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ペケとジマの線形代数+ #1 ケーリー・ハミルトンの定理

登場人物

ペケ(聞き手)
理系,学部3年.
ジマの子分.

ペケ

ジマ(話し手)
文系,ペケの先輩.
口は悪いが,いろんな分野に造詣が深い.

ジマ

ジマペケとジマとの線形代数シリーズで行列の計算方法や公式を一通り覚えたと思うから,今回から有名な線形代数の問題や性質を個別に取り上げて深堀りしていくよォーー.

ペケ:院試も控えていますしね.

ジマ:ここ数年院試の易化が激しいからあんま参考にはならないとは思うけど,まぁw劣等生のペケくんは問題の見通しつけられるようになるために参考にした方が良いと思うけどねェ~~www

ペケ:わかりました.

ジマ:記念すべき第一回はケリハミを解説するヨォー.

ペケケーリー・ハミルトンの定理のことすか?
そういえば,教科書にも載ってる有名な定理なのに,本編ではやっていませんでしたね.

ジマコジ(筆者)が線形代数の数値計算嫌いなのと,固有ベクトルのラクな計算方法も紹介したかったから,時系列で紹介しにくかったんよね.
ケリハミどういう定理かはもちろん知ってるよな?

ペケ:はい.2次正方行列だったら,

$$
\begin{aligned}
A^2-\mathrm{tr}(A)A+\det(A)I=O
\end{aligned}
$$

が常に成り立つっていう主張のことですよね?

ジマ:Soー.じゃ練習で,

$$
A=
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
1 & 1
\end{pmatrix}
$$

として,$${f(A)=A^3+A^2-A-I}$$を計算してくんねェー?

ペケ:ケリハミより,$${A^2=A+I}$$と変形して次数を下げていくってことですかね?

ジマ: n~~.$${f(A)}$$が4次式くらいならそれでもいいんだけど,どちらかと言うと因数定理だね.
高校生の頃,方程式の解を関数に代入した値求めさせられる問題やったことあると思うけど,それ解くときと同じ要領だね.

ペケ:なるほど.$${A^2-A-I=O}$$だから,

$$
\begin{aligned}
&A^3+A^2-A-I\\
&=A^3+O\\
&=A^2A\\
&=(A+I)A\\
&=A^2+A\\
&=(A+I)+A\\
&=2A+I\\
&=\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
2 & 3
\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$

ってやるよりも,

$$
\begin{aligned}
&A^3+A^2-A-I\\
&=(A+2I)(A^2-A-I)+2A+I\\
&=(A+2I)O+2A+I\\
&=2A+I\\
&=\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
2 & 3
\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$

の方が良い感じですね.
へー.面白い.

ジマ:Soー.$${f(A)=A^6+A^4+2A^2+2A+2I}$$だったらどうなるー?

ペケ:えーと,

$$
\begin{aligned}
&A^6+A^4+2A^2+2A+2I\\
&=(A^4+A^3+3A^2+4A+9I)(A^2-A-I)+15A+11I\\
&=15A+11I\\
&=\begin{pmatrix}
11 & 15 \\
15 & 26
\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$

ですかね.めっちゃ楽.
てかこれ3次以上の正方行列だとどうなるんスか?


ジマ:3次正方行列$${A=(a_{ij})}$$ならこうだ.

$$
A^3-\mathrm{tr}(A)A^2+\mathrm{tr}_2(A)A-\det(A)I=O
$$

$${\mathrm{tr}_2(A)}$$っていうのは,

$${\mathrm{tr}_2(A)=(a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21})+(a_{22}a_{33}-a_{23}a_{32})+(a_{33}a_{11}-a_{31}a_{13})}$$

という意味だよォー.4次以上も作れるっちゃ作れるけど,見て分かる通り,計算量が多いから実用的なのはせいぜい3次までだな.

ペケ:なるほど.なんか式の形が解と係数の関係のそれに似てますね.

ジマ:So~.よく気づいたな.次の公式を証明してもらえる?

$$
\begin{aligned}
&\mathrm{tr}(A)=\sum_i\lambda_i\\
&\det(A)=\prod_i\lambda_i
\end{aligned}
$$

ペケ:へー.面白いっすね.トレースや行列式やったときはまだ固有値やってなかったからこの公式やってなかったんですね.
$${\mathrm{tr}(AB)=\mathrm{tr}(BA),|AB|=|A||B|}$$より,$${D=\mathrm{diag}(\lambda_1,\cdots)}$$として,

$$
\begin{aligned}
\mathrm{tr}(A)
&=\mathrm{tr}(PDP^{-1})\\
&=\mathrm{tr}\Big(P^{-1}(PD)\Big)\\
&=\mathrm{tr}(D)\\
&=\sum_i\lambda_i\\
\end{aligned}
$$

$$
\begin{aligned}
\det(A)
&=\det(PDP^{-1})\\
&=\det(PD)\det(P^{-1})\\
&=\det(P^{-1})\det(PD)\\
&=\det(P^{-1}PD)\\
&=\det(D)\\
&=\prod_i\lambda_i
\end{aligned}
$$

ですね.

ジマ:Soー.トレースは固有値の和行列式は固有値の積に等しいんだよねー.

ペケ:これもしかして,固有値分解のときにやった固有方程式を使うと,解と係数の関係より,

$$
\begin{aligned}
\varphi_A(\lambda)\bm p
&=\lambda^2\bm p-(\lambda_1+\lambda_2)\lambda\bm p+\lambda_1\lambda_2\bm p\\
&=\lambda A\bm p-(\lambda_1+\lambda_2)A\bm p+\lambda_1\lambda_2I\bm p\\
&= A\lambda \bm p-(\lambda_1+\lambda_2)A\bm p+\lambda_1\lambda_2I\bm p\\
&=(A^2-\mathrm{tr}(A)A+\det(A)I)\bm p\\
&=\bm0
\end{aligned}
$$

だから,どんな$${\bm p_i}$$でもゼロベクトルになるから,行列$${\varphi_A(A)=O}$$となればいいから,

$$
\begin{aligned}
\varphi_A(A)=A^2-\mathrm{tr}(A)A+\det(A)I=O
\end{aligned}
$$

という風にケリハミが出てくるんすね.

ジマ:Soーー.次に固有ベクトルをラクに計算する方法を紹介するヨォー.

ペケ:ケリハミと関係してるんですか?

ジマ:バチクソ関係してるよォーww
$${n}$$次のケリハミを因数分解(?)してやると,

$$
\begin{aligned}
\prod_{i=1}^n(A-\lambda_i I)=(A-\lambda_j I)\prod_{i=1,i\neq j}^n(A-\lambda_i I)=O
\end{aligned}
$$

ジャン?

ペケ:$${(A+aI)(A+bI)=A^2+(a+b)A+abI}$$
$${(A+bI)(A+aI)=A^2+(a+b)A+abI}$$
だから,$${(A-\lambda_i I)}$$同士では交換法則がなりたってるから好きに$${(A-\lambda_j I)}$$を取り出せるのは分かるんだけど,これの何がすごいんスか?

ジマ:右辺$${O}$$ってことは,行列$${\prod_{i=1,i\neq j}^n(A-\lambda_i I)}$$の列が,行列$${(A-\lambda_j I)}$$をゼロベクトルにするようなベクトルだから$${\lambda_j}$$に対する固有ベクトルでしょ.


ペケスゲェェェェェェ!!!!
2次だと

$$
\begin{aligned}
\bm p_i=\bm a_1-\lambda_j\bm e_1
\ \mathrm{or} \
\bm p_i=\bm a_2-\lambda_j\bm e_2
\end{aligned}
$$

だけど,3次だと計算めんどくないですか?

ジマ:1列目だけ計算すりゃいいじゃん.

$$
\begin{aligned}
\bm p_i=A\bm a_1-(\lambda_j+\lambda_k)\bm a_1+\lambda_j\lambda_k\bm e_1
\end{aligned}
$$

ペケ:なるほど.連立方程式解かなくていいから楽な場合がありそうですね.

ジマ:最後,これらを踏まえて,$${f(x)=|xA+I|}$$として,$${f'(0)}$$を計算してみろ.

ペケ:$${f_n(x)=|xA_n+I_n|,A_n:=(a^n_{ij})_{n\times n}}$$として,

$$
\begin{aligned}
f_n(x)
&=\Big|(x\bm a_1^n+\bm e_1^n) \ \cdots \ (x\bm a_n^n+\bm e_n^n)\Big|\\
&=\Big|(x\bm a_1^n+\bm e_1^n) \ \cdots \ x\bm a_n^n\Big|
+\Big|(x\bm a_1^n+\bm e_1^n) \ \cdots \ \bm e_n^n\Big|\\
&=x\Big|(x\bm a_1^n+\bm e_1^n) \ \cdots \ \bm a_n^n\Big|
+\Big|(\bm a_1^{n-1}+\bm e_1^{n-1}) \ \cdots \ (x\bm a_{n-1}^{n-1}+\bm e_{n-1}^{n-1})\Big|\\
&=xg_n(x)+f_{{n-1}}(x)
\end{aligned}
$$

で,$${f_n(0)=|I_n|=1}$$だから,

$$
\begin{aligned}
\frac{f_n(x)-f_n(0)}{x}
-\frac{f_{n-1}(x)-f_{n-1}(0)}{x}=g_n(x)
\end{aligned}
$$

として,$${x\rightarrow0}$$の極限をとると,$${g_n(0)=a_{nn}}$$だから,

$$
\begin{aligned}
f_k'(0)-f_{k-1}'(0)=a_{kk}
\end{aligned}
$$

で,$${k=2,3,\cdots,n}$$として辺々加えると,
$${f_1'(0)=(xa_{11}(x)+1)'\Big|_{x=0}=(xa_{11}'(x)+a_{11})\Big|_{x=0}=a_{11}}$$だから,

$$
\begin{aligned}
&f_n'(0)-a_{11}=\sum_{k=2}^na_{kk}\\
\\
&\therefore
f_n'(0)=\sum_{k=1}^na_{kk}=\mathrm{tr}(A_n)
\end{aligned}
$$

ですかね?今回僕天才じゃね?(驕り)

ジマ:別にこんくらい誰でも思いつけるからそれでもいいんだけどSa~~,これらを踏まえてって言ったんだからよォ~~.

ケリハミより,

$$
\begin{aligned}
|I+xA|=x^n\left|\frac{1}{x}I-(-A)\right|
=x^n\varphi_{-A}\left(\frac{1}{x}\right)
\end{aligned}
$$

だから,求める値は

$$
x^n\varphi_{-A}\left(\frac{1}{x}\right)
=1+(\lambda_1+\cdots+\lambda_n)x+\cdots
$$

の1次のマクローリン係数だから,

$$
\therefore \sum_{i=1}^n\lambda_i=\mathrm{tr}(A)
$$

で良くねェーーー?


ペケ:ハイ.

ジマ:こんな具合に,裏技や有名問題を紹介したり,そこそこの難問演習をやっていくよォーー.

ペケ:有料レベルですね.コレは.


#1のまとめ

  1. $${\mathrm{tr}(A)=\sum_i\lambda_i}$$

  2. $${\det(A)=\prod_i\lambda_i}$$

  3. ケーリー・ハミルトンの定理

  4. 固有ベクトルの簡単な作り方


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コジ
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