珈琲
「ピーピーピー」笛吹きケトルが沸騰した合図を鳴らしてくれる。私は笛吹きケトルが大好きだ。発明した人に投げキッスしたい。
今まで琺瑯のオシャレなヤカンやコーヒー用のヤカンを散々空焚きして、相当数ダメにしてしまった。
私はお酒も煙草も嗜まないがコーヒーは中毒に近く、ヤカンなしでは暮らせない。コーヒーメーカーで淹れていると一日中飲んでしまうので、手差しで入れることにしている。
コーヒーは豆で買い、毎回飲む分だけ挽く。コーヒーの袋を開けた途端にいい香りがする。豆の挽き方は自分で調整している。
濃いのが飲みたい時は細かく、薄めがいい時は荒めに。
今日はチョコレートを食べながら飲むので、濃いめに入れる。
フィルターペーパーには二杯分の粉が入っている。ヤカンからそろそろとお湯を回しながら濯ぐ。湯気と共にコーヒーの香りが高くなる。
ちょっとずつ豆にお湯を足して豆が泡立つのを見る。今回の豆はコロンビアベリーズ。ベリーの香りがするというから購入したが香りはサッパリわからない。
2週間に一度のサイクルでコーヒー豆店に歩いて行く。店内は薄暗く、壁に貼られているコーヒー豆のメニューが多い。ひとつひとつ豆の特性を詳しく書いてある。
それをパーっと眺めてピンと来たものを買う。コーヒー豆の名前を言うと店主が焙煎してくれる。15分くらい店内で待つ。
待っている時はいつも店主にコーヒーの話を聞く。
「先日、100g12000円のコーヒー豆の注文がありましてね「コピ・ルアク」というジャコウ猫のフンから採取された希少なコーヒーです」
ジャコウ猫はかわうそのような見た目で、黒い目がキラキラとかわいらしい。コーヒーのメニューに背を伸ばして赤い実を持った写真が付いている。
「私にもわかるくらい味が違うのかな」
店主はボソボソと話す。
「高いコーヒーはお金持ちのお遊戯ですからね。大きくわかるほど違わなくても良い豆を買ったという満足感がいいのだと思います」
出来上がったコーヒー豆の紙袋を渡す時、店主の笑った顔は髭を動かすかわうそに似てちょっとかわいくて意地悪な感じだった。
追記:読み切り連載は地道に書くつもりですが合間にショートショートや別のストーリーも入れていきます。