破黙
挨拶に特別な意味は無いけれど、挨拶をする人間になってしまうと、挨拶しない人は非常識に見える。挨拶は言わば潤滑油のような役割を果たしていて、世間話にならない程度の会話なのだ。
こういう時にはこういうことを言うものですよねという決まり文句にすこしアレンジを加えて、お互いの調子を合わせる。決まり事を守っていると一体感が生まれるのだ。
でもそういういろんな決まり文句が決まったとおりに流れているとたまに全部壊してみたくなる。
みんなが神妙な顔をして静かに座っていると、ここで大声で歌を歌ったらどうかなとか。
貼り付けたような営業スマイルをしてくるこいつの顔を思いっきりビンタしたらどうかなとか。
丁寧に並べられた受付のものをザーーっとなぎ倒したらどうかなとか。
自慢げに話しているこの顔にコップの水をかけたらどうかなとか。
いや、それがやりたいというのではない。
決まりきった流れに力が生まれてくると、その力から逃れたい気持ちが生まれるので、頭のなかでそれをぶち壊してみるということだ。まあしないですけど。でも、やろうと思えば出来るという小刀を頭の中で思い描いて磨くだけ。