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ペケとジマの線形代数 #3

登場人物

 

ペケ  (聞き手)
理系,学部1年.
メガネが四角い


図1. ペケ

ジマ (話し手)
文系,ペケの先輩.
メガネが丸い

図2. ジマ
 


 

ペケジマさん.行列のベキを計算したいんですが,4乗くらいから自分が計算マシーンになった感じがして生きた心地がしません.いい方法ありませんかね?

 

ジマ:お前6回も授業受けといてケリハミ習っとらんのか? 出席してんの?

 

ペケケーリ―・ハミルトンの定理の事ですか?
$${A=\binom{a \ b}{c \ d}}$$だったら,

$$
A^2-(a+d)A+(ad-bc)I=O
\\
(A^2-\mathrm{tr}(A)A+\det(A)I=O)
$$

が常に成り立つっていう主張のことですよね?


 

ジマ:それ使うんだよ.

 

ペケ:$${A^2=(a+d)A-(ad-bc)I}$$と変形して次数を下げていくってことですかね?


 

ジマ: n~~.4次式くらいならそれでもいいんだけど,どちらかと言うと因数定理だね.
高校生の頃,方程式の解を関数に代入した値求めさせられる問題やったことあると思うけど,それ解くときと同じ要領だね.

 

ペケ:あー.教科書にあった

$$
A=
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
1 & 1
\end{pmatrix}
のとき, \
A^3+A^2-A-Iを求めよ.
$$

っていう問題で言ったら,ケーリーハミルトンの定理より$${A^2-A-I=O}$$だから,

$$
\begin{aligned}
A^3+A^2-A-I
&=A^3+O\\
&=A^2A\\
&=(A+I)A\\
&=A^2+A\\
&=(A+I)+A\\
&=2A+I\\
&=\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
2 & 3
\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$

ってやるよりも,

$$
\begin{aligned}
&A^3+A^2-A-I\\
&=(A+2I)(A^2-A-I)+2A+I\\
&=(A+2I)O+2A+I\\
&=2A+I\\
&=\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
2 & 3
\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$

の方が良い感じですね.はぇー.面白い.

 

ジマ:Soー.$${A^6+A^4+2A^2+2A+2I}$$だったらどうなるー?

 

ペケ:えーと,

$$
\begin{aligned}
&A^6+A^4+2A^2+2A+2I\\
&=(A^4+A^3+3A^2+4A+9I)(A^2-A-I)+15A+11I\\
&=15A+11I\\
&=\begin{pmatrix}
11 & 15 \\
15 & 26
\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$

ですか.めっちゃ楽.
てかこれ3次以上の正方行列だとどうなるんスか?


 

ジマ:3次正方行列$${A=(a_{ij})}$$ならこうだ.

$$
A^3-\mathrm{tr}(A)A^2+\mathrm{tr}_2(A)A-\det(A)I=O
$$

$${\mathrm{tr}_2(A)}$$っていうのは,

$${\mathrm{tr}_2(A)=(a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21})+(a_{22}a_{33}-a_{23}a_{32})+(a_{33}a_{11}-a_{31}a_{13})}$$

という意味だよォー.4次以上も作れるっちゃ作れるけど,見て分かる通り,計算量が多いから実用的なのはせいぜい3次までだな.

 

ペケ:4次以上だとベキの計算は地道にやるしかないんですかね?


 

ジマ対角化っていうのがあってだねー.$${A=\binom{1 \ 1}{0 \ 2}}$$だったら,

$$
A=
\begin{pmatrix}
1 & 1 \\
0 & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1 & -1 \\
0 & 1
\end{pmatrix}
=PBQ
$$

という風に変形できるんだよ.試しに$${A^4}$$を計算してみろ.

 

ペケ:計算したら$${QP=I}$$になったから,

$$
\begin{aligned}
A^4
&=PBQPBQPBQPBQ\\
&=PBIBIBIBQ\\
&=PBBBBQ\\
&=PB^4Q\\
\end{aligned}
$$

…あれ,これ結局4乗計算しなきゃいけないんじゃ…


 

ジマ:アホ4ね.つべこべ言わずやれや.

 

ペケ:なんで朝青龍ドルジなんですか.えーと,

$$
B^2=
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 2
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 2
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
1^2 & 0 \\
0 & 2^2
\end{pmatrix}
$$

$$
B^3=B^2B=
\begin{pmatrix}
1^2 & 0 \\
0 & 2^2
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 2
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
1^3 & 0 \\
0 & 2^3
\end{pmatrix}
$$

$$
B^4=B^3B=
\begin{pmatrix}
1^3 & 0 \\
0 & 2^3
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 2
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
1^4 & 0 \\
0 & 2^4
\end{pmatrix}
$$

あれ,計算しやすいですね.てことは,

$$
B^n
=\begin{pmatrix}
1^n & 0 \\
0 & 2^n
\end{pmatrix}
$$

ですね?


 

ジマ:Soー.対角行列のベキは計算しやすいんだよ.

 

ペケ:最後までやると

$$
\begin{aligned}
A^4
&=PB^4Q\\
&=\begin{pmatrix}
1 & 1 \\
0 & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1^4 & 0 \\
0 & 2^4
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1 & -1 \\
0 & 1
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
1 & 1 \\
0 & 1
\end{pmatrix}

\begin{pmatrix}
1 & -1 \\
0 & 16
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
1 & 15 \\
0 & 16
\end{pmatrix}\\

\end{aligned}
$$

ってことですね.
でもこの$${P}$$と$${Q}$$ってどうやって求めるんスか?


 

ジマ:面倒臭いから今度な.次回,ペケ死す!

 

ペケ:勝手に殺さないでください.

#3のまとめ

  1. 行列のベキをラクに計算する方法がいくつかある.

  2. ケリハミは時数下げというより因数定理.

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