、1億円を貸すと100万円増える。更にその100万円を貸すと更に持ち分は増える。これが複利効果だ。アインシュタインが「人類史上最大の発明」と言っただけはある強さ。

これを繰り返すとどうなるか?
金持ちはより金持ち、貧乏はより貧乏になって格差が拡大する。
複利効果も相まって、貨幣の供給量がどんどん増えるのでインフレが更に進む。去年まで100円で買えた小麦が、今年は150円出さないと買えなくなる。

インフレで物価が上がるのは貨幣の購買力が落ちるからである。市場全体に存在する貨幣が増えれば増えるほど、単価あたりの貨幣の購買力は弱くなる。「豊富に存在する品物の価値は下がる」からだ。需要と供給の関係である。
金持ちは別に困らないが(そもそも資産を多く所有しているので、単価あたりの購買力が多少落ちても数の力でゴリ押しすればどうになる)、貧乏人はたまったものではない。

イスラム教の教えの全体方針は「人間は皆平等。貧しいものには施しを与えよ。金を稼ぐのは勝手だが、稼いだ分の一部は共同体に還元せよ」である。
利子を取るのを認めると、やがて個人の努力ではひっくり返せない格差につながってしまう。格差を固定してしまうと、「人間は皆平等」の教えに反する。階層の固定化を防ぐようにしている。
このように、貨幣を持つ人間が極端に強くなってしまうのを防ぐ仕組みになっている。

まとめ

「利子を取ってはいけないこと」についての解説よりは「貨幣はなぜ強いのか」の解説になった気がするけどまあいいや。

イスラム教は金を稼ぐ行為自体は認めている。ゴリゴリの共産主義や社会主義ではない一方で、金で殴るのが一番強い資本主義というわけでもない。

利子の強さを理解した上で、利子を取るのを禁じているのでそこの好感度が高い。むやみやたらに禁止するのではなく、合理的な理由があるので禁止をしているので一応は納得できる。

気が向いたらイスラーム経済論の他の話題についても書く。

イスラム教については「信仰するかどうかは別として、教えは結構合理的だな」と思われるのが一番良いと思う。
合う/合わないはあるので信仰については本人のご自由にどうぞの立場を取っている。

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