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震災経験から生まれたトイレのガイドライン

これまで、阪神淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震など、大きな災害が起きるたびに、私たちはトイレ問題に悩まされてきました。

以前に書きましたが、震災時は断水などで水洗トイレが使えなくなることで、私たちの生活環境は不衛生になります。換気扇が止まってしまう、トイレのあとに手が洗えない、トイレ掃除ができない、水が流れないことに気づかずにトイレを使ってしまい便器がうんちとおしっこで満杯になるなど。

そして、トイレが嫌になると、私たちはトイレにできるだけ行かないようにと、水を飲むことを控えてしまい体調を崩します。最悪のケースは命を落とすことにもなります。

震災時の被災生活において、急激な環境変化に伴うストレスなどで持病や体調が悪化し、亡くなってしまうことを関連死と言います。

毎日新聞(2018年1月4日)によると、2018年1月3日現在において「熊本県で197人、大分県で3人の計200人が震災関連死に認定」「200人全員の死因は明らかではないが、熊本県が17年8月末に関連死した被災者の死因を調べたところ、呼吸器系疾患53人▽循環器系疾患50人▽突然死など28人−−が目立った」と記述されています。

直接死が50人ですので、それをはるかに超える方々がその後に命を落としているのです。

熊本県教育委員会が避難所となった学校を対象に実施したアンケートでは、「備えられていなかったために困った機能」として最も多かったのが多目的トイレ(体育館内)となっています。

出典:熊本地震の被害を踏まえた学校施設の整備に関する検討会 資料(熊本県教育委員会)

「多目的トイレ(体育館内)」という文言だけだと少しわかりにくいので、熊本県教育委員会の資料を調べてみると、トイレに関しては以下のような記述がありました。

「避難所となっている体育館内にトイレがないため、屋外トイレを利用。高齢者等が往復するのに不便であった。また、グランド等で車中泊の避難者と共同で利用すること、トイレ利用の時間帯が重なるため行列ができる状態であった。」
「水の断絶により水洗トイレが利用できず。仮設トイレが設置されたが、汲み取りの処理、照明、和式等の問題があり」

関連死の原因は明らかになっていませんが、エコノミークラス症候群などの循環器系疾患とトイレ問題は深く関連していると思います。

災害時のトイレ問題は、多くの健康被害と衛生環境の悪化をもたらし、人としての尊厳が傷つけられることにもつながります。


初の避難所向けトイレガイドラインが登場

そこで、平成28年4月、内閣府(防災担当)は、これまでの災害経験を踏まえ、避難生活を支援する行政が取り組むべきトイレ対策の指針を示しました。それが避難所におけるトイレの確保・管理ガイドラインです。

私が知る限りでは、避難所のトイレのガイドラインが出来たのは、初めてだと思います。

このガイドラインには、災害時のトイレの確保・管理に関する配慮事項、トイレの必要数、トイレを衛生的に管理する方法、市町村が実施すべき業務リストなどが具体的に示されています。

今回は「トイレの必要数」について解説しますね。

これまで日本では、避難所のトイレの必要数の提示がなかったのです。

えっ、なかったの!という感じですよね……。

ガイドラインには、過去の事例として表1の内容が紹介されています。これを見ると、20人に1基だと問題ないけど、75人に1基だとギリギリかなぁ…という感じだと思います。

■表1 過去の災害における仮設トイレの数

出典:震災時のトイレ対策((財)日本消防設備安全センター1997年発行)

ちなみに、阪神淡路大震災のときの避難所(神戸市)における仮設トイレ設置数と避難者数のデータがありますので、表2に示します。記録によると仮設トイレが約100人に1基行き渡った時点で苦情がかなり減り、約75人に1基の時点で苦情がほとんどなくなったとなっています。

■表2 トイレの設置実績(神戸市)

出典:震災時のトイレ対策((財)日本消防設備安全センター、1997年発行)

一方、国連機関であるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が示す緊急事態における数量の目安としては、段階的に「第1案 1世帯1基」「第2案 20人当たり1基」「第3案 100人当たり1個室又は1排泄区域」の3つが設定されています。

さらに、スフィア・プロジェクトという人道憲章と人道対応に関する最低基準を見てみると、一時滞在センターにおいては50人につき1基となっています。

以上のことを踏まえ、ガイドラインでは、市町村が確保すべきトイレの数を以下のように示されています。

・災害発生当初は、避難者約50人当たり1基
・その後、避難が長期化する場合には、約20人当たり1基
・トイレの平均的な使用回数は、(一人あたり)1日5回

を一つの目安として、備蓄や災害時用トイレの確保計画を作成することが望ましい。

ただし、ここで注意が必要です。

トイレの数というのは、避難所となる建物の中にあるトイレの個室(洋式便器で携帯トイレを使用)と災害用トイレ(仮設トイレやマンホールトイレ)を合わせた数としています。

仮設トイレだけですべてをまかなおうとすると、仮設トイレをかなりの数集めなきゃいけなくなるし、被災状況によってはどのトイレが使えなくなるか分かりません。

だからこそ、複数のタイプの災害用トイレを組み合わせて備えることが大切なのです。

また、障がい者や高齢者などにとって必要なバリアフリーなトイレは、前述の個数に含めず、避難者の人数やニーズに合わせて確保することが示されています。

とはいえ、これらの数値は重要ではありますが、あくまで目安なので、避難者の状況やトイレの待ち時間などをチェックしながら、よりよくしていくことが必要です。

さらに、トイレは配備して終わりではなく、安心して使ってもらっているかどうかが、大切です。

お年寄りがたくさんいる避難所に、和式の仮設トイレが届いても困ってしまう、ということです。

みなさんが避難する避難所は、おそらく近所の小中学校ですよね。

避難したときに、どのトイレを使うのか、どのくらい備えているのか、そのトイレは使いやすいのか、ぜひチェックしてみてください。

繰り返しになりますが、トイレは命にかかわります

今も、いざというときも、安心して行けるトイレが大切です。


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