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界の軌跡ヴァンルート考察~Cry for me, cry for you~

本稿はストーリーRPG《界の軌跡-Farewell, O Zemuria-》ネタバレ全開感想考察の記事の一つになります。
 《界》で語りたいことは相当に多く、単なる感想からキャラクター考察、世界観考察まで幅広くあります。
 今回はその中でも、物語の本軸である《ヴァンルート》を中心に、そこに関わる諸々を自由にあることないこと語っていこうかと思います。

《界の軌跡》の記事一覧

  1. 発売前考察(諸々勝手に妄想考察してみた記事)

  2. クリア後感想(重要なネタバレなしの感想)

  3. リィンルート感想(キャラ及びストーリー感想)

  4. ケビンルート感想(キャラ及びストーリー感想)

  5. ヴァンルート考察(キャラ及びストーリー考察)

  6. キャラクター考察(キャラの心情を中心に考察)

  7. 世界観考察(終盤の重要なことなど全開な考察)

 記事ごとに差はあれど、①②を除いては重要なネタバレが全開なので注意してください!


1.ヴァンルートの概観

 リィンルートとケビンルートの内容は、

  • エクスキャリバーの概要

  • 星空と虚空

  • 《回天》と剣仙との邂逅

  • 教会の者たちの動き

  • ハミルトン博士の動き

 が主題としてありました。それらは全てヴァンルート及び《界》の本筋に絡みますが、とはいえヴァンの視点からだけでは、(見せ方にもよるとはいえ)語りきれなかったものを語っているようにも思います。

個人的には、それぞれが主となるのではなく、ヴァン中心の要素を補足する2ルートというイメージです。

プロローグ開始から、

  • 7/8:オレド自治州での出会い。宇宙計画が想定以上に早く進む。

第1部開始

  • 7/9昼:大陸各地での不穏な行方不明者の存在。

  • 7/9夜:ヨルダの依頼、イクスの動向。《A∵D》の存在。各地の問題に、CIDが全く協力姿勢をとらないという謎が生まれる。

第2部開始

  • 7/10朝:カンパ君よりアルターコア入手。永劫回帰計画の開始の宣言。

  • 7/10昼:《残滓》という組織の発覚。

  • 7/10夜:アニエスの決意と告白。

第3部開始

  • 7/11:アンカーヴィル出張。《残滓》の調査。

  • 7/12朝:アンカーヴィル②。残滓筆頭の正体。《楔》という世界へのバグ。

最終幕

  • ・7/12正午:《終わりは創まり、創まりは終わり》。

 こうしてみると、ヴァンルートは事前にあった宇宙計画やハミルトン博士のことについては確かに関わりますが、それに対する保険である《残滓:レムナント》が起こした『あり得ない事象』『奇妙な出来事』が主題になっています。それらを解き明かす過程で、背後に宇宙計画やハミルトン博士の存在がヴァンたちに仄めかされる。プレイヤーからすればリィン・ケビン両ルートで大筋の事情は知っている。ただし情報量は多い。そしてヴァンたちにとって大事な仲間であるアニエスが突如として宇宙計画や《保険》のキーになる。

 なんというか、今回はつくづく後手に回っている気がしますね。
 最終幕、ラスボス前後の会話劇でわかる特大級のネタバレや伏線については世界観考察の記事で語るとして……
 ここでは、人物についての自由な諸々を、いつものように語っていきたいと思います(むしろこれが一番書きたかったりする!)

2.成長と《搾りカス》~アーロン&フェリ~

 今回ヴァンルートの敵としての役割を演じた《残滓》たち。残滓と書くかレムナントと書くのかは気分です。
 ハミルトン博士が宇宙計画の保険として作ったアルターコア。同じく、保険として呼び出されたレムナント。イクスは例外として、今回登場したのは全9名。
 正体が判明したのはメルキオル、ジャコモ、ラグン・カーン、ほぼ確定なのはアリオッチ、オランピア。他、軍刀使い、騎士剣使い、魔導使い、女兵士。これらの正体が判明せず、考察に熱が入っています。

こいつはさぁ……。

 そんな中でも、アーロンは《大君》ラグン・カーンとの因縁がある。それは黎Ⅰでよく言われています。
 またフェリは明らかに女兵士に関して何かを感じている。仮面の下半分が暴かれ、フェリの予想とは異なっていたようですが。

 アーロンは黎Ⅰでかなり成長したと思っています。フェリは黎Ⅰで成長に関わる甘いと、黎Ⅱで酸いを経験し、《界》の最初に色々な人から『見違えた』と言われるほどになりました。
 その二人が対決する《残滓》。言い得て妙なのかはわかりませんが、成長した二人の相手が《搾りカス》というのも、後々正体が判明したら皮肉が聞いていると言えるようになるかもしれません。

 アーロンは、ファンタジー世界としての精神の乗っ取りのようなものは別として、間違いなく《大君》との訣別はできているように思います。
 アーロンの深淵にある『暗くてぽっかりとした穴』。確かにそれは存在する。でも今、アーロンは黒月と適度な距離を保ち、東方人街の友人たちと絆を育み、そして裏解決屋の一員としての縁を持っている。
 アーロンがそのアイデンティティを揺らがせるとは思いません。

 フェリはどうでしょうか。
 クルガの民でありクルガ戦士団の猟兵としてアイデンティティを育み、しかし共和国に飛び込んだことでそれまで考えたこともなかった様々な可能性を目の当たりにした。
 アイーダを殺さなければならなかったこと。
 罪の観測によって裏解決屋を正す完成された猟兵としての記憶が刻まれたこと。
 若干十四歳にして成人と見なされ、ゼムリア一般の少女とはかけ離れた価値観で生き、酸いも甘いも経験した。

 そうした《界》において、フェリは仮面の女兵士にも臆さず、仲間と協力して仮面の一部を剥がしました。フェリが女兵士の正体をどう考えたのは定かではない。それでもしっかりと自分の役目を果たしたことは、覚悟を持って、アーロンと同じように女兵士と対峙することができているのだと思います。その意味で、やはりフェリにとっても女兵士は《搾りカス》なのではないかと思います。
※この時のエレインとの共闘は、展開としてもバトルシーンとしても最高でした。

 では、女兵士の正体とは何なのでしょうか?
 予想として妥当なのはアイーダ。あとは《界》で未来と過去がごっちゃになっているので、方々では『未来のフェリじゃないか?』という予想もありましたね。
 フェリと因縁を持つ女性なんてそのくらいしか思い当たらないので、それ以外だとしたらフィーとかアニエスとか、それこそありとあらゆる人物が候補として当てはまってしまいます。

 なので、ちょっとフェリの気持ちに立ち返って考えてみましょう。
 女兵士と裏解決屋の初邂逅は7/10昼、ディルク記念公園です。翌日7/11にアンカーヴィルにて別の《残滓》がジャコモとラグン・カーンであることが判明。さらに7/12の午前、廃墟化した市庁舎で女兵士の仮面の半分だけを砕き、同時にメルキオルの正体を突きとめました。

本っ当──にこいつはさぁ……!

 フェリは女兵士を見た時点で、他の《残滓》に対してとは別の反応を示していました。
 ラグン・カーンとジャコモという、ゲネシスと関係のある故人が出現した時点で、女兵士がアイーダである可能性は想像して然るべきではある。
 しかし、仮面の中の髪色を見てフェリが想像した人物とは明らかに異なっていたらしい。
 女兵士は銀髪。髪型は少なくとも短髪ではない。

 『未来のフェリじゃないか』という予想はあくまで神視点を持つ我々プレイヤーだけの特権なので、やはり『フェリは女兵士がアイーダであると予想していた』と考えようかと思います。

 ここで、女兵士に対するフェリの台詞が一つあります。
『貴女の戦術も、戦技も、どこか懐かしいのに、わたしは知らない』
『いったいどうして?』

 懐かしいのに、知らない。
 懐かしいは感情。知る知らないは理屈の記憶。
 感情としてフェリの体には刻まれているのに、記憶としては見たこともない、聞いたこともない。

 他の《残滓》たちの正体から、理屈としてはアイーダだろうと予想していた(という私の仮定です)。なのにどの団にも当てはまらない戦技、技術。さらには未来の技術らしきパルスレーザーなど。どうしたってアイーダには当てはまらない。
 なのに、感情レベルでは識っている。私が考察記事を書き始めた頃からしつこく語っているある法則に近いものを感じます。
 自分があるのに心に違和感を持つアーロンであったり。
 同じく、魔王の存在を感じていたヴァンであったり。

 ゼムリア世界の自分と関りがありながら、明らかにこの世界とは異質な何かを抱える人物たち。
 そもそも、《残滓》で正体が判明した人間は軒並み故人です。死者を生き返らせるのは女神の摂理に反した現象。同じレベルの現象……外の理に存在するマクバーンのような同位体か。上位次元に在る漂泊の魔王のような存在か。
 はたまた、別の世界線のフェリやアイーダか。未来のフェリやアイーダか。それとも、『もしも』のフェリやアイーダか。

 こう考えると、フェリの『記憶として知らないのに感情として体が理解している』という反応とも合致するように思えます。
 
 ところで、女兵士はこんな風にフェリに言いました。
『虚実を使い分けてこそ本物。貴女はそう習わなかったのか?』
 これは明らかにフェリの素性を理解している旨の発言に思える。『猟兵ならば、そのように習うのが当然だろう?』と。
 またこういう考察をしているから感じてしまう余計なものでもあるのですが、『貴女』は『この世界の貴女』というようにも感じる。

 また、女兵士のジャコモに対する台詞もあります。
『なぜ自分があんたの指図を? 我々には上も下も無いというのに』
 フェリならば『あんた』という言い方は考えにくい。アイーダならば『あんた』でも違和感はなさそうですが、この世界のフェリがアイーダという可能性を否定している(繰り返しますが、私個人の仮定です)。

 ただし、別世界線の、別の経験をしてきたフェリやアイーダなら? やはりあり得るかもしれません。

 この世界の裏解決屋として戦ってきたフェリを軸とすれば。成長したフェリからすれば、アイーダの残滓や別の世界線のフェリは。悪意のある言い方ですが、搾りカスには違いない。

 アーロンとフェリ。
 《残滓》たちの前に立つ二人は、何を思うのでしょうか。

3.存在証明を積み上げる~リゼット・トワイニング~

 今回、肝心なところははぐらされつつ、リゼットの出自のかなり深いところまで描かれました。

 元々、ミラベルやソーンダイクGMが大陸中北部で見つけた生命維持装置の中にいた。その時、リゼットはほぼ脳と中枢神経だけだった(現実に照らし合わせればほぼ脳と脊髄だけなのでしょう)。
 そしてその生命維持装置には『七耀歴1259年 アンカーヴィル』とあった。

 かつ、メメントオーブでは明らかにリゼットらしき少女が、魔獣の肉すら貴重となるような荒廃した世界で生活する情景もあります。
 かと思えば、《残滓》が使役するエグゼキューターに対して異常なトラウマ反応を示すリゼットがいる。

 これらの情報を統合すれば、『リゼットは1209年を起点として50年後の未来世界の住人で、荒廃した世界で未来技術のエグゼキューターが何某かの理由で暴走して、その後体を損傷したが生命維持装置によって生き永らえ、《現在》に至る』というのが予想されます。
 ただ、世界観考察の記事で書くかもしれませんが、リゼット及び生命維持装置が《現在》より過去なのか未来なのか、それとも『もしも』なのかについては議論が分かれるような気はします。

 ともかく、事実として『リゼットはこの時代の人間ではなかった』というのが明らかになりました。


この類の言葉は……別の人も言っていましたよね。

 黎Ⅰの発売前考察では、「リゼットの誇りはなんなのか?」という感じの考察をしていました。その後、黎Ⅰプレイ後に「機械存在に自分の精神をゆだねる者」としての考察(というより感想)を書きました。
 機械存在にせよ、異なる時代の異邦人にせよ、どちらにしてもそのアイデンティティの確立は筆舌にしがたいものがあると思っています。

 こうしてみると、

  • フェリ:クルガの伝承

  • アーロン:大君の存在

  • リゼット:異時代の技術

  • ジュディス:コンパクトの謂れ

  • カトル:ハミルトン門下の立場と星への姿勢

  • ベルガルド:教会勢としての真理の知識

  • アニエス:エンディングの出来事

 と、裏解決屋8名の大半がエンディングの出来事にまつわる因縁があるとも思えます。
 《界》まで、裏解決屋は大統領、結社、教会、ハミルトンらのどの勢力よりも情報も知らず、後手に回り、そして部外者でしかなかった。最終幕だってアニエスの件がなければ最後の最後まで蚊帳の外だったかもしれない。考えてみると、裏解決屋ってコネはともかく組織としての規模は一番小さいですね。

 しかし、上に挙げたようにほぼ全員が何かしらの形で当事者になりえそうです。なかでもリゼットは、リゼットほど当事者と言える人間は、アニエスを除けばいないかもしれません。
 共和国編3作目にして正体が判明しかけている、リゼット・トワイニング。
 混迷の時代において、酸いも甘いも知るが故の誇りを持っていた彼女は、新たにどんな誇りや希望を掲げることになるのでしょうか。

4.仮初の強さ~アニエス・クローデル~

 ヴァンとアニエス。主人公とヒロイン。黎Ⅰの感想考察で好き勝手に語ったのと同様。今回も喋りたいことがたくさんあります。

 《界》は、まさしくアニエスを中心とした物語でした。宇宙計画という骨子はありつつ、その裏で進むハミルトン博士の計画の真実を知るアニエス。その計画の壮大さ、責任の重さ、仲間や愛する人への想いというものがあって語ることはできず、一時は囚われの身になり、最後には犠牲となってすべてを救おうと動く。
 まさにヒロインです。というか、軌跡シリーズでここまでヒロイン属性高めの行動をとっていた人ってほとんどいなかったのでは……キーアとか、ヨシュアとか、ミリアムとか、そのくらいなんじゃないかとも思います。
 と、アニエスの行動を振り返ると、黎Ⅰのクリア後の考察での自分の言葉を思い出します。

 それでも、そんな過酷な旅路を前にして恐れ戦いても、彼女がいう通り『向き合う』ことから逃げなかったのは、ひとえに彼女の精神性がある意味では一つの方向性に完成されたものであったからなのではないか、と思います。

 ある種アニエスは、曾祖父の物の見方という価値観を、寂しさの埋め合わせとして自身の中核に取り込んだのかもしれません。だからこそ時として不自然なほどに強く、手記の最後の一文に報いるために動き続ける強さを持っている
 それはまだ、自分の本質となりえていない危うさもあるかもしれない。ですがこの旅を通して、ヴァンの背中を追うことでアニエスは少しずつそれを本当の意味で自分のものとしている。
 まだまだ続く共和国の苦難。混迷の王制末期に旗を振ったシーナ・ディルクのように、終わる世界で光を照らす存在になるかもしれない。黎明の象徴たるヴァンに、朝焼けの景色を見せてくれるかもしれません。

夜明け空に還る魂の彩~英雄伝説 黎の軌跡②~

 いや、こんなきれいな朝焼けは見たくなかったです……

朝だと思ったら夜だったみたいな。と思ったらVRだったみたいな。

 現状、主人公ヴァンの陣営である裏解決屋は、すべてにおいて後手に回っている。知らない情報も多く、大統領やハミルトン博士の計画を思考停止して非難することはできない。
 それでも、今回のアニエスの行動はある意味での逃げであり、ある意味での弱さからくるものなんじゃないかと、軌跡シリーズをプレイしてきた身としては感じるものがあります。

 エステルがあの場所にいたら、軍事クーデターでリシャールを諭したように「わけのわからない古代の力より、みんなと力を合わせたほうがいい」と叫ぶかもしれません。
 ロイドが真実を知ったら、キーアと重ねてアニエスだけに責任を押し付けることの危うさを説くかもしれません。

主人公たち

 もっと相談はできなかったのか。自分を大事にしてくれ。
 黎Ⅰ・Ⅱでヴァンに対して言ったアニエスが語った言葉を、そっくりそのまま返してやりたくなります。
 まあ、事が一国のクーデターか世界滅亡の危機か、とか比較しきれない部分はありますけど。

 逆にヴァンが今回のアニエスのような状況に陥ったら、アニエスは絶対にヴァンを救いに動く。説得できるかどうか、引き留めが成功するかどうかは関係ない。それこそ、今回ヴァンたち裏解決屋が大統領の元へ突貫したように。
 アニエスという少女の実力に見合うあがきかどうかは関係なく、必ず身を粉にして動くでしょう。黎Ⅰ序章、アルマータマフィアからヴァンをかばったように。

 初登場時から、アニエスは向こう見ずに身を犠牲にして誰かを救おうとする傾向がありますから。

ここまで言ってのけるアニエスと弱いと評するのも違うとは思いますが……

 アニエスの強さには、しなやかさがなかったのかもしれない。高潔な精神と慈愛の心は、たしかに完璧なほどに美しい。けど、その根源はなんなのか。何故その精神と心を持ったのか。
 それはC・エプスタインの手記によるものであり、母親が亡くなって父親が遠のいて、そうして早くに精神的に自立しなければならない故のものだった。
 その強さには、固さがあってもしなやかさがない。自分よりも恐ろしく固い外力が衝突すれば、簡単に折れてしまう。

 今回のアニエスの選択は、まさに強く見えて実際は固いだけの心がぽっきりと折れてしまった状態のように感じます。
 もちろんヴァンたち裏解決屋に今回のことを相談すれば、間違いなくアニエスを止める方向で動く。それでも、話し合うことで別の結果につながる可能性だってあるかもしれない。ヴァンたちが事態を好転させる裏道を見つけるか、それとも他の結論になるかはわかりませんが。

 ただ、本当にヴァンたちが大事なら。自分が大事に想われていて。自分が何も言わずにいなくなることが、生き死にと同じくらいの喪失感をもたらしてしまうという重大な事実から背を向けてはほしくない。

 それでもそして本当の意味での強さだったら(本当の強さなんてものを決めつけてしまうのもよくないけど)、ヴァンへの未練を振り払うための告白にはならなかったかもしれない。ちゃんと、時を見計らって(若干17歳の少女に別離の前に告白することを許さないなんてひどすぎるけど)逃げではない告白になっていたかもしれない。

何のための告白か。

 やっぱり、アニエスの仮初の強さが仇になってしまった告白に感じるのです。まるで、グランセル城の屋上庭園で、別れのために、懺悔のために、逃げのために、エステルを縛り付けるような形での告白をしてしまったヨシュアのように。

5.私のために、貴方のために~ヴァン・アークライド~

 アニエスの選択を見届けて、いくつか思ったことがありました。
 別の記事で《界》は色々な意味で《空の軌跡》との繋がりを感じた、と書きました。それは『星空が偽物で、そんな星の在り処を探しに行くリィン』とか、『過去の出来事やリースとの関係性やルフィナとの縁が描かれるケビン』とかもありますが、『ヴァンという主人公の描かれ方』にも感じるところがあったのです。

 『同じ打ち切りエンドではあるけれど、閃Ⅰ・閃Ⅲとは違って空FCみたいにプレイ後の感覚に嫌な気分がなかった』というのも書きました。
 ゼムリアの軌跡の主人公は、外伝も含めると、エステル、ケビン、ロイド、リィン、ルーファス、ヴァンです。
 エステルとロイドは太陽・熱血漢といった、時に悩むことはあっても基本的にその輝きと熱で仲間や人々を救ってきた。それと比べ、今作《界》に登場した主人公勢は全員、成長したとはいえ基本的に自己犠牲の精神が目立つ馬鹿者(誉め言葉)ばかりでした。

無事に軌跡の《馬鹿者》の仲間入りを果たしたアニエス。

 ヴァンは、黎Ⅰの時はリィンと同じように自己犠牲を選択した。
 リィンは、閃Ⅳでは彼自身を取り戻す話もあった。
 ルーファスはバベル事件の最後の最後で自分を犠牲にした。
 ケビンは言わずもがな。煉獄を見ればその凄惨な過去がある。

 今回、「まるで主人公みたいだ」と言われていたアニエスがヒロインとなり、初めてヴァンがアニエスという独りよがりなヒロインを取り戻す動機と状況ができたように感じます。
 ヒロインが遠くへ行くことで物語が終わる。絶対にヒロインを取り戻してやる。その気概が主人公であるヴァンと、そしてプレイヤーに等しく与えられる(もちろん意気消沈したプレイヤーも多いとは思いますが)。
 ここに、原点《空の軌跡FC》を感じたのです。

こっちも楽しみですね。

碧の軌跡でロイドたちがキーアというヒロインを連れ戻したように。
 空の軌跡SCでエステルがヨシュアを光に連れ戻したように。
 ヴァンは、裏解決屋は、きっとアニエスのために動くでしょう。というか動かなかったら文句言ってやる。

 ただ、アニエスの項目で書いているように、今回は事件の規模があり得ないくらいでかい。アニエスが遠くへ行ったとて、リベールのどこかに消えて行動目的も多少は予想できるヨシュアとはわけが違う。詳細がわからないので確定はできませんが、もはやゼムリアの次元から消失した、もしくは関係者からアニエスの記憶すら消えてしまった可能性もあります。

 ヨシュアを取り戻したエステルのようにはいかない。また、アニエスと再会したって、エステルと同じような説得はできないかもしれない。ヴァンはアニエスのことを恋愛対象としては拒絶した。「ヨシュアを好きだ、大切だ、私がヨシュアの背中を守る」と誓ったエステルと同じ方法ではできない。

 でも、軌跡は英雄伝説。多くの人の連なりがあって、1本1本のか細い糸を束ねて、大きな一つとなって強大な敵に立ち向かう、1人1人が英雄の物語です。

 ヴァンは一人じゃない。裏解決屋の仲間がいる。
 そして、同じように大切な人を取り戻し、また連れ戻されてきた経験者がいる。

 閃と創の軌跡の果て、仲間に助けられ、アニエスのような自己犠牲の選択ではなく、「大切な人を幸せにしたいなら、まず俺が幸せにならなきゃいけないんだ」と語ることができたリィンがいます。
外法狩りという過酷な道に「俺は俺を少しだけ許せるようになった」と語り、ルフィナが目指してたどり着けなかった場所を前に、アニエスのようにたった一人で思い詰めるのではなく「リースと二人でたどり着いて見せる」と誓ったケビンがいます。

連なる軌跡

 彼らの力を借りて、持てる力のすべてを持って、醜くもがいて、表も裏も、上位次元も漂泊の魔王の力も結社も教会すらも、すべてを巻き込んで。
 軌跡シリーズ後半の主人公として、しっかりアニエスというヒロインを救ってほしいと思います。

その他の感想考察も、お読みいただければ幸いです!

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記事を最後までお読みいただきありがとうございます。 創作分析や経験談を問わず、何か誰かの糧とできるような「生きた物語」を話せればと思います。これからも、読んでいただけると嬉しいです。