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『介護の魅力』よりも大切なこと

こんにちは。NPO法人Ubdobe 代表理事の岡勇樹です。

日本で生まれてアメリカで育ち、帰ってきました。とにかく音楽が大好きでヒップホップやテクノやハードコアにまみれています。趣味はDJです。

元々20代の頃に障害児者向けの居宅介護・重度訪問介護・移動支援の仕事や、高齢者向けのデイサービス・ショートステイ・訪問介護などの仕事をしていました。現場で働きながらNPO法人Ubdobeを立ち上げ、医療福祉関連のイベントやデザインやコンサルティングの仕事を12年やってきました。

Ubdobeには4つの事業部があり、ひとつはイベント事業部。医療福祉がテーマのクラブイベントや謎解きイベントをやっています。ふたつめがデザイン事業部。厚生労働省の調査研究事業や全国の行政機関や法人から様々な事業を受託しています。みっつめのソーシャル事業部では福祉事業をやっていて、今は『WASSUP』という居宅介護と重度訪問介護、移動支援事業を行っていて、来年は新たに放課後等デイサービスをオープンする予定です。最後にローカル事業部。『福祉留学』という医療福祉学生と全国の面白い福祉事業所をマッチングするプラットフォームを運営しています。

介護の魅力発信を語るにあたって

今まで全国の医療福祉関係法人や行政の魅力発信事業に携わってきましたが・・・
いつも下記のようなことを感じていました。

そもそも誰に発信しようとしているのか?その人たちは何歳くらいで、どんな価値観をもっていて、どう働きかければ響くのか?こうしたことがきちんと組み立てられていないことが非常に多いです。とりあえずなんとなく有名な芸能人とかモデルを起用してイベントやって人を集めて一日限りの「●●介護フェスティバル」を開催する。しかも莫大な費用を使って。

いやちょっと待って、「介護フェス」ってもはや介護に興味ある人しか来ないけどいいんですか?と思うわけです。厚生労働省が約30万人もの介護人材が足りないとか言っているレベルの危機です。すでに興味ある人に働きかけるだけで本当にいいのでしょうか?

そのようなことを指摘すると「いや本当はもっと幅広く若者たちに発信したい」と言うわけですが、その具体的手法が分からないのです。ちなみに、僕にも分からないですw もう40歳も過ぎて若者とは言えません。このような人たちが「介護フェス」と銘打って内輪イベントをやっている限りは無理だと思っています。

じゃー、どうしたらいいか?

「介護の魅力なんてどうでもいい」んですよ。

そもそも、特定の産業の魅力発信を行政が国家予算使いながら実行している業界ってありますか?ほぼないと思います。

運送業の人たちがどうやって魅力発信しているか?
プログラマーの人たちがどうやって魅力発信しているか?
飲食業の人たちがどうやって魅力発信しているか?
コンサルタントの人たちがどうやって魅力発信しているか?

介護業界全体が現在行なっている魅力発信の例と落とし穴

例えば、●●介護フェスティバルに芸能人が出てきて、「介護はやりがいのある魅力的な仕事だ」と話し、資格取得のパンフレットを渡す。
果たして、この発信によって、介護の魅力が伝わり、人材が増え、従事者や利用者さんが幸せになるでしょうか。僕は違うと思います。理由は3つです。

1、どんなことにもやりがいはある
「介護の仕事のやりがい」ばかり押し出していますが、やりがいは介護の仕事だけのものではありません。接客、建設、プログラミングなど様々な職種がある中で介護の仕事だからこそ、あなたの職場だからこその魅力を発信できなければ、本当の魅力発信には繋がらないと思うのです。

2、リアルじゃない
ステージで喋っている俳優さんやお笑い芸人さんは、あなたの職場で働いているのでしょうか?おそらくほとんどの場合答えはNOです。あなたの職場の介護の魅力ってそんな関わりの人に表現できるものなのでしょうか?自分達の職場のことをどうして他者が発信するのか、よくよく考えたら不思議でなりません。

3、ミスマッチが起こる
100歩譲ってこのイベントに来た学生が、芸能人の話す「やりがい」に感銘を受けてWEBサイトから「介護の仕事」で検索し、出てきた事業所に就職をしたとします。その人はそこで就職して満足できるでしょうか?その職場にその芸能人はいないし、学生が感銘を受けたのは、空想のやりがいです。結果的に外部発信と実際の内部状況とのミスマッチが出てきてしまうのです。

発信素材の発掘の仕方

いくら他者が介護の魅力発信をしても、結局は一緒に働くのはあなたの職場の人間です。求職者に「この人たちと働きたい」と思ってもらえばいいわけで、過剰な発信をすればいいという話ではありません。現場で働く一人一人が、どういう思いで何をやっているのかが肝心なのであって、世の中に媚びを売る必要はないのです。結局は一般論としての介護の魅力を発信することは虚無でしかなく、「●●さんの介護のこだわり」「●●さんの仕事に対する気持ち」そして良い面だけでなく課題の面も発信されていかないと、何も伝わっていかないと思うのです。

例えば、
〇現場職員一人一人の魅力に注目してみる。あなたの職場の職員さん一人一人の魅力的な部分を語れますか?

〇その人の仕事以外の話も聞き出して発信してみたらどうですか?仕事なんて人間の一部分でしかないですよね?求職者と趣味嗜好で繋がれる場合があるかもしれません。

〇シンプルに「この人と働きたい!」「自分はここに存在していたい!」と思ってもらうことができれば、嘘がなく、ミスマッチも少なく、今働いている職員や利用者にとってもプラスに働くという意味では、職員だけでなく利用者さんを積極的に表に出して発信する手もありますよね?

素材を最大限に活かした成功事例

ここで素材の魅力で成功したSNS、イベントの事例をご紹介します。Ubdobeが数年前に行った、島根県の離島である海士町とのコラボ事業です。 LOVE AMAと呼ばれるこの事業は三段階で構成されています。①東京湾をクルーズしながら海士町の地域文化と福祉を感じられる船上パーティ ②全国の主要都市部でのトークと海士町の特産品を中心としたグルメイベント ③直接現地に足を運び体感できる現場体験ツアー という構成で行いました。
結果的には三年間で都市部から海士町に引っ越して働くという移住者が8名も出たのです。2300人の島に福祉従事者が8名移住というのは割とインパクトがあったのではないかと思っています。

この事業の時に特に工夫したり気をつけたのは下記です。

〇今までの福祉系イベントとは一線を画すものであること。船を貸し切り、希望者約200名を乗せてDJ、LIVE、TALK、FOODなどのコンテンツに海士町の福祉文化に関する情報を練り込みながら展開しました。もちろんSNSで映える演出を意識しながら。そしてこういうクリエイティブなコンテンツ制作は基本的にプロに任せましょう!というスタンスが大事です。

〇イベントに出演してもらう人を海士町の福祉関係者だけでなく漁協や教育関係や行政担当者など幅広くブッキングしたこと。ちなみに福祉関係者も管理職だけでなく現場の若手スタッフに積極的に出てもらいました。

〇ツアーやワークショップを行いながら参加者をどんどん仲間に引き入れたこと。職員を募集している側が求職者に媚を売ることなく、「一緒にこの島を盛り上げようぜ」というスタンスで関わったこと。

だからといって、ただイベントをやればいいわけではありません。ターゲット設定、演出方法、ブッキング、導線や全体進行、SNS戦略など様々なスキルが必要になるのですが、次回はその秘訣についてもお話ししたいと思います。お楽しみに!

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