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努力というのは環境が整ってはじめてできることだと再認識させられた話/映画大好きポンポさんを観て

今年の春ごろから、ようやく本来自分のやるべきことに取り組みだせたのはいいものの、ちょっとしたあることで再び停滞モードに。これじゃあまずいということで、総括として書いてみることにしました。お目汚しになるとは思いますが、どうかご容赦を。

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尊敬する先輩より『映画大好きポンポさん』を観ることを勧められたので、8月の中ごろに池袋のシネマ・ロサに行ってみた。
その先輩も、いろいろ大変でどうにもならない状況下でそれを観て、かなりエンパワーメントされたというし、ツイッターをはじめとしたSNSでもかなり勇気づけられたという感想を見たので、わたしの期待値は爆上げだった。

映画そのものはすごくよかった。ものづくり、特に創作物に携わる人には刺さりまくるには間違いなかったし、事実わたしも最後には勇気づけられた。
だけど、わたしは違うところでとても落ち込んでしまった。
それは、女優志望のナタリー・ウッドワードというハイティーンが、ポンポさんのお眼鏡にかなうシーンから始まる。
田舎から出てきたというナタリーは、生活のために週7日工事現場でアルバイトをしていた。そんなナタリーにポンポさんはアルバイトをやめさせ、若手人気女優のミスティアの家に引っ越しさせ、ミスティアの付き人になるよう命じたのだ。
ここでわたしは思考が少し止まってしまう。アルバイトとレッスンを両立させる方向にいかないんだ、金銭的な援助をミスティアにさせるかわりに彼女の身の回りの世話をナタリーにさせるという、昭和の中期頃までの日本映画界にあったような生活をさせちゃうんだと……。
ミスティアと生活を共にするようになったナタリーは、その後どんどん変化していく。トレーニングやレッスンに使える時間が格段に増えたことで、ほぼ0に等しかった実力がめきめきとついていくのだ。それを見て、わたしはさらに胸が締めつけられるように痛くなる。だけど、それがこの映画の伝えたいところではないと、なんとかわたしはジーンくんのシーンに集中した。
ラストを迎えて映画館を出た後、わたしはある種のカタルシスを得たので、その思いのまま勧めてくれた人にメッセを送った。これにはまったくウソはない。
お腹が空いたのと泣きたくて仕方なかったわたしは、両方が叶えられそうなところを探してみたものの、緊急事態宣言下でラストオーダーも終わっている時間帯だったので、仕方なく電車に乗って帰ることにした。

わたしはずっと、努力ができないと思っていた。
昔の話をすると、中3で母が亡くなり四十九日を過ぎたころから徐々に父と会う回数が減っていき、とうとうまったく会えない週のほうが多くなった。離婚母子家庭なのでそれはそれでどうしようもないことと割り切ってはみたものの、勉強に集中できない日々がつづく。受験生なのに。周りは勉強頑張っているというのに。アパートの家賃の心配や、水道光熱費の不安、なにより冷蔵庫が常にすっからかんで、よくお腹を空かせていた。でも、そんなことを理由にしてはいけなかった。マイナスをプラスに変えるだけの努力がどうしても必要だってわかっていた。でも、とうとうできなくなった。わたし自身が病気になってしまったから。わたしはここで、自分に負けてしまったと思ったから、いつか自分自身にリベンジがしたかった。
それが、女優になるという夢だった。演じる仕事に強い興味があったのもあるけれど、この夢を叶えられたら、10代のわたしの挫折感が解消されるんじゃないかということに期待をもってしまったのだ。
これは、とてもよこしまな動機だ。純度の高い夢を持つ人には到底かなわない。それに、20代のわたしはナタリーよりも労働環境のひどいところで働いていた。
(わたしは、ポンポさんみたいな人に出会えなかった。だから、わたしが悪い……)
そう思いかけて、ハッとした。人との出会いなんて、運そのものでしかないのに、そこを自分のせいにしてしまうのはあまりに卑屈になりすぎる。
それに、10代のころの話だって、これはあまりに環境がひどすぎた。自分のことを不幸と思ってはいけないと強く戒めてはいるものの、やっぱりこの状況はつらかった。
そう考えると、わたしが努力できない・頑張れないという悩みは、環境のほうが大きいのかもしれなかった。
誰かのせいにしないようにしようというのは、すごくいいことのような気もするけれど、この場合は誰かのせいにしてしまったほうがよかったんだとようやく思えるようになってきた。実は、過去にこの話をした数人全員に「結果的に生き延びていられたからよかったけれど、いつ死んでもおかしくなかったんじゃないの?」と言われてしまったのだけど、そのときは実感がまだ沸かなかった。

衣食足れば則ち栄辱を知る。それ以前に安心して住める家がない状況で、どうやって努力なんてできるのだろうと思い返すきっかけになったので、この映画を勧めてくれた人に感謝しかないと改めて。
(もっとも、こういうことになると思ってないだろうけども、こうなることを予測して勧めてきたとすれば、すげえ慧眼としかいいようがないよね……)

さて、気分直しにシャルドネスパークリングワインを買ってこようかしら。

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