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魔がさす
血のついた包丁を流し台に置き、全裸で立っていた。
今は12月26日の深夜2時。昨日はクリスマスで美月は彼を待ち料理を作っていた。スペアリブを切り分けていたら包丁が欠け、昨夜20時にスーパーへ包丁を買いに行った。
偶然彼を見た。彼は若い女と楽しそうにプレゼントらしきたくさんの紙袋を持って、フレンチレストランに入った。
そこから少し離れて街灯のない暗い樹の影に隠れる。ガラス張りのレストランの中の彼らを眺めた。手を握り合っている。彼は美月が見たこともない顔で笑っていた。
3時間近く経って手足がかじかんできた頃、2人はワインを飲み千鳥足で店から出てきた。彼らは人目も憚らず何度もキスをし、そのまま細い路地に入って行った。
貪るようにキスをし、身体を弄り合い彼らは真っ暗な路地裏で身体を繋げた。女が嬌声を上げて彼にしがみつく。
瞬間カッとして美月は買ってきた包丁を取り出し、後ろ向きになっている彼の背中を刺した。女は彼より身長がかなり低く彼の胸に顔を埋めていて見えなかった。
一差しして包丁を抜き、美月はそのまま走って逃げた。
後悔しても遅いがとりあえず服を下着まで全部脱いでゴミ袋に入れた。服に返り血はほとんどついていなかったが念のためだ。明日は幸いにもゴミの日なので他のゴミと合わせて何重にも重ねて袋を入れた。
包丁は台所用洗剤で綺麗に洗う。洗剤でキッチンも包丁も綺麗にした後、ハイターに漬け流し台を丁寧に掃除する。
風呂に入り、身体を隅々まで洗い、カビ取りハイターで風呂中掃除をした。
玄関のドアノブや床などもハイターで拭き続け塩素臭いので窓を開け、匂いを落とすため、重曹とクエン酸で家中拭いた。
スポンジや雑巾もゴミにまとめる。部屋着を着てダストボックスまでゴミを捨てに行く。
朝5時過ぎ睡眠薬を多めに飲んでベッドに入る。
「ピンポン!ピンポン!ピンポーン!」
激しくチャイムが鳴った。警察か?私はまだ薬の効いた頭で考える。
時計を見たら午前11時だった。もうゴミは行った後だ。
「どうとでもなれ」と心で誰に向かったとも言えない悪態をつき、それでもまだ諦めずに私はフラフラと起き上がった。
《了》