ニーベルングの指環
巨匠、リヒャルト・ワーグナーによる全四部作(前夜祭と三日間の舞台)からなる祝祭劇『ニーベルングの指環』。実に15時間にも及ぶ、他に類を見ないこの超大作。12月23日(月)から四日連続で拝聴してきましたが、本日、大団円を迎えました。この余韻が冷めやらぬうちの共有を、少しばかり。
第一部『ラインの黄金』
三人のラインの乙女たちは、侏儒(しゅじゅ/小人)アルベリッヒをからかい戯れているうちに、自分たちの守っている黄金の秘密をもらしてしまう。アルベリッヒは黄金を奪い去り、「ニーベルングの指環」を生成。世界を滑る強大な力を手に入れる。
ヴォータンを主神とする神々は、巨人兄弟ファーゾルトとファーフナーに、居城ワルハラを建てさせた。報酬を要求されて窮したヴォータンは、火神ローゲとともに侏儒族の国を訪れ、奸計を弄してアルベリッヒを生け捕りにし、ニーベルングの指環を奪う。
巨人たちへの報酬支払いを可能にしたニーベルングの指環。だが指環そのものを欲しがって殺し合いにいたる巨人兄弟に見られるとおり、指環にはアルベリッヒの呪いが深くこめられている。完成したワルハラに入城すべく虹の橋を渡る神々も、果たしてその呪いから免れうるかどうか……。
第二部『ワルキューレ』
12月24日(火)午後0:30放送〜午後5:00(4時間30分)
(2024年12月31日(火)午後5:00配信終了)
ある争いから命辛々に逃げ延び、疲れ果て、今にも倒れてしまいそうなジークムントがフンディングの家に辿り着き、ジークリンデと出会う。
ヴォータンが人間女性に生ませたこの双子の兄妹は、幼くして別れたままだったが、相見た瞬間にそれと知らずに惹かれあう。ジークリンデの夫フンディングの嫉妬の視線から隠れて、二人はついに激しく結ばれる――「兄にして夫、妹にして花嫁」と確認しつつ。同時に、ジークムントはヴォータンの贈物である名剣ノートゥングを得る。
岩山の頂き。婚姻の女神フリッカは夫ヴォータンに対し、双子兄妹の不義密通・近親相姦を厳しく糾弾する。妻に抗うも屈してしまうヴォータン。フンディングとの決闘における「ジークムントの死」を与えることを認め、愛する娘ブリュンヒルデにその旨を伝え、命令を下す。
ジークムントとフンディングによる決闘、ブリュンヒルデは父であるヴォータンに背いてジークムントに加勢するが、ヴォータンの槍による雷光がノートゥングを砕き、フンディングが勝利する。
ブリュンヒルデは、ジークムントの子を身籠ったジークリンデを愛馬グラーネに乗せ、逃げ運ぶので精一杯だった...…。
『ワルキューレの騎行』の音楽とともに登場するワルキューレたち。フンディングとの決闘に敗れた英雄をヴァルハラへと運び、戦士として蘇らせようとしている。ヴォータンの娘である彼女たちであるが、父の怒りからブリュンヒルデを守ることまではできない。
最愛の娘を罰しなければならないヴォータンは、岩山の頂にブリュンヒルデを横たわらせ、接吻によって神聖を奪い、長い長い眠りにつかせる。「臆病者」の手から娘を守るために、眠る娘を焔の壁で囲むことが、父としてのせめてもの温情であった。
【参考動画】Richard Wagner. Die Walküre. Adam Fischer, Vienna State Opera, 2016.
演奏が、冒頭からずっと格好いい。四日すべてが観れない場合、最優先はワルキューレかなあ。いつか「かなえたい夢」ですね。
第三部『ジークフリート』
12月25日(水)午後0:30放送〜午後5:00(4時間30分)
(2025年1月1日(水)午後5:00配信終了)
KIndle Unlimited 会員であれば無料、さらに冒頭の「第一の歌」だけであれば十分程度で読めますので、ぜひご一度いただきたいと思います。なぜなら「私は完全にミーメに同情をしてしまったから」です。騙されてほしい。
舞台は森の中にある一軒の岩屋。侏儒アルベリッヒの弟であるミーメは、竜が持つ指環を得るため(これが真実)に、勇者ヴェルズング族の血をひくジークフリートを育て上げ、彼に竜を倒させて、その財宝を横取りしようと企んでいる。だが、その竜を倒すために必要な名剣ノートゥングを、ミーメの技術では元通りにすることができない。
そこへ外で遊んできたジークフリートが帰宅。ミーメはノートゥングを慌てて隠し、彼のためにと作った別の剣をあてがうも、ジークフリートの怪力で叩き折られてしまう。ジークフリートは、普通父と子は姿が似るはずなのに、どうして自分とミーメは似ていないのかと迫り、ついに自分がミーメの実の子ではないことを白状させる。広い世界へと思いを馳せるジークフリートは、またも森へ遊びに行く。
入れ違いにさすらい人が登場する。このさすらい人の正体は、神々の王であるヴォータン。彼は「怖れを知らぬ者が剣を鍛える」という謎めいた答えを与え、ミーメの命はそのものに預けようと言い残し、そしてその場を去る。
やがて戻ってきたジークフリートに、ミーメは「怖れ」を教えようとするが、いっこうに要領を得ない。「怖れを知らぬ」ジークフリートは業を煮やし、ついにみずから剣を鍛え始める。やすりで剣を粉々にし、焔でその粉を溶かし、遂に剣を完成させてしまう。その切れ味は鋭く、鉄床をふたつにたたき割って、その驚くべき切れ味を見せつける。
――ミーメは剣を鍛える様子を横目で見ながら、ジークフリートが竜を倒した後に毒殺すべく――薬を調合するのであった。
――深い森の中、竜の住まう洞窟の前で、指環を奪還すべく動向を伺い続けるアルベリヒ。そこへ、さすらい人が登場するも、その正体がヴォータンだと一目で見破ったアルベリヒは、積年の恨みを爆発させる。
さすらい人とアルベリヒがその場を離れると、ミーメに連れられてやってきたジークフリートは、ミーメを早々に追い払ってしまう。
一人きりで森の耳を澄ませていると、美しい小鳥の声が聞こえてくる。自らの角笛で会話を試みようと吹き鳴らすと、眠る竜を起こしてしまうことに。竜はジークフリートを丸呑みしようとする。ふたりは戦い、ジークフリートは竜の心臓にノートゥングを突き立て、そして、竜——その正体は、巨人のファフナーが息絶える。
剣を引き抜いた際の返り血を口に含むと、聴き取れなかったはずの小鳥の言葉を解せるようになり、その助言に従い洞窟へ降りていくジークフリート。
その戦いの様子を遠くから見守っていたアルベリヒ、ミーメ兄弟が、洞窟の前で鉢合わせし、指環を巡って醜い争いを繰り広げる。
やがてジークフリートが、小鳥の言葉に従って隠れ兜と指環を持って帰ってきたことにふたりは驚愕。ミーメはジークフリートに近づき、指環をせしめるために騙して毒薬を飲ませようとするが、口からはその「本心」が出てきてしまう。穢い意地に耐えきれないジークフリートはミーメを手にかける。
すると森の小鳥が再び現れ、岩山の頂上でジークフリートを待つ花嫁がいることを告げる。ジークフリートは喜び勇み、その岩山へ向かって旅に出る――ブリュンヒルデが眠る岩山、ヴォータン自らが引き起こした世界の矛盾——ブリュンヒルデに反抗を教えながら、その反抗した娘を罰した――ヴォータンは、神々の世界の没落を望み、世界を統べる役割をジークフリートに譲ることを考えていた。
森の小鳥に連れられてやってきたジークフリート、さすらい人の正体を見抜けない。内心ではジークフリートに敵うわないと思いつつ、さすらい人は神々としての威厳を見せようと、岩山へ行く道を塞ごうと試みるが、手にした槍はジークフリートの持つノートゥングで叩き折られてしまう。
権力の源泉たる槍を失ったウォータンはその場を離れ、ジークフリートは意気揚々と、岩山の周りで燃えさかる焔をものともせずに駆け上る。
岩山の頂上で、鎧に守られながら眠るブリュンヒルデ。それが誰かを知らないジークフリートは、鎧を結ぶ鎖を剣で断ち切る。
鎧をとると、横たわる人間が女性であることを知り、ここで初めて「怖れ」を覚えるジークフリート——。
怯えながらも女性に口づけると、目を覚ますブリュンヒルデ——。
彼女は、目の前にいる勇者がジークフリートであることを知り、みずからの希望が叶えられたことを喜ぶが、いまや神としての力を失い、ただの弱い女になってしまったことに不安を抱き、ジークフリートの求愛を拒絶しようと試みる。だが、次第にブリュンヒルデはジークフリートの情熱に屈し、高らかに「晴れ晴れとした死」の日を歌い上げ、愛の歓びを謳歌する。
【参考動画】Richard Wagner. Siegfried. Adam Fischer/Vienna State Opera, 2016.
第四部『神々のたそがれ』
12月26日(木)午後0:30放送〜午後5:45(5時間15分)
(2025年1月2日(木)午後5:45配信終了)
三人の運命の女神ノルンたちが、世界の運命を司る綱を編みながら、世の中の来し方行く末を物語る。
ヴォータンがトネリコの木から作った槍で世界を統べていたが、ジークフリートがその槍を折ってしまっ。ウォータンはヴァルハラを護る勇士たちにトネリコの木を切らせ、薪としてヴァルハルの周りに積み上げさせた。
やがて神々が滅びる日、その薪に火がつけられるだろうという預言を歌う。世界の終焉を感じつつ、地下へと戻るノルンたち――。
ブリュンヒルデの岩山。愛の時を過ごしたブリュンヒルデとジークフリート。ジークフリートは、新たな冒険へと旅立とうとしている。
みずからの愛の証に、愛馬グラーネを贈るブリュンヒルデ。そのお返しに、ジークフリートは竜との戦いで勝ち得た指環を贈り、驚喜するブリュンヒルデ。互いの無事を祈りあいながら、ジークフリートは旅立ち、序幕の舞台となったライン川を、船で下っていく。
そのライン川沿いを支配するのは、豪族ギービビ家。同家の当主グンターは、異父弟にあたる侏儒ハーゲン――アルベリヒの子供——に、自分たちの勢力・名声が充分に行き届いているかを訪ねる。
この兄妹を快く思っていないハーゲンは、彼らを逆に利用して、ニーベルング族にとって悲願とも言える指環の奪還を目指している。ハーゲンはグンターに対し「名声は充分足りているが、投手グンターは最高の女と、その妹であるグートルーネは最高の男と結婚すれば、名声はさらに上がると説く。
折しも、ライン川を下るジークフリートが館のそばを通り過ぎようとしていた。ハーゲンはジークフリートを館へと招待する。グンターとジークフリートはすぐに意気投合し、薬酒の一口目を「ブリュンヒルデに捧げる」と歌ってから飲み干すが、ジークフリートは完全にブリュンヒルデのことを忘却し、代わりに目の前にいるグートルーネに夢中になってしまう。
薬の影響を受けているジークフリートは、グートルーネを娶るため、「グンターのためにブリュンヒルデを連れてくる」ことを約束し、ジークフリートとグンターは互いの血を混ぜた杯を飲み、義兄弟の契りを結ぶ。
ふたりはブリュンヒルデのいる岩山へと向かう。すべては自分の策略通りに事が進み、いずれは指環を手に入れると、内に秘めた野望をむき出しにするハーゲン。
ブリュンヒルデのいる岩山では、ひとり留守を守るブリュンヒルデのもとに、ヴァルハルから馬に乗ってヴァルキューレの一人、ヴァルトラウテがやってくる。
ヴァルトラウテは、折れた槍を携えて戻ってきたヴォータンが、神々の世界の終焉を待ち望んでいることを語る。ヴォータンのつぶやきを耳にしたヴァルトラウテは、姉にその指環を返すよう懇願する。だが、ジークフリートから愛の証としてもらった指環を、ブリュンヒルデは手放そうとしない。絶望しながら天上の世界へと帰るヴァルトラウテ。
やがて夜が近づくと、ブリュンヒルデのところへやってきたグンター(隠れ頭巾の魔力で姿を変えたジークフリート)。ブリュンヒルデを妻にするためにやってきたと語るグンターに、ブリュンヒルデは精一杯の抵抗を見せるが、力及ばない。指環も奪われてしまう。
翌朝、ジークフリートが隠れ頭巾に隠された瞬間移動能力を使い、ギービフング館へと帰還。次いで、グンターがブリュンヒルデを連れて帰る。打ちひしがれた様子のブリュンヒルデを尻目に、ギービヒ家の栄光を声高に称えるグンターと家臣たち。
なんとそこに――グートルーネと共にいるジークフリートの姿を見つけたブリュンヒルデは愕然とする。しかも、前日にグンターに与えたはずの指環をジークフリートが持っている事に気づき、焔を越えてやってきたのが姿を変えたジークフリートであったことを悟り、激昂する。
ハーゲンへ、ジークフリートの弱点が背中であるという事実を伝えるブリュンヒルデ。ハーゲンはジークフリートを殺害し、指環を奪ってその権力を手に入れろとぐんたーを唆す。
ジークフリートが裏切った本当の理由を知らないブリュンヒルデ。グートルーネに惑わされたに違いないと叫びながら、ジークフリートの殺害を誓う。
ライン河畔、森と岩の入り組んだ谷間 ラインの川岸で、序曲『ラインの黄金』に登場した乙女たちが、失われた黄金を返して欲しいという歌が響く。
ハーゲンは記憶が甦る薬酒をジークフリートに飲ませ、そしてジークフリートの弱点である背中に槍を突き立てる。ブリュンヒルデに思いを馳せながら息絶えるジークフリート。ジークフリートの亡骸を館へと運ぶ男たち。「ジークフリートの葬送行進曲」が流れる。
ギービヒ館、誰もいない館の中。グートルーネは不安に怯えながら、夫であるジークフリートの帰りを待ちわびる。だが戻ってきたのは、背中を刺されて息絶えたジークフリートの変わり果てた亡骸姿。殺害したのがハーゲンとわかり、グンターも弟を責める。ハーゲンは平然と指環を要求し、一騎打ちの末にグンターを打倒。斃してしまう。
するとそこへ、ブリュンヒルデが登場。事の真相をすべてラインの乙女たちから聞き及んだブリュンヒルデは、ジークフリートの亡骸から指環を抜き取り、そして愛馬グラーネと共にギービフングの館を焼く焔の中へ躍り込む――その焔が指環の呪いを清めてくれることを祈り。
炎は勢いを増し、天上のヴァルハル城にまで届く――ライン川の水が溢れ、大洪水となり、ラインの三人の乙女が清められた指環を手にする――ハーゲンはラインの流れに溺れる。
後に残された人々は燃えるヴァルハラを眺め、新しく始まる世界に思いを馳せるのであった。
【参考動画】Richard Wagner. Götterdämmerung. Adam Fischer/Vienna State Opera, 2016.