うるぽろのショートショート6日目:最後の一言
最後の一言
ヒロシは今、机の前にあるエンディングノートと睨めっこをしている。
市役所に行った昨日、この「エンディングノート」なるものがあることを知り、貰ってきたのだ。
どうやらエンディングノートとは、自分が亡くなった際に備えて自身の情報をまとめておく冊子のようだ。
自分も85歳という年齢を迎え、そろそろ終活と言うものを考える歳だろう。
指にツバを付け、エンディングノートをめくる。
そこには自分の名前、生年月日、血液型、住所などを書き込む欄があった。
一枚ずつページをめくっていくと、パソコンのログイン情報等を入力する欄もあるではないか。
デジタルに疎い自分には関係のない項目だと思いながら、また次のページをめくる。
最後のページでは、家族へのメッセージを書く欄があることに気付いた。
そこで、手が止まってしまう…。
…待てよ、おかしい。
私には妻も居ないし、子供も居ないではないか。
このエンディングノートを書いたところで、誰に見せると言うのか…。
ヒロシは孤独感を抱きつつ、その日は眠った。
次の日。
ヒロシはまたエンディングノートと睨めっこをしていた。
その時、プルルルルとけたたましく電話が鳴った。最近雇っている、ホームヘルパーだ。
受話器に耳を当てると、彼女が何やら言っているが、うまく聞き取れない。
辛うじて「冷凍庫のどこに隠したんですか?」という質問だけ聞き取れた。
奴め、今度は納屋の鍵まで渡せと言っているのか。
ヒロシは若干イライラしながら「手前のアイスの下」とだけ言って電話を切った。
翌日、ヒロシのお通夜開かれた。
突然の心筋梗塞だった。
お通夜には、ヒロシの妻・沙代子、県外に住む2人の子供、そして親戚一同が集まった。
ヒロシの棺を前に、沙代子が涙を浮かべてこう言った。
「主人はここ数年で一気に認知症が進んで皆様にもご迷惑をおかけしました。ですが、昔から几帳面でとても優しい人でした。」
その場にいる全員が、鼻を啜っている音が部屋中に響く。
「見てください。このエンディングノート。何も書かれてはいませんが、主人が私たちに何かを残してくれようとした証だと思いませんか?」
悲しみの中、沙代子の脳裏にふっと記憶が蘇る。
「そういえば…出先から電話をかけた日に、主人が最後に言ってくれたんです。『お前を愛していた』と。」
作品解説
聞き間違いがポイントのお話を作りました。
「お前を愛していた」
「手前のアイスの下」
うーん、ハッピーエンドですね!!(?)
ちなみに、この聞き間違えを作るのが難しくて30分くらい悩んだり、チャットGPTに聞いたりしてみたのですが…全くいい感じの語呂ができなくて苦戦しました。
結局、夫に頼んだら5秒くらいで「手前のアイスの下」は?と出してくれました。もう少し時間をかけたいから待って!と言われたのですが、いいシーンが書けたのでこれでヨシかなぁと思っています。
ラップやら言葉遊びが得意な夫に感謝です。
(また何かお願いするかも)
イラストはお葬式イメージで、棺にしました。
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