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界の軌跡キャラクター考察~迷い、誓い、揺れる者たち~

 本稿はストーリーRPG《界の軌跡-Farewell, O Zemuria-》ネタバレ全開感想考察の記事の一つになります。
 《界》で語りたいことは相当に多く、単なる感想からキャラクター考察、世界観考察まで幅広くあります。
 今回は今までのヴァン・ケビン・リィン各ルートの考察記事で語れなかった諸々のキャラクターについて、あることないこと自由に考察していこうかと思います。


《界の軌跡》の記事一覧

  1. 発売前考察(諸々勝手に妄想考察してみた記事)

  2. クリア後感想(重要なネタバレなしの感想)

  3. リィンルート感想(キャラ及びストーリー考察)

  4. ケビンルート感想(キャラ及びストーリー考察)

  5. ヴァンルート考察(キャラ及びストーリー考察)

  6. キャラクター考察(キャラの心情を中心に考察)

  7. 世界観考察(終盤の重要なことなど全開な考察)

 記事ごとに差はあれど、①②を除いては重要なネタバレが全開なので注意してください!

1.突き立てるは剣か、魂か~エミリア・ハーリング~

・エミリア・ハーリングという人物

 元共和国空軍所属、大戦《ヨルムンガンド戦役》でも破竹の勢いで敵を屠ったエースパイロット。
 一時は運び屋エルメスとしてバイクを相棒に活動し、そして今作ではついにその素顔と正体をあらわにしました。
 新設されたカルバード共和国航空宇宙軍所属、宇宙適応の人型機動兵器《エクスキャリバー》に搭乗する宇宙飛行士として、《スターテイカー計画》及び《レーヴァテイン計画》の中核を担う人物。
 素顔を晒した彼女は共和国軍人として初のイラスト付きキャラクターであり、軍人でありながら茶目っ気もある魅力的な女性でした──

 エミリア姐さんと呼ばせてください。あとメメントオーブで《イスマエル・ターン》っぽい空戦機動やってるの痺れます姐さん。

 が、《界》の最終幕を見届けた方はお分かりのように、彼女は死亡したかすら定かではない最期を迎えてしまいました。
 大気圏外で例の《匣》の反撃を受け、エルメスを乗せた《エクスキャリバー》は凄まじい熱を纏いながら共和国北西ヴィシー郡へ墜落。同時間・同場所にいたケビンの目の前まで迫り、ケビンたちを巻き込む大衝撃が来る──かと思いきや、ケビンたちには何の痛痒もなく、彼らの目の前にはケビンがかつてそこで回収した巨像──ラピスをして「あの《エクスキャリバー》に間違いない」という超高熱によって溶け崩れた存在があった。
 普通に考えて死亡したのが確定したような演出ではありますけど、物理法則に従えばそこにいたケビンたちも巻き込むはずなので、あの瞬間、どうして巨像として出現するという結末となったのかはわかりません。

 ハミルトン博士はそれを「今回ループにおける失敗の証だ」と言いました。
 その言葉が確かなら、ケビンがかつて回収した巨像は前回の《エクスキャリバー》もしくはそれに相当する機体。そしてやはり、前回のループでも同じように《レーヴァテイン計画》は実行されそして失敗した、ということ。
 ループに関する考察は世界観考察に譲るとして、考えるのは『神殺しとして剣を突き立てる』ということについて。

・神殺しをなすために必要な《縁》

女性宇宙飛行士及びその類似者。私が知る限り、創作ではMGSシリーズの《ザ・ボス》、月とライカと吸血姫の《イリナ》ぐらいです。

 エミリア・ハーリングという人物は、個人適正として間違いなく《エクスキャリバー》を駆るに最もふさわしい人物だったと思います。そりゃ、世界にはリィンみたいな騎神の搭乗者や、あるいは黄金の羅刹みたいな人外級の人間の化け物がいるにはいます。とはいえ求められるのは武術ではなく、神殺しの剣を神の眼前まで運ぶ能力。共和国人という計画を知る資格などの経歴なども考えれば、エミリア以外にはいなかった。
 それにリィンたちの力も確実に関わっている。リィンとクロウの立ち合いがあって、シズナとカシムの力も関わって、《エクスキャリバー》は間違いなく神殺しにふさわしい剣にはなったのかもしれません。
 エミリア・ハーリングという人物も包摂した意味での《エクスキャリバー》です。
 でも、その《エクスキャリバー》は《匣》には勝てなかった。
 メタ的な意味でどうすれば神に勝てるのかというのはわかりませんが、なんとなく、本作が《英雄伝説》であるという意味で、『《エクスキャリバー》が孤独だったから勝てなかったのではないか』と思ったりしています。

この言葉は吉だったのか凶だったのか。

 ヴァンルートでも『後手後手に回っちゃったし相談もしなかったから今回アニエスを救えなかったんじゃ』とも言えるようなことを書きましたが、それは《レーヴァテイン計画》を主導する大統領においても同様だったかもしれない。
 計画はおおむね共和国のみで行われた。国どころか大陸そのものを支配する《匣》を相手に。
 空SCでは、ワイスマンを相手にエステル一人では勝てなかった。帝国を牽制するオリビエという国外の力や、外の理に連なるレーヴェが力を貸さなければ、ワイスマンを倒すことはできなかった。
 空3rdでは、ケビン一人では絶対に聖痕に打ち克つことはできなかった。力のあるなしに関係なく、リシャールのような元敵からティータのような力のない少女、リースという大切な家族。全てがそろって初めて影の国を脱出できた。
 碧では、仲間に最強の人間なんていない。それぞれの個性ある人が力を貸して、最後にキーアを連れ戻したのはロイドの普遍的な愛情だった。
 閃Ⅳ。リィンに、仲間に、帝国の外の力に、裏側では共和国の力も。そして聖獣の力や偶然があって初めて、リィンたちは鋼を乗り越えられた。

 《エクスキャリバー》はあくまで孤独だったと思うのです。

 次回作で仮に《界》と同じような状況となるのかはわかりませんが、仮にそうなるとすれば──
 この世界の真実を知るケビンが、巨大な力を扱うための術を
 使えるものはがめつく使うヴァンが、戦術を
 八葉の連なりとして、技術よりも絆を力にして戦うリィンが、孤独とならない戦い方の精神を
 そうしたものを《エクスキャリバー》という剣に焼き入れして、エミリア自身が剣になるのではなくて、剣を振るう剣士となって。剣を突き立てるのではなく、魂を振るうようになってくれれば、あるいは……

2.遅すぎた自己の確立~F・ノバルティス~

・F・ノバルティスについて

 ある意味今作一の萌えキャラだったのかもしれないノバルティス博士。
 《界》でここまで彼の深堀がされるとは思いませんでしたよ。ねえ、フリオくん?

 ノバルティス博士は、『《第19998期グランドアーカイブ》において、C・エプスタイン博士の唯一の弟子であり、しかし研究思想の違いから破門された』という過去が明らかになりました。
 どちらかといえばこの情報でプレイヤーが衝撃を受けるのは《第19998期グランドアーカイブ》という言葉で、その前後にラスボス戦前後で語られるゼムリア世界のループの真実と絡めて『この世界はループしている』という事実の方に、同じく衝撃を受けることの方が多いと思います。

 これらの情報を基にして、ノバルティス博士の素性について気になることがいくつかあります。
 それは、

  • 大方の予想の通り、『エプスタイン博士から破門されたノバルティス博士』は今回の1期前の事実なのか?

  • 『今の』ノバルティス博士は果たして何者なのか?

  • ノバルティス博士の本性はどこにあるのか?

 ということです。

・ノバルティス博士のアイデンティティ

 『エプスタイン博士の弟子』の件が明らかになり、ノバルティス博士は歓喜に打ち震えて叫びました。

「私はちゃんと、この世界に存在していたんだ!!」

ノバルティス博士の孤独と不安。そしてリゼットの不安。このシンクロはなんなのでしょうか。

 裏を返せば、今の自分の存在感が希薄に感じていたということ。
 碧の軌跡の情報を見返すなら、ヨルグ・ローゼンベルグの弟子であると言うのが今回ループの経歴ではある。この経歴ですら、一般の人からすれば「すごい」と思われるような事実なのに、それでは自分の存在を確定できないというノバルティス博士がいる。
 メメントオーブの《賢人会議》の記録から考えれば、ノバルティス博士は『エプスタイン博士の弟子』の記憶を持っていて、それを拠り所に感じていて、だからこそ三高弟に憎悪ともとれるような感情を持っている。だからこそ今の自分が世界から否定されているように感じる。

 仮に前回ループの記憶があることを『枷が外れている』と表現できるとして。
 ノバルティス博士は、枷を外していたのでしょうか。
 ノバルティス博士そのものが、自分を認められないような弱い人間なのか。それとも枷が外れたから、世界の真実を前にして自分の実在を疑ってしまったのか。

 ノバルティス博士はあくまで裏方に徹することが多いですし、彼と関りのあるエプスタイン博士の素性も徐々に明かされつつあるので、彼が今後クローズアップされるかもわからない。
 それでも興味深い描かれ方をした人間であるので、意識的に追ってみたいとも感じています。

歴史の陰にいた人間の影を追う。

3.真実を知るが故の盲目さ~ニナ・フェンリィ~

 個人的に《界》発売前で考察対象の最推しだったニナ・フェンリィ女史ですが、今回はそこまで素性が更新されませんでした。
 メメントオーブによって明らかになったのは、ルフィナとの出会い。オレスティス2世との関り(法王猊下が女性だって判明したの、今作が初めてなんじゃないでしょうか)。そしてニナの簡単な経歴。

 中でも一番の情報としては、ルフィナが4歳くらいのニナを見つけた時に「明らかにゼムリアとは異なる言語を発した」という事実ではないでしょうか。

 文字や読み方については、ゼムリア世界は東方だったり西方だったり英語だったり漢字だったりいろいろありますけれど、それらの違いが生活レベルで支障をきたしている描写はありません。ケビンみたいな方言はありますが、あくまで方言。会話に支障はない。
 それらと、ニナがメメントのストーリーの中で発した言葉は明らかに違う。敢えてメタ的に言うなら、描写の仕方が魔王や悪魔の上位次元後、あるいは存在しない言語なんかと近い表現方法のように感じます。

※厳密に言えば、存在しない言語は「文字に靄がかかった」感じで、ニナ幼少期の言葉は「テレビのノイズ画面」みたいな感じですが。

ろりにな

 個人的には、ニナの正体は発売前と同じくマクバーンと同様の立場であるという説を推したいと思っています。
 上に書いたノバルティス博士のようなゼムリア世界の別ループというわけでもない。あるいはオズボーンのような輪廻転生でもない。
 とはいえ、マクバーンのような『この世界の自分と別世界の自分がぶつかって融合した』わけでもない。ニナの場合は言語がもはや別物なので、マクバーンのように全部混じりあった『半分はゼムリアの自分』というわけではなくて、存在が丸ごと別世界の人間というような。

まったく、この世界は似た現象が多すぎるぜ……!

 黎Ⅰの頃から『自分がない』ということがニナのイベントの要点としてあったわけですが、それに加えて今回はルフィナとの縁によって、ニナが全く自分がない人間ではないということが説得性を持って明らかになったような気がします。

『この世界が愛おしくてたまらない。貴女が愛し、護ろうとしたこの世界が』

 この台詞はヴァンでも盟主でもなく、ルフィナに向けた言葉でした。
 ルフィナやおばあ様への情がある。
 自分を持たないというのは相手に合わせるというものがあるからで、でもそれは決して『自分がない』ことの証拠ではない。
 カルバード共和国という世界の中心へ興味を持ったこと。

 たとえ終わりの聖女と呼ばれたって。役割に徹し、聖母とも称される人物の殲滅を決めようとも。
 ヴァンがすでに黎Ⅰ・Ⅱで言っていますが、やっぱりニナは自分を持っていると思うのです。

4.普通と異常~ヨルダ&イクス~

 ヨルダって可愛いよね。
 ほら、あのさ、ちょっと背伸びなとことかさ。斜に構えたところとかさ。ツンデレな──なんか銃弾が飛んできたんだけど。あれ? 何なのこの足元の影?
 空ではレン、閃ではアルティナ。というように、悪役ロリキャラが何かしらの形で仲間になることに定評のある軌跡シリーズです。これは人気キャラになるな。あ、声優さんも好きです。

ワレ、ろりこんナリ

 とまあ、それもそうなんですが。ヨルダのことを語るには、やはりイクスとの関係性を外すことができません。

 《洸弾》のイクス。《影喰》のヨルダ。双子であり、姓はエルダリオン。アルマータの首領であったジェラールの血縁のある子供であり、血筋的にはカルバード旧王家です。
 発売前考察でも書きましたが、これに加えて反応兵器を起爆できる可能性を持ち、結社の執行者であり、そして暗殺集団《四の庭園》に所属していた過去も持つ属性モリモリの双子共。

 黎Ⅱの頃の描写では、どちらかと言えば殺人に快楽を見出す狂人という印象のある危険人物な双子でした。ただ、今回の《界》によって、仲間となったヨルダも、そしてイクスでさえも割と人間臭い一面があることが明らかになりました。

 まず、ヨルダは仲間となることで、まあロリ属性も相まって可愛らしい一面が出てきた。私と同じようなファンが爆増しましたね(決定事項)。
 それだけでなく、今まで暗殺組織にいたので必要な殺しを厭わない部分もあるとはいえ、『不必要な殺しを避ける傾向にある』ということは、黎Ⅱの時点では全く予想外で。

 それで今までの罪を帳消しにできるわけではなく、悩む必要があるのは確かです。とはいえできるならば殺しはしたくない、そしてすーなーやヴァンたちへのクソガキムーブは殺ししか自分の人間性に特別さを見出せない嫉妬のようなものがあった。

 一方でイクスの方は殺しに悦びを見出している部分はありますが──本性としての殺人傾向がある一方で、社会一般の常識や文化を理解する知性があって、そして普通であることを羨ましく思う人間としての社会性がある。

こいつ、クソガキだと思ってたらただの思春期かよ。

 その社会性によって他者と繋がりたい、他者と同じ領域にいたがる性質があって、それが葛藤となりヨルダとイクスの確執に繋がった。
 ヴァンたちが言ったように、人と人の間にあるという意味で普通の人間です。むしろ、仮に生まれと育ちがまともなら狂暴性を隠して生活できた部分もあるかもしれない。
 単なる反抗期だった。その結果が《残滓》に加入するというのはちょっと笑えないですが。

 ヨルダと同じく反省したからといってそれまでの罪をなかったことにはできない。けれど暴走する獣を殺すのではなく、生かして人として裁く余地ができた。
 ヴァンという主人公や仲間たちが支え、ヨルダがイクスを引っぱたいて連れ戻す下地ができた。

 一ファンとなってしまった身として、そのヨルダが大事にしているイクスも含めて、成長を見守っていく覚悟を持たなければならないと感じる、今日この頃です。

5.軌跡の父親になれるのか~ロイ・グラムハート~

・人間臭さを感じた《界》のグラムハート

 グラムハート大統領の素性や信念というものは、今回でほとんど明らかになったと思います。
 創の軌跡ではロックスミスの後任としての立場と、そして盟主との接触に成功したという軌跡プレイヤーにとっての偉業を果たしたことで注目された。
黎Ⅰではアニエスとの関りで注目されつつ、《ゼクー宇宙軍基地》の存在が明らかにされることで「この大統領が進める、結社とも相互不可侵とした計画ってなんだ?」と謎が謎を呼び。

 黎Ⅱでは幻のクーデターで人間としての胆力が凄まじいことを示されてきた。

 そうした中で、本題の《界》。
 プレイヤー側に知らされていないクローデル家の情報はあれど、グラムハート大統領は純粋に愛した女性と娘のために、その二人が幸せに暮らせる世界のために動く……そんな信念を持った男だったとわかりました。
 登場当初、「オズボーン宰相と同じくらい手強い」と盟主か誰かに言われたとき、とはいえ差別化を図る意味でこの男はどんな野望や計画を、鉄血と異なるそれらを持っているのだろうか、と考えました。

・理と修羅

優しさと強さを持つカシウス
強さと優しさを持っていたオズボーン

 今回で計画が失敗してしまったので、印象としては鉄血よりちょっと脆さを感じてしまった部分は否めないのですが、それでも鉄血と同じような家族への愛と強さを持っていると思っています。
 グラムハート大統領がイシュメルガに『我ヲ選べ』と言われたら覚悟を持って地獄の道を選択するようにも思います。オズボーン宰相がリィンを殺されたら──いや、オズボーン宰相は修羅のまま世界を相手に戦うなる気がするな。あの人やっぱり獅子心皇帝だわ。

背中で語る鉄血宰相

 二人を比べたい気持ちもあるし、二人を比べるのは状況が違いすぎて酷だという気持ちもあります。
 ただ個人的に思うことは、今回私は嬉しかったのです。グラムハート大統領の、大統領としての謎めいた部分だけでなく、1人の人間・1人の夫・1人と父親としての人間臭い部分を見ることができた気がするので。

 軌跡の父親、と言えば誰が思い浮かぶでしょうか。カシウスとオズボーンはマストだと思います。アリオスはどうでしょうか。父親なのは確かですが、迷う部分が大きいでしょうか。他にはヴィクター、マテウス、母親ですがオリエ、兄貴枠ですがガイなんかも妥当だと思います。
 彼ら彼女らは大体人外じみた強さや精神的な強さから親父枠の称号を与えられている。
 とりあえず、マスト親父枠のカシウス・オズボーンを代表として考えます。

 カシウスは当時から理に至っていた。そして妻であるレナを亡くしたことについて、遊撃士としてエステルを守ると決めたカシウスの選択は恥じることではないと思いますが、それでもカシウス本人はリシャールに対して「逃げだった」と語っていた部分がありました。
 オズボーンはその魂が獅子心皇帝そのものであり、当時から軍で活躍していたこともあって強さに関しては疑いがない。そして悲運があり、イシュメルガの謀略によって妻を亡くした。そこから鋼の道を突き進んでいく。それは明言されているかはわからずとも、理と対比される《修羅》と称してもいいと思います。

修羅となることを選んだ男

・親父が親父となる軌跡を描く

 理と修羅。それぞれの素養があり、大切な人を亡くし、遺された家族や世界のために信念を持って突き進む。
 何より、私たちプレイヤーが彼らの強さを目の当たりにしているのは、それらの強さがある程度完成された後の話でした。

 グラムハート大統領は、信念を持っている。戦闘力は人外共と比べれば霞むでしょうが、それでも軍人上がりで武術も強いとは思います。
 妻であるソフィーを亡くしたことはショック極まりない。そして時系列的にいつなのかはわからないけど、このままではアニエスが喪われてしまうことも理解している。そのために動いている。
 己と他者を巻き込んで、強い信念をもって大陸規模の計画を打ち立てて、それをまさに実行する段階までやってのけた。
 ただ──その計画を成功させることはできなかった。
 理に至っていなければ、修羅に落ちることもできなかったのでしょうか。

この歓喜は、精神的な意味で最大の隙だったのかもしれない。

 と、色々考えているうちに、グラムハート大統領は、カシウスやオズボーンのような軌跡の親父たちが今まで見せることのなかった『理と修羅に至る途中の葛藤』を描いているように感じてきたのです。

 エミリアのページで書いたように、今回の《レーヴァテイン計画》は孤独が故に失敗した部分があるのではないか。もちろん共和国内においてグラムハート大統領はたくさんの協力を得てはいます。でも今回は規模が規模だけに、それだけじゃ足りないくらいの力の集積が必要なのかもしれない。

 カシウスはいつも「俺一人の力じゃないさ」と言います。事実、カシウス一人だけが強く素晴らしくても、百日戦役もクーデターもリベールの異変も解決はできない。
 オズボーンの周りには協力者がいた。それは結社のような利用した人間や猟兵のような単なる契約関係もあったけど、父の背中を追いかけて、追いつこうとして、最後までついていくとした子供たちもいました。最終的にはリィンたちすら、獅子心皇帝という父を超えるために動く部分もあった。

《主導》する。大統領、貴方の《隣》に仲間はいたのか?

 まあ、何が言いたいのかと言うと「ロイさん、貴方も裏解決屋に入りな?」ということです。
 娘を救うために、すべてを利用する。それぐらいの気概で、娘が惚れてる憎き小僧の力も利用して。

 それができてこそ、軌跡の親父枠になれるんじゃないか。
 ロイ・グラムハートは、果たして軌跡の親父になれるのか。
 カシウスやオズボーンのような生き様を、その成長過程を。プレイヤーに生き生きと伝えてほしいと思います。

6.白き夜明けは極みの一つか~ルネ・キンケイド~

・無地無色、真っ白な軌跡を持つ男

 間に立つことこそ一つの極みなり。

 黎Ⅰの発売前、ヴァン・エレイン・ルネの3人の幼馴染の情報が公開された後の考察記事で書いたタイトルです。主旨としては「裏に関わるヴァン、表に立つエレイン。ならばその中間に立つルネは、どんな目的をもってCIDにいるのかが気になる。目的もなしにCIDにいるわけじゃないだろう?」というものでした。

 その目的と《界》最終盤の彼の行動が直結しているかはまだわかりませんが、ある程度「なんかの目的はあるんだろうな」というのは証明されたように思います。

いや、だからアニエスもだけどこんな形で証明されてほしくなかったんだよ!!!

 あまりにも「正体はアニエスじゃないか」と呼ばれていた白いグレンデル。その正体はまさかのルネだった。これ、考察や予想をして当たっていた人はいたのでしょうか……。
 じゃあ、ルネはいったいどういう人間なんでしょうか。

 ルネ・キンケイド。カルバード共和国出身、中央情報省の統合分析室に所属している。幼少期は古都オラシオンでヴァン・エレインと縁を育み、思春期はアラミス高等学校にて同じく二人と再会し青春を送る。生徒会長経験。名前で呼ばれるのを嫌がる。
 女性関係は過去3人と交際があるが、どれも割合あっさりとしたもので、現在は恋人なし。
 省庁に父親が勤めており、そちらもエリートといった様子。

 ルネについてわかるのはこれくらいです。黎Ⅰ・ⅡではそれなりにCIDとしての動きだったり、あるいはヴァン・エレインとの絡みはあるんですが、考えてみればルネ個人の事情や心の内というものはびっくりするくらいに何も知らない。

そりゃ知らないよ喋ってくれないんだから!

 わかるのは、キリカも黎Ⅰで言及していたあからさまな野心くらいです。そして優秀さ故に大統領補佐官まで成り上がった。
 しかし、結局ルネは《界》の最後の最後で大統領から離反し、大統領が恐らく一番拒絶したい行動をとり……形を見ればアニエスやハミルトン博士に協力した。

 何のためにその行動をした?
 今回の行動はルネの目的の手段なのか?
 それとも今回の行動そのものがルネの目的なのか?
 ルネの正体には何か裏があるのか?
 それとも何もない、ただ共和国で生まれてオラシオンで育って幼馴染たちと友情を深めたボンボン息子なだけなのか?

 まだ、まだ、何もわかりません。
 少なくとも、ヴァンとエレインのことを友人として大事に思っていたり、ヴァンと二人してバスケしたりギターをかき鳴らすような奴ではあると言えるだけです。

・白き夜明けをもたらす獣

 そして気になるのは、白き魔装鬼《グレンデル=シャダイ》となったルネ、そして《白き夜明け》をはじめとする謎めいた言葉です。
 白き魔装鬼《グレンデル=シャダイ》はおろか、ヴァンのグレンデルそのもの、《グレンデル=アルター》《グレンデル=シン》、あるいは《グレンデル=ゾルガ》についても詳細ははっきりとしてないので、そういった考察はちょっと手が出せない部分はあるのですが。

 ルネは、いつ、どこで、どのようにこの姿を理解し、あるいは習得したのでしょうか?
 ヴァンの場合はまさに黎Ⅰの序盤にそうなる状況に遭遇し、断片的な情報を得つつも未だ核心には至っていない。
 紅の魔装鬼《グレンデル=ゾルガ》の正体は故人ディンゴ・ブラッド。彼は死の間際に後悔や罪の意識を感じ、ゲネシスに取り込まれることで意図せず魔装鬼に身を包むことになった。
 こうしてみると、今回『今作はロボではなく仮面ライダーだ』と言われるグレンデル要素は、

  • 青:主人公ヴァン:味方

  • 紅:兄貴分ディンゴ:敵

  • 白:兄貴分ルネ:敵

青・赤・白。トリコロール。英雄伝説シリーズでは《ガガープトリロジー》、空の軌跡では《白き花のマドリガル》。

 といった具合に、男同士の熱いやり取り、ライバル関係的な要素があるように感じます。
 たぶんOPムービーのせいで『アニエス=白グレンデル?』のイメージがこびりつきすぎて、誰もルネがそうだったとは発想できなかったでしょうねぇ。鉄血の勝利が予見されてたせいで『ルーファス=鉄血筆頭』と『おずぼん=リィンの父親』とは気づけなかった閃Ⅱみたいに。やるなファルコム。

 で、ヴァンもディンゴも、半強制的に魔装鬼を会得した。その後は意識的に魔装鬼を行使している。ルネも同じように意図せずその姿を得、そして意識的に7/12正午に行使したのでしょうか。
 青も紅も、今のところゲネシスまたはアルターコアが近くにある時に変身できるという描写だった。確かに、7/12正午もルネの近くにはゲネシスそしてアルターコアがありました。
 ヴァンは魔王であり、ディンゴはゲネシスに取り込まれた故人だった。ルネも、只人ではない何かを抱えているのでしょうか。

 魔装鬼の持つ力、特に戦闘力という部分については、描写的に白>紅>青という印象を受けます。青が主人公ライダーである以上仕方ないのかもしれませんが。
 ルネの行動原理を考えた時と同じく、白き魔装鬼はルネの行動目的なのでしょうか、それとも目的の手段なのでしょうか。
 謎は尽きません。
 ただし、まったくわからないというわけでもない。
 ルネの台詞のすべてを思い出すことはできないので、とりあえず二つ、印象深いものをピックアップします。

『たとえなにを捨てようとも──……のためにも』
『偽りに染められた世界は、新たなる終わりと創まりを迎える』
『人は神を殺せなかった。だが夜明けは必ず実現する』
『我は白き夜明けを齎(もたら)す獣なり』

 まず一つ目については、安直に考えれば『○○のため』の○○が行動原理だ、とは考えられる。
 そして二つ目と三つ目の台詞。これは連続して発せられた。言葉自体はこの前後の展開を考えればまあ、わかるのですが。
 夜明けという言葉は黎明とも被りますし、《A∵D》にも重なるものなので印象深いですが、作中でこの言葉を発しているのが誰だろうと考えた時、印象深く感じるのはジェフリー・バレンティノら夜明けに曖昧な希望を見出してしまったキャラ達なのです。

共和国編、モブキャラの焦点がどのシリーズトップレベルで濃く当たりますよね。アントンレベルのモブが当たり前のように跋扈しています。

 私はまだ《界》2周目の途中なので、『誰が何を言って何を言ってない』までは覚えてないのですが、でも知識を持つ人間が『A∵Dや《夜明け》について客観的に評する』台詞と、ジェフリーら迷い人が盲目的に『《夜明け》にすがる』台詞の二種類に分けた時、ルネのこの台詞は、どちらに分類すべきか迷う部分があります。

 ルネの冷静沈着さ、知識を知る者としては明らかに評する言葉でしょう。
 ただし、『夜明けは必ず実現する』にはどこか主観めいた雰囲気を感じる(のは私が疑い深いせいでしょうか?)。

 何よりも、『我は白き夜明けを齎す獣なり』なのです。これもヴァンと同じ詠唱としての言葉ですし、知る者としての冷静な言葉ですが……ルネ自身が主体となって白き夜明けをもたらす存在になっているのです。

・時代が、ルネが求めるもの

軌跡15周年イラスト《まだ見ぬ軌跡へ》、その地面にある空・零・閃を表す3つの軌跡。その軌跡の先には──

 《A∵D》に迷いすがる人間は、この世に置き所をなくしてしまって、混迷の時代の中、不安を感じ、主体性もなく迷ってしまう人間たち。
 そこにはジェフリーがいて、イクスもいるかもしれない。
 幼少期、ヴァンを助けることができず。エレインを応援し、彼女をつくってもあっさりと別れ、目的のために邁進するルネは。
 何よりも、かつてエレインにこの言葉を告げたルネは、もしかしたら。

『時代は今、新たな英雄を求めている』

 ルネは、この混迷の時代に迷い、何かを求めているのでしょうか……?

──その軌跡の先には、ヴァンの後ろ姿と、それを追うエレインに続いている。
ルネ、お前はどこにいる?


 次回がラスト考察、世界観全般についての考察になります!


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記事を最後までお読みいただきありがとうございます。 創作分析や経験談を問わず、何か誰かの糧とできるような「生きた物語」を話せればと思います。これからも、読んでいただけると嬉しいです。