ハーバード卒現役アスリート佐野月咲。なぜUpmindでアスリート向けのマインドフルネス事業を立ち上げるのか
2024年夏からUpmindに参画し、アスリート向けのマインドフルネス事業を立ち上げている佐野 月咲(さの るなさ)さん(以後、佐野さん)。
5歳からアイスホッケーを始め、U18日本代表にも選出。高いレベルの環境でプレーするため、ハーバード大学に進学。大学を卒業後、海外でプロのアイスホッケー選手として活躍しながら、Upmindで活動しています。
今回は、アスリートとしてどのように心を整えているのか、どのような事業を立ち上げようとしているのか、話を聞きました。
プロフィール
佐野 月咲(さの るなさ)
東京都出身。5歳からアイスホッケーを始める。2015年U18日本代表。2017年にハーバード大学に入学。日本人初NCAA Div1デビュー。2022年春にハーバード大学を卒業し、同年からオーストリアにてプロアイスホッケー選手としてのキャリアをスタート。2024-25シーズンは、フィンランドリーグにてプレー。
インタビュアー
箕浦 慶(みのうら けい)
Upmind代表。オーストラリア・パース生まれ。2015年に東京大学工学部を卒業、チームラボに入社。2016年までスマートフォンアプリのエンジニアとして開発業務に従事。2017年に米Bain&Company(戦略コンサルティングファーム、東京支社)に転職し、経営戦略の立案に従事。2021年にUpmind株式会社を設立。瞑想歴はゴア(インド)で体験してから10年以上。
箕浦 本日楽しみにしておりました。よろしくお願いします!
挫折がきっかけで、ハーバードへ進学
箕浦 最初に、佐野さんのこれまでのキャリアについて色々と聞いていければと思います。まず、日本の高校から2017年にハーバード大学に進学していますが、どのようなきっかけで進学を目指したのでしょうか?
佐野さん 元々は海外に興味はなく、高校の時には日本の大学に行く勉強をしていて、東京大学を目指している時期もありました。
5歳からアイスホッケーを始めて、日本代表になってオリンピックに行くという目標をもっているのですが、アイスホッケーでの挫折がきっかけで、ハーバード大学を目指すようになりました。
箕浦 きっかけになった挫折はどのようなものだったのでしょうか?
佐野さん 高校入学時にU18日本代表に選出されて、その時から、今後、上の世代の日本代表にも入ってオリンピックに出たいと強く思うようになりました。
高校2年生の時も、同様にU18日本代表に選出されると思っていましたが、大会の直前に落選してしまいました。自身としては、まさかの出来事で、順風満帆に競技生活を歩んでいた中で初めての挫折で、表現できないほど悔しい感情を抱くと同時に、頭も真っ白になり、先の事を考えられなくなってしまいました。
箕浦 その挫折をきっかけに、なぜハーバード大学なのでしょうか?
佐野さん 挫折と同時に、この経験を絶対に無駄にしたくないと思いました。その時に、両親が海外を進めてくれ、ハーバード大学がアイスホッケーの強豪であることを知りました。
環境を変えて、新たな気持ちでまたアイスホッケーに取り組んだら、先に行けるかもしれない。今まで海外経験はほぼなかったですが、ハーバード大学に行きたいと強く思うようになり、目指し始めました。
箕浦 目指し始めてから合格するまでが大変だと思うのですが、どのような日々を過ごしていたのでしょうか?
佐野さん 高2の終わりからハーバード大学に行くための勉強を始めました。アイスホッケーの練習(週6/ 2-3時間)もやりつつ、他の時間は全て受験勉強に当てました。
英語を中心に勉強する必要があり、家での父との会話を英語にしたり、寝る時も英語を聞くなど、とにかく英語漬けの日々を過ごしていました。
箕浦 時間がない中で、不安などはあったりしましたか?
佐野さん 過去の経験を無駄にしないために、逆算してやれることは全部やると思って、取り組んでいました。
自分の今できること、目の前のできることに、全力をかけて集中して取り組むことだけを意識しました。なので、不安になることはなく、今この瞬間/ 自分自身に集中し、夢中で取り組めていたのかなと振り返って思います。
箕浦 ”今この瞬間、自身ができる目の前のことに全力で取り組む”。マインドフルネスと通ずるところがありますね。
ハーバード大学での学生アスリートとしての生活
箕浦 ハーバード大学に合格してからは、どのような学生生活を送られていたのでしょうか?
佐野さん 学生アスリートとしてハーバード大学に入学しました。アイスホッケー部に所属し、週4日トレーニング、金曜・土曜は試合、日曜日だけオフ、というリズムで生活を送っていました。
ただ、アメリカの大学は、宿題が多いので、日曜日のオフも勉強で忙しく、ひたすら練習と勉強というような日々で、あまりボストンの街で遊んだ記憶がありません。
箕浦 元々海外経験があまりなかったとのことですが、環境が変わって大変だったことはありましたか?
佐野さん 言語と文化の違いに適応するのが大変でした。大学のアイスホッケーのチームでは、唯一のアジア人選手としてプレーをしていました。
言語と文化の壁を超えて、自身がチームに馴染めていると感じるのに2年半くらいかかったように思います。
箕浦 どのように言語と文化の壁は乗り越えていったのでしょうか?
佐野さん あまり答えになっていないですが、言語や文化の理解度のスキルの積み上げで、時間が解決してくれました。
箕浦 その他に、学生アスリートとしてタフだったことなどはありましたか?
佐野さん 大学4年生の時に、パフォーマンスは良かったにも関わらず、ベンチ入りもできず、チャンスが全くもらえない時がありました。
その時は、自身でその状況を変えに行くトライを色々しましたが、何をやっても上手く行かず、、。アジア人選手というところで、チャンスがもらえないのかなとも思ってしまった時期がありました。
箕浦 そのような時期は、どのように乗り越えたのでしょうか?
佐野さん 正直にいうと、そこに関しては乗り越えることができず、ただ時間が経ち卒業したという感覚なのですが、、。
自分にとって良い環境を選ぶ大切さは理解しつつ、どうにもならない時もあるので、そのような時に、周りからの評価が自分の価値、だと思ってしまい、難しかった部分がありました。
今振り返ると、”自分の価値は自身で決める”ということを意識できていれば、少しは楽になったのかなとは思います。
プロアスリートとしてのキャリア
箕浦 その後、大学を卒業し、プロのアスリートとしてのキャリアを選択したと思いますが、その際に迷いなどはなかったのでしょうか?
佐野さん 迷いは全くなくて、オリンピックに出る夢を追いたいという気持ちが強かったです。
大学の最後に上手くいかない時もありましたが、選手として成長した感覚はあって、卒業後も、海外でアイスホッケーを挑戦したいと、卒業のだいぶ前から決めていました。
所属するチームなども自身で交渉し、現在はフィンランドのプロリーグでプレーしています。
箕浦 プロのアスリートとして生きていく上で、大切にしている心掛けはあったりしますか?
佐野さん アイスホッケーはチームスポーツで、周りの評価によって試合に出場できるかも委ねられます。
そうしたこともあって、今までは周りにどう見られるかを気にしていた自分がいました。ただ、いろいろな経験を経て、そう考えていたら、自身が幸せになることができないことも分かりました。
今は、自身の価値は自分が決めると思うことができるようになり、ホッケーが出来ていることに感謝して、一日一日全力を出せたかに集中することを大切に、充実して過ごしています。
箕浦 ”一日一日全力を出せたかに集中する”、これもマインドフルネスの考えですね。
佐野さん マインドフルネスは、毎日夜寝る前にしていて、最近は、出来るだけ心地よく過ごす・幸せを感じる時間を作ることも意識しています。
湖を散歩したり、コーヒー・サウナの時間を大切にするとか、日々の幸せが、アイスホッケーのプレーにも好影響を与えてくれると感じます。
箕浦 ”自身の価値は自分次第”・”自分がコントロールできる目の前のことに全力を尽くす”・”日常の幸せも大切にする”、この辺りは、何か大きな目標を達成しようとする際に、共通して大切なことだと、今お話しを聞いていて改めて感じました。
なぜUpmindでアスリート向けの事業を立ち上げるのか
箕浦 アイスホッケー選手として活躍される中で、今夏に連絡を頂きましたが、Upmindになぜ興味を持ったのでしょうか?
佐野さん 元々、マインドフルネスは、大学時代から自身でやっていて身近なものでした。
また、アスリートにとってのメンタルトレーニング・メンタルヘルスに興味があり、マインドフルネスの考え(”今できることに集中する”等)が、それらの中核になっていると感じていました。
そういった中で、Upmindが企業としてマインドフルネスを広め、社会の課題解決に役立っているということを知って、自身もUpmindと一緒に活動をし、日本のスポーツ界に貢献したいと強く思い、応募をしました。
箕浦 Upmindとしてマインドフルネスでアスリートの役に立てることをしていきたいと思っていたので、良いタイミングでご縁があったと感じます。今後、アスリート向けの事業を立ち上げていくわけですが、どのようなサービスになりますか?
佐野さん アスリートとして、良い競技人生を送るために、マインドフルネスの実践が非常に役立つと考えています。
最大のパフォーマンスを発揮できる時、”ゾーンに入る”とよく表現されますが、そういった時は、何にも囚われることなく、今ここにいる自分に集中し、今この瞬間だけに集中しています。
マイケル・ジョーダンを始め、コービー・ブライアント、レブロン・ジェームズなど、NBAの一流アスリート達がマインドフルネスを実践していることが知られていますが、マインドフルネスは、集中力を向上させ、アスリートのパフォーマンスを飛躍的に最大化させることができると考えています。
箕浦 ビジネスの経営者でも、そういった観点から、マインドフルネスを習慣にしている人は多いですよね。
佐野さん ビジネスだと、Appleの創業者スティーブ・ジョブズ氏がよく知られていますよね。
また、パフォーマンス向上だけでなく、大きな目標を達成するためには、長期的に粘り強い取り組みが必要になりますが、そういった観点からもマインドフルネスは役に立つと考えています。
箕浦 具体的にどのように役立つでしょうか?
佐野さん アスリートも一人の人間です。ストレス負荷の高い環境に身を置いているからこそ、普段から心配や不安になることもあります。
そういった時に、日常から自身と向き合う静かな時間が、過去や未来について憂うのではなく、今この瞬間に意識を向け、前を向くために心を整えてくれると思います。
また、今の心と体の状態に気づくことで、どれくらい負荷をかけることができるか、回復に努めるべきなのか、適当な行動を取ることができるようにもなると考えています。
箕浦 マインドフルネスは、メンタルレジリエンス(失敗や困難な状況にあっても、どれだけ冷静に対処し回復できるか)にも効果があると言われていますよね。
佐野さん はい。他にも、アスリートにとって睡眠はリカバリーのために非常に大切ですが、マインドフルネスが非常に役立つと考えています。
夜の練習や試合後は、興奮していて寝付きにくいことが多いですが、そんな時に落ち着いた呼吸を意識し、副交感神経を優位にし、リラックスモードへと切り替えてくれるマインドフルネスは、多くのアスリートにとって役立つと思います。
箕浦 今、佐野さんが話してくれた、ゾーンに入る(FOCUS)、柔靭な心身を育む(CARE)、睡眠の質を上げる(SLEEP)、を意識したアプリを開発していけるといいですね。今後の事業開発への意気込みを教えてください。
佐野さん 色々なアスリートから大切にされる・愛される事業にしていきたいです。技術やフィジカルについては、科学的な手法が浸透してきていますが、メンタルについては、個々人にやり方が依存し、できる人はできるけど、できない人はできない。
Upmindとして、自身の体験も還元しながら、アスリート界にとって多くの方の役に立つ、新しい風となるサービスを作っていきたいです。
箕浦 いいですね、一緒に作っていきましょう!最後に、Upmindに関わらず、佐野さんが今後どのような人生を歩んでいきたいか教えてください。
佐野さん アイスホッケーでオリンピックに出場するという夢があるので、目の前のできることを積み重ねていって、そこの舞台を目指したいです。
また、今まで海外の大学に進学したり、海外でプレーをできていることについて、多くの方のサポートがあってこそ、できていると感じます。次世代や社会に恩を返していきたいという想いも強いです。
過去の経験や自身のスキルにとらわれることなく、Upmindの活動など、自身がやりたいことに正直に進んでいきたいなと思います。
「佐野さん、オリンピックの夢、応援しています!良い事業を一緒に作っていきましょう」
マインドフルネスの実践で会得することのできる、”自分に集中する”・”今目の前のできることに集中する”というメンタリティは、アスリートに関わらず、ビジネスパーソンなど、高みを目指したい全ての方にとって大切なものだと思います。
極限のプレッシャーの中で、想像を超えるパフォーマンスを発揮し、感動を与えてくれる、アスリートの方々のために、心を込めて良い事業を作っていきたいなと改めて思わせてくれる良い時間でした😌
最後に(トライアルの募集)
Upmindでは、アスリートの方向けに、マインドフルネスを競技生活に役立てることのできるアプリを開発していきます。11月からトライアルでの提供を開始する予定ですが、アスリートの方で、いち早くトライアルで試してみたい方は、是非下記フォームから応募いただけると大変嬉しいです。
Upmind株式会社について
Upmind株式会社は、2021年5月に設立した、”人々の人生と心を豊かにする”をミッションに活動する、東京大学発のウェルビーイングテックカンパニーです。主に、90万以上ダウンロードの人気マインドフルネスアプリ「Upmind」を開発・運営(東京大学滝沢龍研究室とも共同研究、2023年グッドデザイン賞を受賞)。心に余白をもつことの習慣化を支援するための事業を企画しています。