『贈与論』を読む。 #165
構造主義の祖である、レヴィ=ストロースに影響を与えたとされるマルセル・モースの『贈与論』を読みました。古典として重要な位置を占めているというだけでなく、物を贈りあうことの意味を考えるきっかけになるという点でも、読む意味があります。今回は自分なりに重要だと感じた部分を引用していきます。
序論
この本で取り扱うテーマを以下のように定義します。
贈り物が社会的な義務となっている理由を解き明かしていくということです。また、こうした現象は一部の地域だけの風習ではなく、様々な文化に共通しており、現代社会にも機能していることを指摘します。
「受け取った贈り物のお返しを義務づけるメカニズム」は、返報性の原理であったり、ゲーム理論での互恵的利他主義、しっぺ返し戦略という単語でも表現されますが、本書ではこれを文化比較から解き明かしていきます。
第一章 交換される贈与と返礼の義務(ポリネシア)
サモアやマオリなどのポリネシアの文化の例から、以下を重要な体系として見出します。
また、全体的給付制度とポトラッチには、以下の要素があるといいます。
第二章の要点とも重なりますが、お返しする義務の前に、贈り物を与える義務とそれを受け取る義務があることを考える必要があるとしています。
第二章 贈与制度の発展――――鷹揚さ、名誉、貨幣
この章では、トロブリアンド諸島の「クラ交換」が紹介されています。この特徴から贈与の体系を以下のように表現します。
また、アメリカ北西部インディアンのポトラッチの特徴から、「三つの義務:贈与、受領、返礼」を導き出します。
第三章 古代の法と経済におけるこうした原則の残存
ここまでは当時の文化を比較することで、共時的な贈与の意味を解き明かしてきました。この章では、贈与にまつわる単語の語源などから、贈与に関する当時の認識を明らかにしようとします。
個人的には、古典ヒンドゥー法について考察している箇所での以下の文章が印象的でした。
会社の飲み会に参加したくない理由がここにある気がします。「あくまで仕事上の関係性でいたいのに」というあのモヤモヤ感が言語化されているように見えました。せめておごりではなく割り勘にしておきたいという心理は、この双方的な絆を形成したくないことの現れですね。
第四章 結論
この章では、ここまでの贈与、受領、返礼の三つの義務にまつわる考察から、道徳上の結論を導き出します。これらの義務は現代社会でも履行されるべきなのに、実際にはその義務が果たされていないことが諸問題の原因であると結論付けます。
また、資本主義に言及する箇所もいくつかありました。ヴェブレンが指摘する「顕示的消費」と同じような指摘がされています。
また、以下はマルクスの「資本論」ともリンクしそうな箇所だったので、メモがてら引用しておきます。
感想
人類学・社会学的なアプローチを採用しながら、そこから見えてくる結論は、資本主義をはじめとする現代社会の問題点をも浮き彫りにするという展開が面白かったです。物を贈りあうことは、言葉に並ぶ人間に特有のコミュニケーション方法であることをあらためて学べました。今日も「義務」を果たしていきましょう。
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