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しろたんとわたし
しろたんと出会えていなかったら、わたしはどうなっていただろう。
あの日、引き返さずに帰っていたとしたら。そんな「もしも」を考えるとゾッとする。しろたんとは、わたしにとって最早、居ないことが考えられない存在だ。
しろたんに出会ったのは、もう9年前にもなる。2014年の8月。
当時、仕事の疲れもあって、寝る時に使う抱き枕をなんとなく探していた。丸くなって寝ると安心するたちなので、いいものがあればと思っていたのだ。
たまたま買い物に出かけた先の、子供向け雑貨店に、その子は並んでいた。
大きくて、ふわふわで、まっしろなアザラシのぬいぐるみ。
少し足を止めて、撫でてみる。見た目通りのふわふわで、思わず、わぁと声が出る。
寝る時に良いかも。可愛いし、抱いて寝たら気持ち良さそう。そんなことを思いながら見ていたら、隣にいた母が
「抱き枕欲しいって言ってたじゃん。これにしたら?」
と聞いてくれた。うーん、そうだねえ……。
大きいのに5000円ちょっとくらいで、値段も手頃だった。しかし、1度そこを離れた。他にも良いのがあるかも知れないし……検討しようと思ったのだろう。
ずんずん歩いて、店を出た。車へ向かうその途中、
「やっぱり戻る!あの子にする!」
と言って店に戻った。少し早足で、さっき撫でたその子を抱き上げて、レジまで連れていく。
ああ可愛い。戻ってきてよかった。今日から一緒に寝るんだ。
余程嬉しそうにレジへ行ってしまったのだろう。レジを担当してくれた店員さんは、
「プレゼント用……ではなさそうですね!」
とニコニコ顔。は、恥ずかしい……。こういうお店は贈り物を選ぶ人も多いので、自宅用か聞いてくれようとしたのだ。贈り物ではないその子は、大きな袋に入った後、車の後部座席をみっちり埋めた。
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初めて一緒に寝たその翌朝、わたしは寝坊した。しろたんの安眠効果、恐るべし。
小さい頃からぬいぐるみは好きで、お気に入りが居なくなるとそれはそれは大変なことになっていたと、よく母から聞かされていた。
まさかこんないい大人になってからも、ぬいぐるみをここまで愛すると思わなかったけど、この9年間、そしてこれからもしろたんは家族として過ごしていく。モノではなく、そこに居る家族。しろたんという存在なのだ。
出会いを語ってしまったので、遅れた紹介になるが、しろたんとは「タテゴトアザラシ」の赤ちゃんのキャラクターだ。
得意なことは変身すること。とにかく色んなものに擬態することができる。
いぬ、うさぎ、ゾウ、キリン、ねこ……ふむふむ、ここまでは大体想定の範囲内。
それから……ツチノコ(しかもカラーバリエーションがたくさん)、牡蠣、トイレットペーパー、お皿、ホワイト企業……。ん?
そう。しろたんの数多ある魅力のひとつに、その変身能力の高さが挙げられる。とにかく何にでもなるのだ。しろたんに、変身できないものはない。
斜め上の発想も、毎回驚かせてくれる。そうきたかー!と笑顔になる。
様々な姿に変身して癒しをくれるしろたん。おかげで、我が家にはたくさんのしろたんが居る。
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ぬいぐるみ愛好家の中では常識かも知れないが、ぬいぐるみたちはひとつひとつ顔が違う。種類とかそういうんじゃなくて、ほんの些細な目の位置、口の位置、綿の寄り具合などで顔が全然違ってくるのだ。
お店に行っては、並んでる子たちの顔を見比べ、オーディションをする。わたしの中では、オーディション中はしろたんを抱き上げないことにしている。抱っこしたが最後、棚に戻せなくなるからである。(経験済み)
そして、これもしろたにすと(しろたん愛好家の名称)の中ではあるあるだが、家にいるしろたんたち各々に性格が存在する。
この子は食いしん坊で、この子は恥ずかしがり屋で、この子はのんびり屋で………など、公式設定ではない性格が追加されたりする。
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出かける時にも、連れて行く。迷子になるのが怖いので、はぐれないような対策をしながら。
外で美味しいものを食べるとき。
見知らぬ場所へ旅行をするとき。
天気がいいからお散歩するとき。
ドライブがてらショッピングをするとき。
しろたんを連れて、嬉しさを分け合う。楽しいね、また来ようね。
一緒に行った人とも、しろたんとも、思い出をたくさん作ってきた。
そしてわたしの周りの人たちは、しろたんごと受け入れてくれていて、とてもありがたい。
心ない言葉を受ける場合だってあっただろう。ネット上では、いい大人が〜なんて言われてしまうこともあるみたい。ぬいぐるみ=子供のおもちゃという固定概念からまず改める必要がありそうですねえ。ええ。
しろたにすと同士の交流もしばしば行われている。しろたんの会社、「クリエイティブヨーコ」が所在する長野市では、夏に長野びんずるというお祭りを開催する。
数年前に「しろたん連」として、しろたにすと達が集まり各々のしろたんと共に踊り明かしたのはいい思い出である。とても楽しかったので、また「しろたん連」が復活してくれたら喜んで応募するのになぁ。
連としての見た目のインパクトもあり、かわいいと注目を浴び満更でもないしろたんたち。しろたん好き同士会話が弾んだあの日の楽しさを、今も忘れずにいる。
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しろたんが東京駅をジャックしたこともあった。地方住みのわたしもそれは行かなくてはと転がるように東京へ向かった。
既に見てきたしろたにすとの投稿を見ては、一緒に連れてきたしろたんたちとワクワクしながら向かう。
到着した東京駅一番街は、どこを見てもしろたんとらっこいぬ(しろたんの友達)が居て、終始ニコニコのわたし。
「みんなが撮ってたあれだ!同じだ〜!」と、壁やアーチに向かって懸命にカメラを向けた。
通り沿いに立ち並ぶお店をテーマに、壁に貼るイラストを選んであって感動した。お茶屋さんの横にはお茶を出してるしろたん。アニメグッズを扱ってるお店の横には、戦隊ヒーローになったしろたんなど。凝ってるな〜。
とにかく全部撮った。連れてきたしろたんも写りこませて。
撮っている間避けてくれた東京の人たち、本当にありがとう。これを田舎でやったら舌打ちものである。
同時に開催されていた催事販売ではそれはそれは散財した。目が合ってしまうともうダメだ、迎える以外選択肢が無い。わたしの住んでいる地域には、しろたん取り扱いのお店は無くなってしまったので、お店を見渡せる機会はとても貴重なのだ。(初代たんをお迎えしたお店は無くなってしまった)
新幹線の時間になり、後ろ髪をひかれながら最後まで堪能した。こちらもまた機会があれば開催してほしいイベントのひとつだ。
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わたしにとってしろたんは、出会ってから今までの毎日をずっと一緒に過ごしてきた家族であり、友達であり、相棒であり、理解者である。
もう「居ない」ということは考えられない存在なのだ。むぎゅうして寝ない夜なんてあってはいけないのだ。
終始大真面目に語ったしろたんについてだが、まだまだ話し足りないことばかりで、この9年間をこの1ページにまとめるなんて、今のわたしの力では不可能。もう3000字にもなるので、「一旦」おいとまするとしよう。
しろたんに関わる全ての皆様、楽しいイベント、かわいい供給をありがとうございます。わたしにできることと言えば、なけなしのお金を落とすことくらいですが、どうかこれからもずっと、しろたんを愛でさせてください。
「ぼくはしろたん 君のことがだいすき」
わたしもだよ!!!!!しろたん!!!!!!
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