退官後の大学病院教授のリクルート Part.1
私は某大手グループの医師採用部門に所属しておりました。
紹介会社さんや直接応募の医師の採用の他に、大学病院の教授とも派遣の依頼や教授自身が大学病院を退官された後に当グループへ招聘させていただき、その医局との連携強化を含んだリクルートを行うこともありました。
今回は2名の教授のリクルート経験を書かせて頂きたいと思います。
①関東私大病院 整形外科教授
ここの医局からは県内のグループ急性期病院に、合わせて10名前後の派遣を頂いており、救急受け入れや手術に積極的な医師ばかりで、多くの患者さんの受け入れと病院収入への貢献度も非常に高い医局でした。
研修医からの人気も高く、入局者が毎年後を断たない医局で、人員も潤沢で、大学病院としても花形のような診療科でありました。
私どものグループとしては非常に大切な医局として、定期的に当グループ理事長の右腕である私の上司(医師)と盆暮のご挨拶に伺っておりました。
関係性も友好的で、当時既に15年以上のお付き合いでした。
当然その整形外科の教授は学会でも有名で、名の通った方でした。
ある時、当グループ内でその教授が後1年で定年になるが進路はどうなっているのか?と本部幹部と話題になりましたところ、タイミング良く当グループ理事長からも調べるよう指示がありました。
実は当グループは、退官後の教授の受け入れは原則「受け入れたくない」方針なのです。
なぜか?
教授は退官しても“教授待遇”を求めることがほとんどだからです。
「個室が欲しい」「秘書をつけてくれないか」「外来は1コマしかしたくない」「学会には病院負担で全日行かせてくれ」「接待経費を遣わせてくれ(リクルートとは関係ない)」・・・
あげたらキリがないレベルで要求をされた過去があり、グループとして敬遠しておりました。
一般的に民間病院では、退官後の教授だろうが、学会の重鎮だろうが、働かない医師は必要ないというのが本音のところだろうと思います。
(要は収入を稼がない、生産性のない、過去の栄光だけで存在する医師は必要ないということです)
但し、‘価値の高い’教授もいらっしゃいます。
医局との関係性を続けることができ、医師派遣を継続、もしくは新たに派遣を引っ張って来れる力がある。
どこかから有能な医師を連れてくる人脈がある。
その教授を頭にしたチームとして複数名で入職できる。
各種学会や専門医制度に顔が効き、認定施設などの優遇対応を病院に持って来れる影響力を持っている
個人病院ではメリットが少ないこともありますが、私が所属していたグループは全国でも有数の大きなグループでしたので、上記のようなパワーを持つ教授であれば退官後もお力添え頂きたいと考えていました。
本題に戻ります笑
教授にご挨拶で訪問するタイミングでそれとなく話を聞いてみようと考えていた矢先、先方から「私もそろそろ定年になるので、そのさきも考えなくてはならない年齢になりましたので…」と雑談のように切り出してきました笑
私は「撒き餌を始めたな」と思いました笑
この医局が派遣をしている病院は多くありましたので、それぞれの担当者に仄めかし始め、様々な提案を暗に求め、より良い待遇のところへ行きたいと考えているのだろうなということがひしひしと感じれました。
その場では私の上司が「そんなご年齢になられましたか!?いやいや、まだまだお若いと思っておりましたが…」というお世辞を挟みつつ、「当グループとしては教授に大変お世話になっておりますので、こんなに早いとは思っておりませんでしたが、教授の退官された後については非常に気になっているところでして…」と、今日認識したのでこれから考えてみます的な雰囲気を出して帰ってきました笑
念の為確認しておきますが、ここでの当グループの考え方は変わらず「採用はしない」です。
ベストは、『採用せずとも医局との関係は構築し続けられる』です。
こう考えた理由は、以下の通りです。
教授自体の名は通っているが、大学や学会に今後も影響力を残し続けていくほどの力はない。
当グループへの派遣は、医局員にとっても経験症例が豊富なため、特に若手医師からはメリットしかない。給与も上がる。
実はここは分院であり、都内にある本院に医局が統一されて教授も一本化される可能性があると以前より噂されていた。
「The 教授」という感じの方なので、懸念される“教授様”になることが予想される。
現在派遣の無い病院に採用しても、医局員を連れて来れる人望も人脈も医局の中にはない。(医局長からヒアリングしている)
やはり教授と言えど、民間病院とは利害関係が一致して派遣をしている関係であるので、偉そうな態度や極端な“派遣してやっている”という態度は、その箔が落ちてしまえば何も残らないという事になってしまいますよね。
どこの組織でもそうですが、立場や役職で仕事をしているとそのメッキが剥がれた途端に人は離れていきますね。
非常に厳しい競争の中で「教授」という身分を勝ち取った方でも、退官される際にどこからも声がかからないことがあるようです。
紹介会社さんから普通の求人として紹介されるケースにあたると非常に哀れに見えますし、やはりこの“元教授”の人格を疑うところから始まり、どうしても斜めからの目線になってしまいます。
今回の教授も、私から見ると「偉そうでは無いけど、周りに祭り上げられている感があり、実力・人望・人脈は??」という感じでしたので、グループ幹部の判断は合っていたのかと思います。
そこから1年間の盆暮の挨拶は、教授の動向を探りながら具体的な提案はせず、医局員の活躍や整形外科の別の医局の話題などでのらりくらりと交わし続けました笑
結果、どこかの民間グループの、そこそこの規模の副院長兼整形外科部長という役職で就職されたらしいと聞こえてきましたが、この教授の話はこれ以降一切聞こえて来なくなりました。
当グループの判断はやはり正しかったのだと思います。
次回は、真逆の採用事例について書かせて頂きたいと思います。
お楽しみに!
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