匂いと「自分と向き合う」のおはなし −Scentopia×n/36500 by MegRhythm対談−
みなさまこんにちは。
n/36500 by MegRhythm (エヌスラサンロクゴマルマル) メンバーの香林です。
今回は n/36500 by MegRhythm の発起人である仲田(実沙希)さんと、Scentopia株式会社の代表による山根大輝さんによる“匂い”をテーマにした対談の模様をお届けします。
「ゆらぎながら生きる」ことを受け入れ、上手に付き合っている方々にお話を聞くと、多くの方が五感をうまく活用していることがわかってきました。なかでも、嗅覚(匂い)は特別な働きをもたらしているようです。
そこで今回は、匂いのもたらす力、言語化することで可視化される匂いの世界、そして匂いの力を借りて「今の自分」を客観視することについて語っていただきました。
■匂いの力について
仲田さん:仕事とプライベートの切り替えや「本当の自分」と向き合うことが上手な方にお話を聞くと、匂いの効用をうまく生活に取り入れていらっしゃる印象を強く受けます。匂いは、自分に対するケアや見つめ直しをするための大きなきっかけになるのでしょうか?
山根さん:きっかけになると思います。
匂いの面白いところは、ある匂いを受け取った/気付いた人だけに効果を発揮するところにあります。考えてみると、この世界に匂いは豊かに溢れていて、自分にとっては「意味のある匂い」に感じられるにも関わらず、他人にとっては大した意味をもたない場合があります。
たとえば街中ですれ違った人からふと漂った匂いによってかつての恋人を思い出すような体験が最たる例です。普段は全く思い出すこともないのに、一瞬にしてその時の気持ちや思い出が生々しく浮かぶ。それは匂いが自分とリンクした時に生み出される力だと思います。
仲田さん:だとすると、匂いはパーソナルなものと言えるのでしょうか?
山根さん:パーソナルなものでもあり、大衆に共通して愛されるようなものが存在していることも事実です。
後者の例で言えば、「シャネル N°5」は、誕生して100年以上にもわたって世界中の方々に広く愛され続けています。それは香りの美しさだけが理由ではなく、女性が真に自由になることを目指したシャネルというブランドの持つ魅力に、今もなおファンが多いことにも起因しています。
いずれにせよ、香りの力によって自分の求める理想像へと導いてもらうという意味では、パーソナルの域を超えて、大衆に対して象徴的な面があるともいえます。
仲田さん:なるほど。
山根さん:一方で、先ほどお話しした「昔の恋人を思いだす」という事例のように、匂いは個人の記憶と強く結びつくものです。そういう意味では、パーソナルなものだとも言えます。
山根さん:日本に生まれ育った私たちは、山や森に囲まれた土地に暮らしているので木の匂いを心地よく感じる傾向が強く出ます。けれどもアラブに暮らす砂漠の民たちにとっては、煙たいような匂いやラクダなどの動物臭さを好ましく感じる傾向にあります。
ただし一口に日本人と言ってもみんなが同じ匂いを好むとは限りません。その人がどこに暮らしたかという幼少期からの住環境に紐づく記憶によって、好ましいと感じる匂いは異なりますから。そのあたりの差異をていねいに分析していくと、「パーソナルな匂い」というものがより詳細に炙り出されていくと考えられます。
仲田さん:であれば匂いは人間にとって理性でどうこうできる範疇を超えた、本能的な部分と結びついているとも言えそうですね。
山根さん:そうだと思います。
人体構造的に言えば、嗅覚は最も記憶と紐づいているとされています。人が匂いを嗅ぐと、食欲や睡眠などの本能的な行動や感情、記憶を司る大脳辺縁系へと刺激が直接的に伝達されます。これは五感のうち嗅覚だけがもつ、特別な伝達経路なんですよ。
ところが嗅覚以外の伝達経路はもう少し間接的です。たとえば痛みを感じると、刺激された場所(痛点)から電子パルスが発され、神経系を通じて、思考や理性を司る大脳新皮質へと至ります。ここを経由してから、ようやく嗅覚と同じように大脳辺縁系へとたどり着くんです。
要は、嗅覚だけがダイレクトに記憶や感情にアタックすることができるんです。良いか悪いかはさておき、だから「ドーン」と精神的にくらってしまうことがある。匂いによって半強制的にこじ開けられた、あれやこれやの過去の記憶がフラッシュバックしますから。
仲田さん:そもそもの話ですが、嗅覚だけが特別な回路を経由するのはなぜなのでしょう?
山根さん:諸説あるんですけれども、そのひとつに、人間の生き死に関わっている器官だからというのがあります。たとえば腐っている食べ物を誤って口にしてしまわないよう、瞬間的に判別できるよう発達したということが言われていますね。
■「今の自分」を見つめ直す
仲田さん:今回、山根さんには、n/36500 by MegRhythmプロジェクトの一貫で、今の自分に合う匂いを提案するWEBサービスのアルゴリズムを組んでいただきました。これらはどういった考え方に裏付けされているのですか?
山根さん:診断ではふたつの解析を行っています。ひとつは匂いの好き嫌い、もうひとつは診断者がどのような環境で暮らしているかです。それらの相関関係の中から見出される匂いがあるのではという仮説のもとに構築しました。
たとえば金曜日の夜に自宅でNetflixを見て過ごす人と、クラブではしゃいでいる人ってつける香水が絶対違うじゃないですか。同じように、フェミニンなスタイルが好きな方と、コムデギャルソンのようなモード系が好きな方のつける香水も絶対に違うはずなんです。
その人のスタイルを聞き出しつつ、同時に、診断者の今のムードや深層心理のようなものを無意識のうちに引き出す設問スタイルをとっています。
仲田さん:匂いの嗜好性とライフスタイルとおっしゃいましたが、自分像というものを固定しすぎずに、「今日はこういう私だし、明日はこういう私」というグラデーションにフォーカスしているといいますか、そういうふうにも捉えることができる診断だと思いました。
山根さん:一時的な感覚や感情を匂いと紐づけてマッチングする行為は、匂いの世界にもともとある考え方です。それに加えて、これまでリベルタパフュームがオーダーメイドで香水を提供した100名の方のデータを元に「どのような質問をすると、その人の香りの好みに結びついたか?」を検証しました。その結果もアルゴリズムに組み込まれています。
仲田さん:100人!すごく生っぽくて良いですね。私たちは、すごく大勢の方に向けた商品を展開することが多いので、通常は市場調査から平均値を導き出し商品化をするのがセオリーなのですが、それだけじゃ拾いきれないものがあると日々感じています。
そうしたやるせなさからも、山根さんのような生の交流や声というのは取り入れていきたいと考えているんです。
山根さん:大事なことですよね。
仲田さんの先ほどおっしゃった「『今日はこういう私だし、明日はこういう私』というグラデーションにフォーカスしている」という話に戻ると、僕個人としては、その日ごとに身に纏う匂いを変えても良いんじゃないか、と考えています。
一般的に香水は使い切らなきゃいけないイメージがありますし、それに伴って特定の匂いを自分らしさとして認識してもらえる状態は嬉しいことです。
けれどもその日の気分によって、着る服ひとつとっても、全然雰囲気や色使いは変わりますよね。それと同じように、匂いももっと感覚的に使い分けるような感覚が広がっていったら面白いなと思います。
仲田さん:素敵な考え方ですね。実際に、匂いが「自分のなりたい姿」へと誘導してくれる、みたいなことはあるんでしょうか。
山根さん:気持ちを後押しすることができると思います。女性の方ですと共感いただけるかと思いますが、リップの色を変えただけで「今日の私は強い!」と自己暗示をかけるようなことと匂いの原理は同じです。しっかりした匂いをつける時って、「強くなりたい」「存在感を出したい」という気持ちを後押ししてもらいたい、とどこかで感じているからじゃないでしょうか。
仲田さん:もしかすると、その匂いをつけたい/つけたくないという心の動きによって、自分のことを客観視したり、見つめ直したりすることもできそうですね。
山根さん:そうですね。まずは感情があって、その先に、服やメイクなど「選ぶもの」がありますから。匂いもその一端を担っていると思います。
■別の感覚を使って考える
山根さん:実は調香師というものは、鼻が利く人がなるわけではないんですよ。鼻は育てられるんです。
仲田さん:面白いですね!誰でもが調香師になれる可能性をもっているんですね。
山根さん:そうなんです。先天的な鼻の良さはもちろんありますし、逆に嗅ぎ取れない匂いもありますけれども、対象となる匂いを言語化し「匂いの正体」を分解することでその世界の解像度をどんどん高めることができるんです。
実際のところ、匂いというのは「臭い」以外の表現がないものですから。
仲田さん:えっ、本当ですか?ちょっと待ってください、考えてみます。
山根さん:ぜひぜひ。
仲田さん:確かに、「臭い」以外だと、「良い」匂いや「〇〇みたいな」匂いのように、嗅覚に限定された表現ってないですね……。
山根さん:そうなんです。そこで調香師は、他の感覚を借りて特定の匂いを表現します。
雨上がりの空気のような〇〇、まるさのある〇〇、痛みを伴うような刺激的な〇〇など……。これは調香師のルールというか、何百年と紡がれてきた感覚知です。ワインのソムリエたちにも通じる感覚ですね。
仲田さん:今回展開する練り香水のフレグランステーマとなる「満月」や「新月」などにもこれといった匂いはないですもんね。
山根さん:そうなんです。リアルに再現しようとしても、宇宙空間にはそもそも匂いが存在しないんです。
そこで先ほど話した通り、嗅覚以外の四感を活用して「満月」や「新月」の匂いを分解するところから始めました。今回はアルゴリズムのみ私が担当しましたから、完成された香りや「満月」というワードから逆算する形です。
調べますと、「満月」というのはエネルギーが最も解放されるときだそうで。それはおそらく人生の中で一番自分が輝いた瞬間に感じる感覚だと言えます。トーンはポジティブで、かつイランイランやガーデニアなどの華やかな花が満開になるムードと同調するような状態だと私は考えました。
この状態の人は、設問のひとつ「目を閉じたときにどういう音が聞こえてきますか」に対して、おそらく明るい音が聞こえると回答するのではないかな、と想像を膨らませていくんです。
ひとつの状態を導く出すときに、真正面から向かっていかなくても使う感覚器官を変えるだけでくっきりと見出されるものがあるのが面白いですよね。
仲田さん:まさしく。私たちは案外自分自身のことを、自分の言葉だけでは表せないものだ、と生活者の方のお話を聞いていてもよく思います。
そこで他の感覚に置き換えて考える、要は、別のスポットライトを当ててあげることでなにか新しい視点が見えるということには可能性を感じます。
山根さん:はい。
僕自身、今回のプロジェクトで考えさせられたのは、リラックスや「なにかを手放す」ための匂いやモノは世の中に結構あるんですけれども、「満月」のようになにかをチャージするための香りって案外少ないということです。
今回の練り香水はリラックスとチャージの割合が半分半分の作りになっているのが良いですし、匂いがそのシーンでしっかり作用すると言うことが世の中のみなさんにも伝わればと思いますね。
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