本日のウニ:バフンウニ⑬後期原腸胚
受精後30時間の後期原腸胚です。バフンウニでは、初期・中期原腸胚の時にまっすぐ伸び始めた原腸が、後期原腸胚期にかけてそのまま体の前端部(図の上側)に到達します。一方、世界のウニ研究の中で最初にゲノムを読まれ、最も多くの研究者が用いているアメリカムラサキウニStrongylocentrotus purpuratusでは、原腸は体の前端部に達することなく、将来の口が開く場所に向かってそのまま伸びていきます。そのため、ここで示した”後期原腸胚”というステージを決めるのはなかなか簡単ではありませんし、実際あまりカテゴライズされていない印象です。私自身、カナダとアメリカでポスドクをしていた時、S. purpuratusを用いていて、後期原腸胚のサンプリングをしたくても、いつがそのステージなのか最初はよくわからなく困った経験があります。結果的にバフンウニで抱いていた後期原腸胚の印象に一致するものがS. purpuratusにはなかったということです。原腸が伸びる方向が実は種ごと違うというのは、異なった種類のウニを用いることで初めて気づくものであり、同じような遺伝子セットで同じような形態をしている2種が、異なる原腸陥入の様式を取るというのは興味深い解析対象だと思います。
前の記事の原腸胚よりも、原腸の長さがだいぶ長くなっていることに気づかれると思いますが、この伸長には細胞分裂を伴わないという特徴があります。これは収斂伸長(しゅうれんしんちょう)convergent extension と呼ばれます。(が、”しゅうれん”という日本語が日本語なのに全然ピンとこないのですよ)ようは、狭い範囲に収束してさらに各細胞が伸びることで細胞分裂を伴わずに、距離というか体積を稼ぐような仕組みです。ウニだけでなく、我々ヒトを含む脊椎動物においても原腸形成時にはこの収斂伸長が生じていると言われています。大学院生時代に原腸形成時の細胞分裂の程度をしらべたのですが、原腸の細胞もまったく分裂しないわけではないと言える程度には分裂している様子が観察されました。この辺の結果もいつかまとめることができるかもしれません。