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詩ことばの森㊶「ある感覚」

久しぶりに旧友を訪ねてみました。友人は元気でしたが、外見は年齢相応に落ち着いていました。また、わたしたちと関係のあった人たちの様子も、いろいろと変化があったことを知りました。十年一昔という言葉通りに、時間の経過にともなう、わたしたち自身の姿や環境の変化を、あらためて実感しました。変化を認めながらも、どこか寂しいような懐かしいような、口に出せない感覚におそわれる気がするのはなぜでしょうか。

ある感覚

指の先に
ある感覚を残したまま
かれらは消えていった

彼岸の橋を
僕はどのくらい探しつづけたことか
傷は
指先だけでは足らないほど
川面にうつる姿は
はかなげで
うれいさえ おびているというのに

秋が確実に過ぎていく
店先に並んだ果実の美しさに
見惚れながらも
僕は
かれらに用意するほどの
実りある人生などというものからは
あまりにも隔ててしまっている

かれらの目
かれらの息づかい
かれらの肌の色
それらが ある意味をもって
僕の体に刻みつけた
時間という悪夢を
僕はどうやら
彼岸の彼方に
置き去りにしてきたらしい

川辺の砂に
指先で描いたはずの
一文字が思い出せなくて
僕はひたすら
彼岸の岸辺を歩きつづけている

             森 雪拾


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