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♡今日のおすすめ(掌編ファンタジー)♡~江國香織「デューク」


デュークが死んだ。わたしのデュークが死んでしまった――。たまご料理と梨と落語が好きで、キスのうまい犬のデュークが死んだ翌朝乗った電車で、わたしはハンサムな男の子に巡り合った・・『デューク』~「つめたいよるに」(1989)・・・新潮文庫版 カバー裏紹介文より

――玄関で、みょうに明るい声で、“行ってきます”を言い、表にでてドアをしめたとたんに涙があふれたのだった。泣けて、泣けて、泣きながら改札口で定期を見せて、泣きながらホームに立って、泣きながら電車に乗った――

『デューク』 新潮文庫「つめたいよるに」13頁

「これ、好きだなぁ」
 少年がそう言ったのは、くすんだ緑色の、象と木ばかりをモチーフにした細密画だった。
「古代インドはいつも初夏だったような気がする」
「ロマンチックなのね」
 私が言うと、少年はてれたように笑った。

17頁



江國香織(1962- 東京・作家、翻訳家、詩人)

童話作家として執筆を始めた後、みずみずしい作風の恋愛小説等で若い女性を中心とした支持を得た。「こうばしい日々」(1990)で産経児童出版文化賞、「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」(2002)で山本周五郎賞、2004年には「号泣する準備はできていた」で直木賞を受賞した。


2024.8.1
Planet Earth

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福田尚弘
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