「アフターコロナの行方」を見据える視点
■「アフターコロナの行方」の問題意識
以前より世界最大の脅威として「パンデミック」が危惧されてきましたが、現実のものになってしまいました。グローバル化の進展に伴い国境を簡単に超え、また、格差・差別がさらに感染を加速化させました。これまでの同様のパンデミックの経験を踏まえて各国では軍事面・災害面等も含めて総合的な国家の安全保障体制を構築してきましたが効果は限定的でした。我が国では感染対策も含めて、「横断的・包括的なマネジメント力」が他国に比べて欠如しているため、その対応が危惧されましたが、その通りになってしまいました
「アフターコロナの行方」に関連する分野は広範囲にわたっていますので、一度にすべてについて扱うことはできませんので、今後も継続的に重要な事項について論評・提言していきます。
コロナ禍以前からの課題も多く、それらの対策とともに今回のコロナ禍により改めて認識された課題を含めて、アフターコロナの行方を見据える必要があります。
また、感染症自体の課題や今後の取り組みについては重要であり、関心のあるところですが感染症やウイルス等の高度な専門知識が必要であり、その専門家が世界中で取り組んでいますので常時それらの情報を把握するに留めたいと思います。
「アフターコロナの行方」を論ずるにあたってはまずは現在の足元をきちんと把握しておくことが肝要です。
今回は俯瞰的に「アフターコロナの行方」を見据える視点を論じていますが、日々刻々と変化する側面もありますので継続的に観測・分析し、適宜、リリースしていきたいと思っています。
今後の展開にもよりますが、先ず今回示すコロナ禍による問題認識の視点の概略は下記のとおりです。
■パンデミックが世界最大の脅威であることの再確認
①今回のコロナショックへの対処の評価
これまでも世界中で多くのウイルスによるパンデミックを経験し、乗り越えてきましたが、現代において、その経験が活かせない状況が発生しましたので、改めて、パンデミックの脅威を認識すべきであり、その対策を世界が連携して解決する必要に迫られています。
世界の最大の脅威は「パンデミック」です。もちろん戦争や地球環境問題も大きな脅威ですがこれらは何とか対応可能ですが、パンデミックは簡単に国境や海を越え、政治的解決もできなければ特効薬も目途がついていません。過去に何度もパンデミックを経験してきましたが世界的に今回も対応できませんでした。
国内では昨年5月時点では幸いなことにパンデミックの一歩手前で踏みとどまりましたが。緊急危機宣言及び解除を繰り返しており、抜本的な方策が無いままに現在に至っています。
万能ワクチンの開発も進んでいますが国際的な医薬業界の思惑もあり、なかなか、実現しないようです。今回は予想をはるかに上回る状態であり、開発が遅れることは感染防止とともに国際的な地勢図にも影響するためワクチン開発競争状態となっています。現時点では後塵を拝していますが今回を機にワクチン、治療薬そして万能ワクチンの開発に本気になって欲しいものです。
また、医療崩壊も一歩手前(医師会的には医療崩壊のようですが、このレベルで崩壊?)までしたが、これまでの医療費抑制再作の付けが回ってきました。明治時代以来の感染症対策の成果であった公的医療機関や保健所をこの20数年にわたって抑制してきましたが、この機に改めて国の危機管理体制の整備とともにパンデミックの防波堤である医療の拡充に取り組む必要があります。それには医師会の抜本的な意識改革も必要です。
②未曽有の大恐慌に陥るのか
コロナショックはリーマンショックと異なり、実体経済を直撃したためどの産業も大きな減退となりました。多くの失業者が発生しましたがその支援策は限られていますので景気減退とともに不安感が高まりました。また、国内ではパンデミックの直前状況です(今後とも油断しなければ)が海外、特に欧米は感染者・死亡者も日本とは二けたの差があり、都市封鎖(ロックダウン)は想像どおりにあまり効果を発揮することなくパンデミック状況となっています。しかし、ワクチン接種では先を行っており経済の回復を目指して封鎖を解除しつつあります。各国とも大規模な財政支出をはかっており、リーマンショックとは異なり金融危機にはならず、株価も世界的に回復しています。
欧米での感染がやや収束傾向にあるため景気回復は意外と早くなりそうですし、大恐慌に陥るとは思われません。
日本はこの間そしてこの後に各企業の再生そして産業改革を進めて、海外依存度を低下させる戦略を講じることが不可欠です。
■国土安全保障マネジメント
米国のCDC,国土安全保障省による完璧とも思われたシステムは今回は機能しませんでした。我が国はそのレベルにも達していない中で今後の安全保障システムの構築の必要性が再認識されました。
①国土安全保障マネジメント体制の整備及び長期的展望
パンデミックが発生するたびにその体制作りが課題となります。我が国は感染症対策で明治以来かなりの成果を挙げてきました。保健所や公営病院の整備もその一環でしたが、かなり整備されたとの認識があったため経費削減等の下に近年は両者ともに大幅に削減されてきました。その結果、今回のPRC検査問題や初動の治療不備等が生じました。担当部署に言わせれば通常業務でもぎりぎりの体制に削減された中で困難な業務を一手に担わされたことに憤りすら感じていると想定されます。しかし、現場(保健所及び一部の担当医達)は本当に素晴らしい働きをしていると思います。
米国のように国家安全保障省(2003年 テロリズムの防止、国境の警備・管理、出入国管理・税関業務、サイバーセキュリティ、防災・災害対策)、CDC等のような包括的組織も設立されないまま、パンデミックのマネジメントはおろそかになっていました。しかし、当の米国CDCもトランプ政権で大幅な予算削減を受けて、かつてのような働きは出来なかったようです。
日本においても感染対策面では2011年の東日本大震災後,災害対策基本法の大幅改定が行われ,また2014年に新型インフルエンザ等対策特別措置法(国と県の権限等の課題はあるが)が制定されるなど,大きく危機管理の体制が強化されていますが、安全保障に関してはタブー的な扱いですが世界はますます厳しい環境に置かれています。
パンデミックに大災害そして軍事活動が重なるという最悪の事態も十分考えられますので「国の安全保障マネジメントの整備」がアフターコロナで重要な課題となります。
②今こそ長期的展望が必要です<日本のカタチ(社会像、国土像)>
日本の未来像については明治時代から各分野で議論されてきましたが、総理府主催(佐藤栄作総理大臣)で半世紀前の1968年に明治100年を記念した「21世紀初頭における日本の国土と国民生活の未来像の設計」を課題とした大規模なコンペがあったことを記憶している方はどのくらいいるでしょうか?これには全国から10チームが参加し、3年間かけて提案がつくられて、早大チームが最優秀賞に選定されました。当時はまだインターネットもPC等も無い時代でしたが、「ピラミッドから網の眼へ」等の示唆に富む意欲的なものでした。
アフターコロナを個々の分野・事象毎に議論することも重要ですが、長期的展望に経って日本の国土・社会のカタチを議論し、構築することが必要かと思います。ビフォーコロナでも国などで同様の検討も始められていましたので、このコロナショックの経験も踏まえ全国レベルで昭和100年(2025年)の区切りでまとめてはどうでしょうか?
■生活・経済への広範な影響と新常態(ニューノーマル)
①新常態(ニューノーマル)とは
「ニューノーマル」はリーマンショックの際にもう元の世界には戻れないとの趣旨で使われましたが、ここでは戻れないとともに戻らずに新たにする意味です(最近はあまり使われなくなってきなましたが)。
コロナ禍の下ではこれまでの日常とは異なる対応が求められました。マスクや手洗い等はインフルエンザ対策でもあり、従前とはあまり変わりませんが、長期にわたる外出抑制、夜の飲み会の場や多数が集まる集会等の閉鎖等の「三密」が強いられましたし、就業環境としても在宅勤務等のリモートワークが実践されました。満員の通勤電車を回避し、業務によっては自由時間が増加する等の従来と異なる時間を過ごしました。すべてが元に戻れませんし、戻らない方が良いかもしれません。
特に就業形態は実際に体験した中の一部では従業者サイドそして起業サイドの双方から新たな形態が要望されて定着する可能性もあります。
三密を避ける行動は自然に身に着いてきていますので、それを元に店や屋外においてもゆとりある空間を好む傾向が高まると思いますので、それに応じた空間形成が必要になります。
業界レベルでは、例えば、観光業は近年、インバウンドの急増に依存しつつ、その問題対応に苦慮してきましたがこれからはビフォーコロナのインバウンド依存に決別した業態となると思われます。国内需要の拡充とインバウンドの適切な受け入れ態勢が新常態となります。
新常態はむしろ「欧米諸国に対する」言葉ですね。昨年はマスクは滑稽な代物であり、挨拶はハグ・握手が当然、風呂も時々シャワーを浴びればいいのであり、あまりに潔癖な日本人はおかしいと言われていました。今やマスクは当然(一部ではまだ賛否二分して争っているようですが)、となり、イタリア人もある調査では平均、日に12回手を洗うようになったようです。個人主義がもてはやされましたが、そろそろ、「他人を思いやり、清潔な生活が新常態」となることを期待します。
②リモートワークが定着するか
フットルース型のリモートワークのコンセプトはすでに30年以上前のものです。当時、サテライトオフィス・リゾートオフィスの実証実験が行われましたが、windowsもインターネットも無かっため資料つくり、資料の受け渡し、会議等の仕事に必要なツールが不十分でした。その後、フレックスワークの名の下に多様な就業形態が現れましたし、安部内閣では働き方改革が主唱されましたが、ビフォアーコロナでは一部の先行者のみで全体としては普及しているとは言えませんでした。
やってみたい企業やビジネスマンは居たと思いますが個別に実行することが難しかったかもしれません。しかし、今回は数か月にわたって有無を言わさず多くの就業者が在宅勤務等のリモートワークを強いられました。実施できたのは対面的業務以外で大企業が中心でしたが、それでも実際に体験した事実は大きな影響を与えたかもしれません。すでに関連の調査などによりメリット・デメリットが整理されつつありますがアフターコロナでも継続したい、継続可能との意見も意外とあるようです。
仕事の効率性以外にも通勤がなくなることもメリットのようですが通勤混雑はかつてに比べればかなり改善されており、また、1時間程度であれば一定の運動そして気分転換にもなるものです。また、時差出勤すればラッシュを避けられますし、通勤会費を理由としたリモートワークの普及はなさそうです。いずれにしてもこの数十年間の累計者より多くの実体験者が個人として、また、企業として仕事の効率化、住宅環境等の面からどのように判断するかです。
ただ、やはり、在宅勤務やリモートワークはひろまるものの主流にはなりません。何と言ってもずっと自宅で緊張感をもって長期間仕事が出来るのは限られています。気分転換や運動も兼ねて一定の通勤は必要ですし、必要なのは創造性を高められる快適なオフィス空間であることが改めて認識されたのではないかと思います。
③地方創生 地方回帰が進む
コロナ感染は東京・大阪等の稠密な大都市において顕著であっため、密度が低く、安心して暮らせる地方への関心が高まっていると言われています。一部の地方都市に移住などの問い合わせが増えているようです。
コロナ禍以前からインバウンド頼みの地方での観光業は国内需要は新たに域内需要対応への等の新たな動きも見られました。特定の国からの大量のインバウンドはコロナショックが無くても限界があります。一方で来日者を拒否することは出来ないのでコロナショックは意識改革、施策の転機となり得ます。
従来から地方の多分野の資源を活用して資産化することが課題でした。その意味では大都市には残っていない、古民家や歴史的建造物を保存ではなく、活用する工夫が官民ともに求められます。
地方創生の大きな柱であった観光もビフォーコロナですでに観光公害が問題となり、爆買い目当ての免税店も閉鎖が続くなど大きな転機を迎えていました。2030年に6000万人という過大な目標もありましたが今回のコロナショックを機にインバウンド依存から国内の新たな需要重視、その上でのバランスのとれたインバウンド政策が必要となります。コロナショックで観
光業は直接的なダメージを受けており、今後も倒産が続くと懸念されていますが、一方でそれらを取得して新たな国内・域内観光戦略展開を図るために、地域活性化や産業再生のための官製ファンドや民間のファンド等及び地域金融等と協働した長期的な取り組みができるファンドの組成が必要であり、有用であると考えられます。
④郊外 郊外住宅地への評価が高まる
稠密な大都市中心部は感染リスクが高いため、郊外のゆとりある住宅地環境が再評価されるとの傾向も一部に見られます。
郊外住宅地の資産価値が無いことが基本的な問題ですが、改めて、郊外居住需要が高まれば、郊外住宅も流通しますので自ずから資産価値が生じます。ただし、従前のようなものでは一過性のものになりますので、せっかくの意識変化に対応した住宅・住環境を早期に供給することが肝要です。
■国土すなわち不動産価値の再認識
このような社旗経済状況の中で国土の資産価値、不動産の資産価値はどのように影響をうけるのか、どのように対応すべきかが問われています。本件で改めて、製造の国内化や地方の再評価等も言われていますが地域金融。地域経済が疲弊している中での事態ですので、難しいところです。
①国土の不動産価値
島国である日本は本来的にパンデミックに優位な立場にあります。今回、被害が少なかったニュージーランドや台湾等も同様です。もちろん、初期の迅速な対応や感染者対策が優れていたことも大きな要因ですが空間的な地勢的優位性があってのことでもあります。しかし、今回はその優位性を全く活用できませんでした。水際対策が実質上、ザルでした。個人の行動を規制できないと言われますが緊急時に憲法の「移動の自由」が持ち出されるようでは何のための憲法なのか分かりません。
また、日本は社会的安定性の面では国際的にも群を抜いていますので信頼性は高いものがありましたが、パンデミック、大災害、テロ等の世界的な脅威に対するマネジメントを強化することにより、さらなる、安全で安定した国として認知されることになるはずです。一方で本来的に国土レベルのパンデミックに強いはずの日本において海外からの関心が高まり、海外移住などの「受け皿としての地方」はあり得ます。
近年のインバウンド増加はこれまで知られなかった日本が地方も含めて広く認知されるようになってきましたので、改めて、国際的な信頼度の向上は国土全体の資産価値を高めることになります。この期に長期的展望を明確にして、改めて、資産価値のある国土形成そして資産価値のある居住環境・就業環境を構築すべきですし、可能だと思われます。
②不動産業界の見通し概観
リモートワーク等はそこそこ普及するとみられていますし、今回では全社員が対象となり、これまでのオフィスの大部分が不要となった企業もあるようです。
新常態として多様な就業形態が広がることは確かでしょうし、この機にオフィスコストの削減が可能として見直すことも多いでしょうが、オフィス空間が急減するとは思えません。
リモートワークの進展とともに従来のオフィス空間も見直されるでしょう。リモートワークの方が効率的との意見もありますが、それは従来のオフィスの生産効率が悪すぎるためと思われます。最近の都心部の立派な大規模オフィスは豊かな共用空間を誇ってますが執務空間は相変わらずです。多くは小さな机で隣の声も聞こえ、集中できない大部屋です。これでは意味がありません。一定の時間をかけて通勤することはある意味重要であり、その上で生産効率の高い豊かな執務空間が求められています。独立性が高く、必要に応じて他部署そして他会社の人材と交流できることは重要でしょう。リモートワークで削減した分を一人当たり空間の拡充に使うべきです。それでも総コストの低減も見込ますし、生産効率は上昇します。
同時に自宅にリモートワークのための空間(書斎等)が不可欠となります。郊外の住宅が再評価される機会でもありますが、やはり、一定の広さが必要です。今後の住宅供給に当たっては三密を避け、リモートワークを可能とし、クラインガルテン等も装備した新たな郊外住環境の提供も意味があると思います。いずれにしても資産価値のあるものでないと意味がありませんので、この機会に新たな資産としての住宅を供給することが重要です。
株価は実体経済の直撃により、一気に下げましたがその後、転じつつあり比較的安定した動きですが不動産投資はどうでしょうか。ホテルや飲食関係の業種はテナント料の支払いも困難となりましたので関連の不動産賃貸事業は痛手です。家賃補助等の多様な支援策が講じられつつありますが実行されるまでに多くが倒産を避けられません。しかし、いずれ他が引き受け、持ち直すと思われます。すでに各地域にある地域金融も参画している地域活性化ファンドなども含めた上述したような国内域内観光の新たな戦略を講ずるための官民連携ファンド等も有用です。
住宅やオフィスは直撃ではないため大きな影響はないと思われますし、観光業も国内需要拡充等で転換する等、全体としてアフターコロナへの新業態が構築されると思います。また、都心部の再開発需要はまだまだ続きまし、建設費の急騰傾向も落ち着きつつあり、一定の供給は続くと期待されます(ウッドショックは気になりますが)。
■住宅の資産化
実はこれが「最も緊急かつ重要なアフターコロナの課題」と言っても過言ではありません。
数十年前から住宅が資産で無いことは指摘されてきましたが未だに世の中に十分共有されているとは言えません。政府や企業そして専門家の間でも同様の意識を持ちながらも動けない状態が続いてきました。参考:「住宅が資産になる日」(2018年 著者:村林正次、プラチナ出版)
近年、空家が社会問題(これも今に始まったことでは無いですが)となり、住宅が「負動産」とまで言われるようになり、住宅に資産価値が無いことが理解されつつあります。
コロナ禍では上述したように一部ですが郊外での書斎付き住宅(在宅勤務が出来る空間)や地方への移住等が脚光を浴びています。
この機に、本来的で国民にとって最も重要な「住宅が資産であること」を実現することが重要です。
従来からの懸案ですがなかなか本腰を入れて、総力を挙げてこれませんでhしたが、いよいよ時間的にも迫ってきましたし、大きな転換期と捉えて取り組むべきだと思います。