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岡田泰紀
2021年10月3日 16:20
サキに選択を促された翌日、刹那の中には曖昧で刹那的(という言葉はもちろん嫌いだった)な覚悟、一つの決断が、それは迷いに揺れる弱気な心に押し出されるように導かれた。食事の遅い絆に苛立つ毎朝の一こま、保育園の準備をしながら、刹那は心にも無いことを口にする。「あんたさ、そうやっていつも食べるの遅いけど、いい加減にしないとお母さんあんたを置いてどっか行っちゃうよ。これから一人で生きていきな」
2021年10月10日 01:11
実家のサキが住む離れの居間で、刹那はソファーに身体をまかせて、母親の表情をうかがっている。庭で絆が遊んでいるが、エアコンをかけているので窓は閉め切りで、姿は見えてもその声は聞こえない。西日が長く斜影を描き、窓を射抜く光と影は、刹那の視界を遮るかのように部屋を支配する。隣のダイニングのカウンターに腕を支えて立ち尽くしているサキは、珍しく言葉を失くしているかにも見えた。新居には入らないし、ハ
2021年10月18日 17:49
サキは、田辺裕道に刹那の決断を話した。田辺は、少し悲しそうな顔をした。やはり田辺の言う通り、刹那には強要にとられる提案だったことを、サキはそれでも仕方ないと思う。間違い?正しくはなかったが、それが間違いだったとも思えない。「どちらにせよ、結婚も新居も、刹那のことがなくても決断してたことだから」それは多分嘘ではないが、どこか無理しているところもほころびている。田辺は、わかっているか