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読書レビュー)宮部みゆき「曼殊沙華」

(2008年 角川書店「三島屋変調百物語事始め「おそろし」に収録)

彼岸花の季節。

 彼岸花(曼珠沙華)をみるといつも思い出す短編小説がある。

 宮部みゆきの三島屋変調百物語事始の中に収められた「曼珠沙華」という作品で、人の罪の意識を曼殊沙華の中に浮かぶ「顔」という怪異を通して描いた物語だ。

 舞台は江戸時代。両親を失った子供達の長兄は懸命に働いて愛情深く弟妹を育てていた。しかし兄は激情家な所もあり、些細なきっかけで人を殺めてしまい流刑に処される。優しかった兄は弟妹にとって自分たちが世間から差別され疎外される要因を作った存在になってしまった。弟妹は兄に怒りや恨みを抱き、その存在を激しく厭う。やがて世間が兄の存在を忘れかけた頃、兄は刑を終えて帰ってくる。そして、その兄は今も弟妹を愛しく思っているのだ。

そこに愛も情もあることは明確だけれど、それは自分を幸せにするものではない。むしろその愛情の起源となっている血のつながりが憎い。

でも、行き場を失った愛の悲しみはわかる。自分も年齢と経験を重ねれば重ねるほど、受け入れてあげられなかった愛の寂しさは身につまされる。ああ、哀れだったと思うのだ。

読めば真っ赤な曼珠沙華と「顔」の映像が鮮やかに脳裏に浮かび、その「顔」の悔しさ悲しさと物語の語り手の痛みの彩りも相まって、不穏ながら鮮烈な色彩の物語として記憶に残る。

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