【インタビュー】UPF大阪裁判 決議による第三者の権利侵害は議会権限の濫用
―德永信一弁護士に聞く
富田林市議会、大阪市会(市議会)、大阪府議会が、世界平和統一家庭連合(家庭連合=旧統一教会)とその関連団体について、「反社会的な」団体として「関係を根絶する」または「一線を画す」との決議を採択したことに対して、一般社団法人UPF大阪がそれぞれに決議の取り消しと損害賠償の支払いを求めていましたが、大阪地方裁判所は今年2月28日、決議の取り消しに関しては却下、損害賠償の支払いに関しては棄却の判決を下しました。判決とUPF大阪の控訴の内容について、原告側代理人の德永信一弁護士に聞きました。(聞き手:魚谷俊輔・UPF-Japan事務総長)
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――今年2月28日の大阪地裁の判決を受け、UPF大阪は直ちに控訴したわけですが、控訴理由のポイントを教えてください。
德永 まず、決議の取消しが却下されたのは仕方がないでしょう。一方で、損害賠償の支払いを棄却した原判決は、その理由の中に明らかな論理の矛盾ないし飛躍があり、「理由齟齬の違法」(※)があります。そこで原判決を破棄するよう、控訴しました。
――具体的にはどういうことですか? 詳しく説明してください。
德永 UPF大阪は3つの地方自治体に対して、国家賠償法(国賠法)1条1項に基づいて、宗教ヘイトないし名誉棄損の違法に基づく損害賠償を請求しました。これに対して原判決は、本件決議は地方議会の自律権(※)に基づく権能に基づいてなされたものであるが、議会外の第三者との関係に関するものであり、一般市民法秩序との関係が問題になり得るものであるから、議会の内部的規律の問題にとどまるものとは言えず、法的審査を差し控える必要はないと判断しています。ここまでは良かったんです。
ところが、その先の判断が捻転してしまったのです。原判決は、ここで再び議会の自律権や裁量権を持ち出して、司法権の審査が及ぶのはその権限を逸脱または濫用した場合に限るとしたのです。
その上で、いわゆる旧統一教会をめぐる社会的情勢や国民の関心等を踏まえ、本件決議は、いわゆる統一教会問題に関する地方議会の意思ないし決意を表明するものであって、相応の合理性があり、議会の権限を逸脱または濫用したものとは言えないと判断しています。この結論が間違っているのです。
――間違っていると言える根拠とは?
德永 原判決の指導判例となっているのは、「最高裁平成31年2月14日第一小法廷判決」と呼ばれるものです。この判決は、地方議会の懲罰その他の措置が議員の私法上の権利利益を侵害することを理由とする国家賠償請求の当否を判断するにあたっては、当該措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り、議会の自律的な判断を尊重すべきと言っています。ということは、内部規律の問題にとどまらない事柄に関しては、全面的に司法審査に服すると解釈できます。
原判決は、本件決議が議会の内部的規律の問題にとどまらないことを確認しているわけですから、司法審査からの独立を要請する原理としての自律権の範囲は外れていることは明らかです。にもかかわらず、再び司法審査を後退させる理由として自律権を持ち出してくるのは、論理の矛盾と飛躍があると言わざるを得ません。議会外の第三者の名誉棄損等の権利侵害が生じているわけですから、その時点で直ちに地方議会の権能の逸脱又は濫用があるというべきです。
――その最高裁判決のほかに、同様の下級審判決はあるのですか?
德永 「名古屋高裁令和4年11月18日判決」「名古屋高裁平成29年9月14日判決」「広島高裁平成3年10月24日判決」「東京地裁八王子支部平成3年4月25日判決」があります。これらの判決は、地方議会の議決が、議会の内部的規律の問題にとどまるとは言えない場合における国賠法1条1項の違法性の審査は、もはや自律権の範囲外の事柄であることから、いずれも一般的な名誉棄損の審査基準を採用しており、議会の裁量権を理由に司法審査を後退させた例は一つもありません。
――一般的な名誉棄損の審査基準とはどのようなものでしょうか?
德永 まず、当該の表現行為が、一般人の普通の注意と読み方を基準として考えて、社会的評価の低下をもたらすと認められなければなりません。その上で、当該の表現行為の真実性ないし真実相当性が証明されないかぎりは、名誉棄損となります。本件訴訟においてこの審査基準が適用されれば、名誉棄損になるはずです。ところが、原審での審理は、本件決議の真実性ないし真実相当性にかかる審理はほとんどなされませんでした。ですから控訴審ではこの点をしっかりと審理したうえで、原審判決を破棄してもらいたいです。
※理由齟齬の違法〜判決の理由に前後矛盾があり、実質に法令違反状態になっていること
※地方議会の自律権〜地方議会自らの意思で、議会の組織・運営などの内部事項について自主的に決定や処理する権利
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