アンタルヤ最後の夜
2023/12/4
毎朝毎晩、ネコを愛でる生活。
それも今日で終わりだ。
私は今夜、6日間お世話になったチャーダスさんの家そしてアンタルヤを離れ、トルコ第3都市イズミルに向かう。
それに先駆け、まずはディランとお別れ。
時刻12:00。
彼はヒッチハイクで此処から約300km離れたコンヤを目指す。
私も2週間近く滞在した街だ。
フランス人のディランは母国語は勿論、英語も完璧に使いこなし、加えて常に明るくユーモアのある好青年。
何処に行っても、どんな状況でも笑顔を保てる強さがある。
そう思わせる男だった。
玄関先で見送る私達を最後までジョークで笑わせてくれた後、彼はバックパックに“KONYA”と書かれた段ボール紙を挟み、颯爽と出て行った。
ヒッチハイク成功と、今後の安全を願う。
私のバス出発は23:00。
「ギリギリまで居て良いよ」
とチャーダスさんが言ってくれたので有り難く厚意に預かり、荷物を置いて散歩する。
出発前に街で食事しよう
その間、路上ミュージシャンの前にあるベンチに座る。
彼はジャンベを鳴らしつつ此方を見ている。
私は応える様に木製のベンチを手で叩き、リズムを取った。
すると彼は突然演奏を止め
「こっちに来い」
と手招き。
そしてジャンベを私に託した。
思いがけずバスキングをする事になり、頭にあるフレーズを鳴らすと、未就学児ほどの子供が2人、目の前で踊り始める。
それを見た母親がチップを入れてくれる。
路上ミュージシャンはピアニカで私と共演し、いつしか周りには10人ほどの観客が。
数分間の即興演奏を終えると
「bravo!」
そして大きな拍手。
いやもしかすると、さほど大きくはなかったのかも知れない。
だが
『海外でバスキングしよう』
とバックパックにずっと忍び込ませたままのドラムスティック…。
少なくとも私には忘れられない歓声だった。
時刻19:30。
チャーダスさんと合流し、彼おすすめのケバブ料理店へ。
会話を楽しみつつ食事を終え、帰宅してシャワーを浴びさせてもらう。
時刻は21:00。
いよいよ出発時間が近づいてきた。
と、そこに玄関から聞き覚えのある声が。
ディラン!
実は彼が戻ってくる事は既にチャーダスさんから聞いていた。
コンヤへのヒッチハイクを明日、再挑戦するからと。
しかし私の出発前に来るとは思っていなかったので、結果的にはサプライズだ。
ディランはやはり明るく、車が止まってくれなかった事などまるで気にしていなかった。
むしろ、その状況を楽しんでさえいる。
そんな様子を見て、私は思った。
『彼の旅は素晴らしいものになる』
再会したばかりのディランとも話したかったが、そろそろ私は出発しなければならない。
握手とハグ、笑顔で挨拶。
再会を願いつつ。
そしてチャーダスさんにバスターミナルまで送ってもらう。
徒歩だと50分かかる距離も、バイクだとあっという間だ。
時刻22:00。
またアンタルヤに来たら訪ねてよ
何とも嬉しい一言。
元々は一日だけ泊めてもらう予定が、終わってみると6日間もお世話になった。
その間タカシさんと3人で盛り上がった夜、観光地と美味しいトルコ料理。
バーや英会話の集会、そしてハイキング。
彼の厚意が無ければディランとも出会えることはなかった。
「テシェキュレール」
トルコ語で“ありがとう”を意味する言葉で御礼を伝え、ハグをする。
チャーダスさんも
「アリガトウゴザイマス」
と日本語で応えてくださり、合掌のポーズ。
そして彼は再びバイクで走り去って行った。
私は姿が見えなくなるまで手を振り、その後も残る余韻を噛みしめ、やがて冷える体に、迫る出発時間を思い出し、夜行バスに乗り込んだ。
次はトルコ有数の大都市
イズミル
今度は何が起きるだろうか