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悪名高き国境
2024/11/4
モーリタニア11日目、午前8時半。
親切な宿のオーナーに車でバス乗り場まで送ってもらい、私とコバ君はセネガルとの国境まで向かう。
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わりと駆け足での滞在だったが、振り返ると入国時から今に至るまで、モーリタニアの人達からは親切を受けっぱなしだった。
たしかに親切な人はどの国にもいる。
私も今まで数え切れない程お世話になってきた。
しかし、ここまで優しさのみだった国。
有り体にいうと「全く嫌な人と出会わなかった国」は珍しい。
わざわざ日記に書くまでもない些細な事。
例えば高額な値段を吹っ掛けてきたり、嘘や不快な言葉でからかってきたり、そういった事は多かれ少なかれ何処にでもあったのだが。
モーリタニア人は本当に親切で正直。そして信仰心が高い。
それが私の印象だ。
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そのはずなのに…これから向かう国境では、聞けば聞くほど悪い話しか出てこない。
『……まぁ、行ってみるしかないよな』
特に緊張するでもなく、それでいて少し興奮状態だった私は約4時間の乗車中ほぼ寝られずに国境へ到着。
閑散とした果ての地にポツンと門があるだけかと思いきや、意外にもそこは賑やかな村だった。
減速し始めたバスが中に入ると、数人の男達が血気盛んな様子で走り寄ってくる。
『おー、すごいっすね』
数十ヶ国、それこそ陸路の国境だって数え切れないほど越えてきた私とコバ君はそう口を揃え、バスを降りた。
『基本、全無視でいきましょう』
『ですね』
私達はタクシー乗車や物を売りつけようと群がる輩を振り切ると、その村の端に構えられたモーリタニア側の出入国ゲートへ徒歩で向かう。
いや、その前にセネガル現地通貨を確保しておきたい。コバ君がゲート前に“たむろ”する両替商と交渉し始めた。
所謂、彼らは闇両替だ。
別に此処に限った話ではなく、可笑しい表現だが各国にわりと当たり前に存在していて、時には正規の両替店より良いレートで交換してくれる。
しかし、やはり一筋縄ではいかない。
「その値段では無理だ、俺にも生活がある」
など色々な理由をつけて相手はゴネる。
それ自体はある種ビジネス交渉としては間違っていないが、コバ君も引かず、最終的に双方妥協し合った金額で成立。
それに続いて私も両替を済ませた。セネガル側の国境がどんな状況かわからないが、まずまず悪くない、今のうちに済ませて正解だったように思う。
ようやく国境ゲートへ到着。
そこで警官の服を着た男達が数人、やや高圧的な態度で「パスポートを渡せ」と近づいてきた。
これも予め聞いていた情報通り。安易に渡すと、それを人質ならぬ“モノ質”にして追い込み「早く国境を通過したければ」と賄賂を要求してくるのだ。
しかし、どうやらその男達は本物の警察官にも見える。もちろん何処かでパスポートを渡し、出国の手続きをしなければならないのだが、いつ、誰に…。その判断が難しい。
「もし偽物だったら、国境ゲートの先までは追いかけてこないんじゃないですか?」
私はコバ君にそう言い、群がる“自称警察官”を無視し、強引にゲートを通過しようとする。それを見るや、男達は私に掴みかかり
「出て行け!」
と強引に押し戻した。
その際、バックパックのカバーとサンダルを入れた袋が破れてしまい、その落ちたサンダルを拾い上げた1人の自称警官が私にそれを受け取るように促す。
……どうやら彼らは本物だったようだ。だからといって安心かどうかは別の話なのだが、本当に此処でパスポートを提示しなければならないらしい。
仕方無く私達はパスポートを見せ(とはいえ、渡しはしない)その写真を撮らせる。
そうしてひとまず解放され、ゲートを通過すると一軒の小屋が建てられていた。今度こそ此処でパスポートを提示し、モーリタニア出国のスタンプを押してもらうらしい。予め情報を集めてくれたコバ君がいてくれたからこそ、そう判断できるが、本当に…疑い出したらキリが無い…。それに、だったら先程撮られたパスポート写真の件は何だったのか…。此処で撮ってスタンプ押したら良いじゃないか…。
ぐだぐだぐだぐだ、コレをここまで読むのも疲れるでしょう?
そうなんですよ、ホントぐだぐだぐだぐだと、無駄で効率の悪い流れのやり取りが既に1時間以上も続いているんです。もしもの時は賄賂で渡してやろうと思って持ってきたバナナもドロドロに溶ける炎天下の中で。
あ、まだこの時点で出国すらできていませんからね。この後、さらに入国審査が待っています…。
と、こんな無駄に長い文章を敢えて書くのは、それだけ出国スタンプを押す作業が遅過ぎる事を伝えたいが為。
本当に、何故そこまで時間が掛かるのか全く理解できない。荷物検査も指紋も顔写真撮影も目視本人確認も質問も何も無く、ただスタンプを押すだけのはずなのに…。
一列になど並ぶわけもない人集りを押しのけ、手を伸ばし、無理やりパスポートを渡してからはひたすら待ち続ける。どのくらい待っただろうか、1時間?いや、もっとかな?
…ようやく1人、そしてもう1人とパスポートが返却され始め、私とコバ君も何とか無事にスタンプを押してもらい、前方を見やる。
そこには川が流れており、どうやら渡った先がセネガルのようだ。
今にも沈みそうな木製の小型ボートが、これまた沈みそうなほど荷物と人を乗せてトロトロと走っていく。
川岸に着くまでも「こっちのボートに乗れ!」と、何人もの客引きが声を掛けてくる。
値段を聞くと、調べていた情報の5倍の料金だ。ボッタクるにしても、もう少し上手くやれないのだろうか。
渡し船は沢山ある。そのボッタクリを次々と断り、川沿いを歩くと、その様子を見ていたのか、1台のボートが予定通りの金額を提示してきた。
1人1,000CFA(約250円)。私達はボートに乗り込み、2人分をまとめて払おうと私は5,000CFA札をスタッフに見せた。
しかし、どうやらお釣りを持っていないらしい。いや、他の乗船客が何人も乗っていながら、そんなはずはない。
「まず先に、その5,000CFAを渡せ」
そう言うスタッフを断り
「お前がまず釣り銭を見せろ、先にそれを渡さなければ俺は金を払わない」
ボートに乗ってしまえばこちらが有利だ。
舌打ちしながらスタッフは3,000CFAを渡し、私の5,000CFAをもぎ取った。
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ブルン、ブルン。
なんとも頼りない、文字通り取ってつけた様なエンジンを積んだ木製ボートは、草刈機よりも控えめな音を立て、およそ数百メートル先の対岸を目指し進み始める。
ブルン、ブルン。
ブルン、ブルン。
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…ブルン、ブル……ブル…ン……。
ここでエンジンが故障
『……こんなの日常茶飯事なんだろ?』
暑さと無駄に長い待ち時間にぐったりしていた私は特に驚きもせず、ぼーっと対岸を見つめる。
しかし同乗の現地民達は心配そうな様子だ。かといって、もうどうしようもない。
スタッフが、それこそ草刈機さながらのエンジンに取り付けられた紐をグイッと何度も引き、稼働を試みる。何度も何度も…。
……そして再び動き出したボートは、ブルン、ブルンとやはり頼りない音を鳴らし、まるで漂流するかの様に対岸へ到着。
えーっと…今から入国審査ですよ。
この無駄に長く面白くもない駄文をここまで読んでくれてる人いるんですかね。
すみませんね…そしてありがとうございます。
…まだ文章は続きます…。
「メルシー」
なんだかんだで仕事をしてくれたスタッフに御礼を告げ、さぁ!とボートから身を乗り出すやいなや、待ち構えていた屈強な男。
「パスポートを出せ!」
と高圧的に声をかけてくる。男は警察らしき制服を着ていた。
そして私のパスポートを取り上げると、何の説明も無しに歩いていく。
返せ!と言わんばかりに、私はその男の手に握られたパスポートを引っ張ると男は、おそらくフランス語で怒声を私に浴びせた。
「タムラさん、その人はたぶん本物の警察です。だから、あまり刺激しない方がいいと思います」
コバ君がすかさずフォローを入れてくれる。
彼は入念に国境の詳細を調べてくれていたので、セネガル入国側はそこまでトラブルが多くない事を知っていたのだ。
その通り、軽い皮肉を言われたくらいで審査は問題無く通過し、いよいよ、いよいよセネガルに入国…!
何だかんだと色々あったが、終わってみれば思ったほど悪質ではなかった気もする。
いやたしかに、その感覚がおかしいとも思うし、私とコバ君は既に経験がそれなりに有るからいえることだ。
そしてもちろんコバ君と2人だったこと、また彼が事前にしっかり情報を集めてくれたからこそだが。
本当にコバ君に感謝。
その後は、今までのやり取りが嘘のように平和な世界だった。
国境から街に行くシェアタクシー乗り場では、幾つかの売店もあり、そこで佇む現地民が郷土料理のチェブジェンを囲んでいる。
それを見て私達が盛り上がっていると
「食べて行きなさい」とお裾分けしてくれたりも。
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それから1時間半ほどでセネガル最初の街、サンルイに到着。
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チェブジェン
この料理は優しくてコクもあり
食べ飽きしない美味さ
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労いと御祝いの記念撮影
やはり仲間と一緒だと
国境の面倒事も楽しく乗り越えられた
明日はサンルイ市内を巡る予定。
セネガルでは何が起こるだろう、楽しみだ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございますございます。
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