『カウムディ』下
何も纏わない元彼女にカノジョを重ねる。
彼女は薄闇のなか快楽に耐えるよう眉をひそめ目をつぶる。
元彼女は思っていたより物慣れていなかった。
しばらくして突然に切り出された試すような別れ話に、付き合いきれないと別れたのが今から半年前。
少し歪な元彼女は新しい恋に失敗するたび、僕の元にやってくる。
やり直したいと。
今回はさらに、あきらめないとも。
僕の腕のなかで従順な反応を返す元彼女を可愛いと思う気持ちが無いわけではない。
ただ元彼女と出会うよりずっと前から心を占めるカノジョを思うと、何もかもどうでもよくなってしまう。
普段聞きもしないニルヴァーナが僕と元彼女の声を掻き消す。
するとカノジョになる。
I don't care
I don't care
I don't care
I don't care
I don't care
Care if I'm old
I don't mind
I don't mind
I don't mind
I don't mind
I don't mind
Mind, I don't have a mind ───
「夏休みは何処か行くの?」
カノジョの食事する口元に視線のピントが合いすぎて、かけられた言葉でようやくわれにかえる。そこから無理やり目を外すと一瞬全ての視界がぼやけたようになってしまった。
返事を返しながら思わず笑みが溢れる。
カノジョの前では思い寄せる気持ちを押し隠しよい友人を装い、元彼女には誠意あるよう触れる馬鹿馬鹿しさに。
「辛すぎると舌の感覚無くなるじゃない?他のとこがそんな風に麻痺したら生活不自由だけど、舌くらいならいいよね。……超激辛食べたいなぁ」
うっすらピンク色に輪郭を腫らした唇をカプサイシンの刺激を逃すようにすぼめこぼした言葉に、今すぐ手を取りあのガンジス川まで飛んで行きたい夢を見る。
ヒマラヤ山頂にある氷河の雪解け水を源流として文化、生活を呑み込み澱み濁る聖なる川。
立ち止まることを選んだ自分もいつのまにか随分と濁ってる。
Fin
※ニルヴァーナ 『Breed(繁殖)』より引用
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