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人生の大半を、ラボ教育センターという会社で、児童文学を通して子どもを育てる仕事をしてき…

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人生の大半を、ラボ教育センターという会社で、児童文学を通して子どもを育てる仕事をしてきました。定年退職して、これまで考えてきたことの総決算をしたいと思い自分のnoteを持つことにした次第です。noteを通して文章で考え、それをもとに動画も制作していきたいと考えています。

最近の記事

さよなら 大好きだったバーニンガムさん――『パイロット マイルズ』ジョン・バーニンガム

ジョン・バーニンガム様 2022年2月6日、あなたの遺稿に出会いました。 2019年1月4日に地球に別れを告げたあなたの、この絵本をこのときまで見逃していました。申し訳ありません。 あなたが日本に来られたとき、ほんの短い時間でしたが、福岡の街をご案内できたことは幸せなことでした。寡黙だけれど時おり発する言葉が深くて、心に染み込むようでした。 疲れた足を休めようと入った喫茶店で、緑茶の緑に見入られたあなたは、この緑色を絵に使いたいとおっしゃっていましたね。どんなときでも絵

    • 子どもの本で世界を平和に――『子どもの本で平和をつくる―イエラ・レップマンの目ざしたこと』

      2022年に突如始まったロシアによるウクライナ侵攻は、ますます混とんとしてきました。当初、圧倒的な力でウクライナは蹂躙され、ロシアに支配されることになるんだろうと誰しもが思っていました。 しかし、ゼレンスキー大統領を始め各閣僚はウクライナに留まり、国民を鼓舞し続けたので、領土を守るのだという国民の意識は高く掲げられたまま、戦い続けています。 ゼレンスキー大統領の巧みな外交は、世界の自由主義陣営の国ぐにを動かし、ウクライナに対する多額の支援を引き出し続けています。ひょっとす

      • あなたなら叱りますか?――『あさえとちいさいいいもうと』筒井 頼子 (著), 林 明子 (イラスト)

        子どもをもつ親御さんなら、一度は経験するショッキングなできごと。いろいろありますが、子どもが迷子になってしまうこともそのひとつですね。 さっきまでそこにいたはずなのに、気づくといない。もし交通事故にあったら、悪い人に連れていかれたら、このまま行方不明になったらどうしよう……。たちまち不安は黒雲のように広がります。 私も、何度も経験いたしました。見つかったときには、それが奇跡ではないかと思うほど、不安と安堵のギャップは大きいものでした。 あらすじ表紙。あさえちゃんが妹のあ

        • はねなしガチョウのぼうけん 『ボルカ』ジョン・バーニンガム

          オリンピック、パラリンピックが終了しましたね。 彼らの活躍は驚異的で、ひさしぶりに応援に熱が入りました。 メダルをたくさんとれたのも、日本国民としてはうれしいことでした。 もちろんオリンピックは素晴らしかったのですが、特筆すべきはパラリンピックです。 感動的でした。 なぜかというと、この競技大会が単なる技術体力の競技大会ではなかったことです。 アスリートの「自分」に挑戦する姿勢。 競争を超えたアスリート同士の心の交流。 数々の困難を克服してきた者だけがもつ輝きを、垣間

        さよなら 大好きだったバーニンガムさん――『パイロット マイルズ』ジョン・バーニンガム

        • 子どもの本で世界を平和に――『子どもの本で平和をつくる―イエラ・レップマンの目ざしたこと』

        • あなたなら叱りますか?――『あさえとちいさいいいもうと』筒井 頼子 (著), 林 明子 (イラスト)

        • はねなしガチョウのぼうけん 『ボルカ』ジョン・バーニンガム

          そのすばらしい人間が、君なのです ――『人間』加古里子

          『だるまちゃんとかみなりちゃん』『だるまちゃんとてんぐちゃん』など、「だるまちゃん」シリーズで有名な加古里子さんですが、科学を題材にした絵本も多数描かれています。 そのなかの一冊、『人間』は、単に人間という生物をパーツに分けてそれぞれの臓器を説明した、というだけのものではありません。加古さんらしい、物語が織り込まれています。 ビッグバンから人間の歴史は始まるこの本では、人間を説明するのに、宇宙のはじまり=ビッグバンから始めるのです。ビッグバンに始まり、ガスがむらになって恒

          そのすばらしい人間が、君なのです ――『人間』加古里子

          夢中の子ども時間 ――『あな』谷川俊太郎

          子どもの時間は、おとなの時間と流れ方が違うようです。 子ども時間は、夢中になればどこまで費やしても尽きることのない無限の時間。その時間を細切れにせず、使いたいだけ使うことを許してあげられたら、きっと子ども時間は豊かなものになると思うんです。 その豊かな時間は、ときに無駄なように見えて、子どもに大きな満足と幸せをもたらすと思うんですがねえ。 おはなし「にちようびの あさ、なにも することがなかったので、ひろしは あなを ほりはじめた」 ひろしはあなを掘るのに、なにか意味

          夢中の子ども時間 ――『あな』谷川俊太郎

          人生が輝くとき ――『コートニー』ジョン・バーニンガム

          イギリスでは、犬との共存の歴史は長いそうで、一種のステータスになっているようです。男性はダンディズムを演出するため大型でシュッとした犬を好み、ヨークシャーテリアのようなかわいい犬はあまり好まないとか、逆に女性はそういったかわいい系を好むとか。 また犬は番犬用にも重宝されるとかで、見知らぬ人物が家に入ろうとすると激しく吠えて、ときに噛みつくほどのどうもうさを求められるとか。しかし、そのために郵便配達員が噛まれて被害続出とか。 いえね、私はイギリスに住んだこともないし、ただテ

          人生が輝くとき ――『コートニー』ジョン・バーニンガム

          幸も不幸も見方しだい ―エリック・カール『ちいさいタネ』

          世の中は不公平だ、って思ったことはありますか? 私はあります。 自分はブサイクだから、好きなあの人に振り向いてもらえない。美大に行きたいのに、家が貧乏だから高卒で働かなければならない。自分は虐待されて育ってきた。生まれたところが〇〇国だから、隣国との対立でいさかいが絶えない。生まれたところが〇〇国で、自分のまわりでは虐殺が平気で行われている……。 世の中を見渡せば、そんなことがいっぱいあるじゃないですか。 不公平だと思うのは、自分の責任でもないのに、この親に生まれたから

          幸も不幸も見方しだい ―エリック・カール『ちいさいタネ』

          気味悪がられた一寸法師、やさしくなった鬼たち ー『一寸法師』

          今年も2月が過ぎて行こうとしています。2月といえば節分豆まき。3日にはお父さんが鬼のお面をかぶり、子どもに豆をぶつけられて逃げ惑う光景が、日本中のあちらこちらで見られたことでしょう。 昔話には鬼が出てきて、最後には退治されるというお話がたくさんありますが、一寸法師もその一つ。小さな男の子が、世にも恐ろしい鬼をその小さな体でやっつけて、鬼が忘れていった「打ち出の小づち」で立派な若者に大変身。お姫様と結婚して幸せに暮らしましたとさ、という「一寸法師」のお話は、子どもにとって、と

          気味悪がられた一寸法師、やさしくなった鬼たち ー『一寸法師』

          【追悼】絵のなかの人びととの出会いを胸に、安野さんの旅立ちを見送りたい ~『旅の絵本』

          旅は、高いお金を出して日本の名所や世界各地に出かけていくことだけが旅ではありません。私は、路地裏をさまようのが大好きなのですが、この角を曲がったら何があるのだろう、さびついたベランダの柵に蔦の絡まった家を見上げて、人は住んでいるのか、住んでいるならどんな人か、などと想像するのが好きで、それもまた旅なのではないかと思うのです。 『旅の絵本』は、この路地裏をうろつく時の「思いがけないところに思いがけない人やものがある」という感覚を呼び覚ましてくれる、最高の絵本でした。とくに第1

          【追悼】絵のなかの人びととの出会いを胸に、安野さんの旅立ちを見送りたい ~『旅の絵本』

          見返りがなくても、人に尽くすこと ~『かさじぞう』

          雪がしんしんと降る中、じっと立ち尽くして人びとの幸せを祈る六地蔵。その石の仏に、お正月の備えを買うために用意した大事な笠を差し上げて、自分たちはお湯でいいよねと笑い合うおじいさんとおばあさんの物語。この『かさじぞう』という物語には、日本人が元々もっているやさしさがつまっています。 「オレオレ詐欺」のような犯罪には、やさしさを抑えて気を引き締めなければなりませんが、この昔話のように「見返りを求めないやさしさ、他人やこの世のあらゆるものに対する愛情」は、どんな時代になってももっ

          見返りがなくても、人に尽くすこと ~『かさじぞう』

          番外編:アメリカの子どもの作文教育は「型」重視

          先日、President Family という雑誌を読んでいて、軽く衝撃を受けた記事がありましたので、児童文学からちょっと離れて作文の「型」について触れておきたいと思います。この記事で触れられていたのは、アメリカの子どもの作文教育は、徹底的に「型」を身につけさせるということでした。 問題の記事は「書く力の現場」というコラムで、渡邉雅子さんという名古屋大学大学院教育発達化学研究科教授という肩書を持たれている方が発言されたことをまとめた「海外の作文教育は何が違うのか」というタイ

          番外編:アメリカの子どもの作文教育は「型」重視

          死は哀しいけれど、大事な何かを教えてくれる ~最愛の妻へ

          前回、残酷にみえる昔話は残酷かなのかということについて、私なりの考えを書きましたが、では子どもに「死」ということを教えるのはどうでしょうか。もちろん悲惨な死の様相をみせるのは適切ではありませんが、死が教えてくれることも多々あり、それを子どもの目から隠してしまうのも大事な学びのチャンスを奪います。 哀しいけど温かい死を暗示する絵本がいくつかありますが、今回はジョン・バーニンガムの『おじいちゃん』をとりあげたいと思います。 私は一年前に妻をガンで亡くしました。ほぼ同じ時期に私

          死は哀しいけれど、大事な何かを教えてくれる ~最愛の妻へ

          残酷な昔話って残酷なの?

          子どもに与える昔話のなかには残酷にみえるお話があります。それでずいぶん前から、子どもに与えるものとしてはもっと残酷性を抑えたお話にした方がいいのではないか、という議論がされてきました。たとえば、「三匹の子ブタ」。 もともとのお話は、最後にオオカミは三番目の子ブタに食べられてしまう、というものです。これが残酷だというので、修正したほうがいいのではないかと考えた作家や編集者が改変を加えたものも出版されています。そこで世の中に出ている「三匹の子ブタ」には3つのパターンがあります。

          残酷な昔話って残酷なの?

          子どもとの絆を結ぶ、絵本の読みきかせ

          愛する両親やおじいちゃん、おばあちゃんが、自分のためにお話を語って聞かせてくれるというのは、とてもうれしいものですね。私自身は幼児の頃、じいちゃんに故郷の大分県に伝わる吉四六ばなし(きっちょむばなし)や落語の「寿限無(じゅげむ)」のような話を聞きながら眠るのが常でした。 狭い家でしたから、ひとつのふとんに、じいちゃんを真ん中にして兄と私と三人で川の字になって横になり、兄と私はじいちゃんの大きな耳たぶを引っ張りながらお話を聞き、そのまま眠ったものでした。 りっぱな絵本などあ

          子どもとの絆を結ぶ、絵本の読みきかせ

          幼児の絵本

          幼児にとっての絵本について絵本は子どものためだけのものでしょうか? そんなことはありません。絵本の可能性は高く、幼児にも、幼稚園児・小学生にも、おとなにだって絵本はさまざまな顔を見せてくれます。幼ないころにお母さんやお父さんに読んでもらった絵本をおとなになって読み返してみて、まったく新しいことやその深い意味を発見することもあります。 そんな絵本ですが、年齢によって絵本から受け取るものは違います。今回は幼児が見ている絵本の世界を考えてみたいと思います。 幼児が見ている世界お

          幼児の絵本