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せつなときずな

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母子家庭に育った主人公の少女が、紆余曲折の末息子を持った後、思わぬ苦難に人生が変貌していく。 その中で互いが苦悩する母娘のリレーションシップを描いた連載小説です。 ラストで物語が…
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2021年10月の記事一覧

「せつなときずな」第39話

「せつなときずな」第39話

サキに選択を促された翌日、刹那の中には曖昧で刹那的(という言葉はもちろん嫌いだった)な覚悟、一つの決断が、それは迷いに揺れる弱気な心に押し出されるように導かれた。

食事の遅い絆に苛立つ毎朝の一こま、保育園の準備をしながら、刹那は心にも無いことを口にする。

「あんたさ、そうやっていつも食べるの遅いけど、いい加減にしないとお母さんあんたを置いてどっか行っちゃうよ。
これから一人で生きていきな」

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「せつなときずな」第40話

「せつなときずな」第40話

実家のサキが住む離れの居間で、刹那はソファーに身体をまかせて、母親の表情をうかがっている。
庭で絆が遊んでいるが、エアコンをかけているので窓は閉め切りで、姿は見えてもその声は聞こえない。

西日が長く斜影を描き、窓を射抜く光と影は、刹那の視界を遮るかのように部屋を支配する。隣のダイニングのカウンターに腕を支えて立ち尽くしているサキは、珍しく言葉を失くしているかにも見えた。

新居には入らないし、ハ

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「せつなときずな」第41話

「せつなときずな」第41話

サキは、田辺裕道に刹那の決断を話した。
田辺は、少し悲しそうな顔をした。

やはり田辺の言う通り、刹那には強要にとられる提案だったことを、サキはそれでも仕方ないと思う。
間違い?
正しくはなかったが、それが間違いだったとも思えない。

「どちらにせよ、結婚も新居も、刹那のことがなくても決断してたことだから」
それは多分嘘ではないが、どこか無理しているところもほころびている。
田辺は、わかっているか

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