イスラム神秘主義とパレスチナ開放デモ
2023/11/4
いやぁ…
太ったな…
さて今回の街、コンヤに来た唯一にして最大の目的。
それはイスラム神秘主義“メヴラーナ教団”の儀式を見ることだ。
“セマー”と呼ばれるその儀式は、スカートを履いた信者が音楽に合わせ、ひたすらクルクルと回転する事でトランス状態になり、神との合一を求めるというもの。
コンヤはそのセマー発祥の地であり、総本山なのだ。
ちなみに今は宗教行為としては禁じられているので、伝統文化のショーとして公演され、世界無形文化遺産にも登録されている。
時刻15:00。
セマー開園時間に合わせ、遅めの外出。
時刻16:30。
予定より少し早めに到着。
開場まで時間があるので外で待つ。
が、何か様子がおかしい。
この場に東洋人は私だけ。
日本人と答えると皆、親切にしてくれる。
「トルコと日本は友好国だから」と。
それも一つだと思うが、イスラム教の教えには「旅人をもてなす心を持ちなさい」というものがあるらしい。
元々は旅人=巡礼者だったわけだが、今では旅行者も歓迎してくれる。
私もこれまで幾つもの恩恵を受けてきた。
その中で一人、隣に座った男性と翻訳アプリを使い、トルコ語で会話。
「何故ここに来たんですか?」
「セマーという、メヴラーナ教の儀式を見にきました」
男性は私から目を逸らし、少し考えた顔つきをしながら、再び翻訳した文字を見せる。
「今からパレスチナ開放の集会が開かれる」
「私はその護送で来ました」
急にほとばしる緊張感
さっき見た、子供の行進はこの事か
合点がいくと同時に、そうとは知らず観光で来てしまった私の沈んだ表情を見て察したのか、彼は温かいチャイを渡してくれた。
そして少しだけ笑顔を見せて去って行った。
時刻19:00。そろそろだ。
事前のネット情報ではチケット代100TL(約526円)との事だったが、今日は無料らしい。
有難いが、事情が事情だけに素直には喜べない。
黙って開園を待つ。
と、そこに英語を話すムスリム女性が。
「あなた、セマーを見に来たんだよね?」
「そうだよ、もうすぐだよね?」
「そう、だから急がないと!」
「え?」
場所はここじゃなくて
あっち側の建物の中よ!
2時間半も現地で待っていながら、見逃すところだった。
女性に御礼を伝え、全力で走る。
公演は毎週土曜19:00〜のみ、つまり今日しかチャンスは無いのだ。
いよいよセマーが始まる
子守唄の様な優しく神秘的な演奏に合わせ、ゆっくりと信者が回り始める。
こ・れ・はヤバい…!!
率直にそう思った。
本当にひたすら数十分も回り続けるのだ。
転ばないどころか、ふらつく事すら無く…。
なぜ回り続けられるのか理解できない…。
何より信者の顔つきと、この雰囲気…!
うっとりとした表情、目は常に上の空、心の乱れは一切感じられない。
両手を広げ只々、ひたすら滑らかに旋回し、そこにフワフワとした同じフレーズを繰り返す生演奏が加わり、会場全体が“トリップ”していく…。
圧倒的な宗教感…!
これが何故トルコで禁教とされているのか。
イスラムでは歌舞、音楽を取り入れる事は禁じられているとの情報もあったが、それも含め、更に深く知りたくなる。
ちなみに旋舞する人達“セマーゼン”はパフォーマーではないらしい。
いずれにしても、唯一無二の素晴らしい公演だった。
時刻20:30。
会場を後にし、宿へと戻る。
道中では至る所に人だかりが。
集会は各地で行われているようだ。
人混みをすり抜け、グーグルマップを見ながら歩く。
が…
いつの間にか集会の渦の中へ…
いや、これは集会というより抗議デモだ。
先導する代表者の声に続き、人々が叫び声を上げている。
先程までの、炊き出しを行うような様子はまるで無い。
ちょっとマズいかも…
警察のボディチェックを受ける。
そしてバッグの中身を見せ「ナイフは持っていないか?」と聞かれる。
演説はトルコ語なのでわからないが恐らく、イスラエル支援国のアメリカを非難する内容だと思われる。
頻繁に発せられる「America!」
感情の昂ぶった人々が中央で旗を振り、軍隊さながら野太く大きな声を轟かせている。
イスラエルとパレスチナ。
所謂“パレスチナ問題”だが、どちらの支持者にも、決して譲れない意思があるのだろう。
双方が妥協して歩み寄る、そんな事は不可能なのかも知れない。
いずれにしても、知識も浅くイスラム教徒でもない私が、今ここで何かを唱えるのは違う気がする。
何より、少し危険な雰囲気だ。
興奮した参加者が多数いる。
私が受けた簡単なボディチェックを見る限り、この場がしっかり管理できているとは思えない。
実質コンヤ初日。
図らずも中東ひいては世界的な問題に関する実情に触れた。
貴重な経験ではあるが、複雑な気持ちを抱えつつ、再び帰る宿へと向かった。