礼遇の幻
その屋敷に行くと、いつだって豪華なお菓子が食べられた。そのためだけに出向いていたわけじゃなかったけれど、見たこともないお菓子が食べられるのは、ぼくのちょっとした楽しみだった。
「今日も来てくれたのね」
アリアが微笑む。アリアはこの屋敷に住んでいる女の子で、どこかの国とのハーフだ。体が弱いため、学校には行けないのだ、とはじめて会ったときに聞いた。
「今日はね、ババロアが冷えているのよ。手作りのジャムと一緒に、スコーンも食べられるのよ」
アリアはいつだってお菓子の説明をした。お菓子を食べながらぼくはいろんな話をする。学校や家であったことを。アリアは目を輝かせて聴いていた。そして、帰り際になると、
「また来てくれる?」
と不安そうに瞳を揺らすのだ。
ある日、家でアリアの話をすると、「そんな屋敷はない」と言われた。「あそこはもうずっと荒れ地だよ」と。
次の日、慌てて屋敷に行くと、そこにはもう、何もなかった。
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