【感想】読書感想文「方舟」_非実在女子大生、空清水紗織の感想Vol.0022
週刊文春ミステリーベスト10、MRC大賞2022で1位を獲得した本作。
クローズド・サークルものとしても面白く、また、「ホワイ・ダニット」を解き明かす過程も面白かった。
最後の衝撃はお見事。
以下、ネタバレありで感想を書いていく。
この本の最大の魅力は何と言っても、最後の種明かしにある。
主人公たちにとって「誰か一人を犠牲にしなければ助からない」という状況が、実は犯人にとっては「犠牲者に選ばれなければ助からない」という状況だったことが明かされる。
認識が180度ひっくり返される感覚が堪らない。
これぞミステリー。
終盤までは淡々と進んでいくのがまた良い。
クローズド・サークルなので必ず犯人は身近にいるが、主人公はそこまで恐怖を覚えていないような描写がされている。
だからこそ、最後認識がひっくり返った時の衝撃が大きくなる。
探偵役、翔太郎の推理も理路整然としており、安心して見ていられた。
犯人の行動原理も、きっと彼が語った通りなのだろうと思っていた。
だが違った。
犯人はそれを上回る狡猾さで、主人公たちをだまし続けていた。
しかも冒頭から。
2つの出口のモニターの配線を入れ替えておく。
たったそれだけのシンプルな方法で、最後まで主人公たちと読者を騙しきってしまった。
本書の帯で法月倫太郎先生が「本格ミステリが生き残るための《たったひとつの冴えたやりかた》がここにある」と寄せていたが、まさにその通りで、そこから騙されていたのかと感嘆してしまった。
最後の一文は、暫く寝付けないほどの衝撃があった。
「一番嫌な死に方」についての話が、ここで効いてくる。
あのあと主人公たちを待ち受ける絶望を想像すると、まるで自分が「方舟」の中に取り残されてしまったかのような気分になる。
まだ読んでない方は、是非この衝撃を味わってみてほしい。