ハサミと科学は同じ!?
今年は8月上旬から、線状降水帯による大雨の影響で、東北・北陸地方で橋の崩落や河川の氾濫といった被害が多発している。さらには先日、台風8号が静岡県伊豆半島に上陸し、接近前から雨の強まっていた東海地方では、降り始めからの雨量が400mmを超える大雨となった所もあった。
浸水の被害が広がる一因として、橋や堤防の決壊が挙げられる。山形県飯豊町では長さ24.6m、幅5.5mの大巻橋が崩落し約300戸に断水が生じた。また、最上川と米代川の計4カ所で越水を確認。同県川西町ではため池が決壊した。
そんな水の被害を表す際に用いられる「決壊」。その文字をよく見ると、興味深い経緯が伺える。
1.“水発祥”の漢字
古代中国語が生まれた頃は、河川の水が人々の住んでいるところに押し寄せてこないように、河川の横に土を盛り固めて、高くしていた。俗に言う堤防や土手だ。しかし、あまりにも大量の水が押し寄せると、堤防の一部を破壊してしまうことがあった。そこから、“流れる水”(氵)と“えぐりとる”(夬)を合わせた「決」ができたのだ。「決」とはまさしく“水発祥”の漢字である。
日本漢字能力検定の6級から2級には、熟語の構成という設問がある。身体や採取といった“同じような意味”、強敵(強い敵)や平面(平らな面)といった“上の字が下の名詞を修飾”、保温(温度を保つ)や出荷(荷物を出す)といった“下の字が上の字の目的語”などから選択する問いだ。
では「決壊」は上記の3つのうちどれに当てはまるか。前提知識がなければ「壊れるを決める?」や「壊すことを決める?」と悩むだろう。「決壊」はそもそも、堤防などが切れて崩れること。「決」は“流れる水がえぐりとる”ことを意味し、「壊」は壊れることを表す。よって「決壊」は“同じような意味”の熟語なのだ。
2.海を越えて...
英語で“決める”を意味する「decide」と“はさみ”の「scissors」の語源は同じと言われている。decideは離す(de-)と切る(cide)からできている。悩みを断ち切る(切り離す)から、「決める」なのだ。そしてscissorsは切る(ciss)と物(or)から成る。
英単語中のcideやcise、sciには「切る」という意味が含まれる。さらには観察や研究を行い、世の中の事象を切り分けることこそが科学「science」だ。他にもprecise(正確な)やconcise(簡潔な)などが挙げられる。
3.同じ思い
「決」には見た目や“決める”と言った従来のイメージを裏切る由来・意味合いがあり、海を越えた英語圏においてもそのニュアンスが確認された。前述の通り「決」の字は古代中国から続く。翻って、大雨による水災に悩まされる人々の姿は時を越え、現在においても同じだということだ。
そして昨今は「線状降水帯」という語句が一般に使われるなど、雨に関する言葉がまた一つ増えたように思える。総じて言えることは、水や雨は、人々の生活と切っても切れない関係だということだ。それはきっと古代中国も現在も、同じ思いなのだろう。
1,310字
2022年8月14日
※ 言葉の由来や語源に関しては諸説あります。ご了承の程よろしくお願いします。
〈出典〉
▽今年の大雨の被害について
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02160/080400001/
▽台風8号について
https://weathernews.jp/s/topics/202208/140005/
https://weathernews.jp/s/topics/202208/130115/
▽「決」について
http://www.jojikanehira.com/archives/16001524.html
https://okjiten.jp/sp/kanji400.html
▽ decide、scissors、scienceの語源についてhttps://shinuwakaeng.com/cide-gogen-matome
https://gogen-ejd.info/decide/
https://www.choge-blog.com/natural-language/scissors-roots/#toc1
▽熟語の構成について
https://jobcatalog.yahoo.co.jp/qa/list/1387787413/
https://www.kanken.or.jp/kanken/outline/degree.html
▽線状降水帯について
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/kishojoho_senjoukousuitai.html