人との出会いが進化の源泉。アメリカ文化そのものに魅了された「天将さん」(自家製コーラとハンバーガー テンズ)
宇野港メディア部では、岡山県の港町・宇野港エリアから玉野市の良さを「人」を通じて紹介していきます。
今回取材したのは、「自家製コーラとハンバーガー テンズ」を営む、一級バーガー建築士の天将(てんしょう)さんです。
真庭市出身の天将さんは、大学生のときに趣味で自家製コーラやハンバーガー作りをしていたそう。大学卒業時に「自分の店をやりたい」と思い、2021年3月に「自家製コーラとハンバーガー テンズ」(以下、テンズ)として活動を始めました。シェアショップUZへの出店やイベント出店などを経て、2022年3月には岡山市北区奉還町に実店舗を構えています。
天将さんが活動を始めた経緯や、その背景の思い、「一級バーガー建築士」の由来となる話まで(?)、インタビューしました。
好きなものを作って、お店をやりたい
―テンズを始めたきっかけを教えてください。
最初は自家製コーラを作って、イベント出店するところから始まりました。大学生のときにコーヒー屋でアルバイトをしていて、他のドリンクのことも気になって調べていたら「自家製コーラ専門店」が出てきたんです。もともとコーラが好きなので、「コーラって作れるんだ!」と思って作り始めたのがきっかけでした。
大学4年生の秋に地元の真庭のイベントに呼んでもらって、自家製コーラを初めて販売しました。その後、4回くらいのイベント出店を経て、自然に「ハンバーガーもやりたいな」と思うようになりました。
ハンバーガーも、大学生のときにアルバイトするくらい好きだったんです。趣味で家でも作ってて、友達が遊びに来るたびに作って食べてもらっていました。
それで、大学の後輩と2人で自家製コーラとハンバーガーの店を2日間限定でやったのをきっかけに、方向性が決まりました。
―自分でお店を持ちたいという思いはあったのですか?
そうですね。高校1年生のときに地元にコーヒー屋ができて、そのお店や店主との出会いで「いつか自分もやりたい」と思うようになりました。
趣味でコーヒーを勉強するようになって、きっかけとなった地元のコーヒー屋はもちろん、色々なコーヒー屋に行っていました。時間が許す限り、「いつからお店やっているんですか」とか「この豆ってどんな豆ですか」とか、取材みたいなこともしていましたね。
大学生になってからもコーヒー屋でアルバイトしていて、そのままアルバイト先に就職しようか迷うくらいでした。やっぱり自分で店をやってみたいなと思って、独立したんです。
ただ、僕は焙煎をするよりもドリップして提供することが好きだったので、「コーヒー屋で独立するのはむずかしいかな」と思って。じゃあ他にやりたいことって何だろうと考えたとき、「ハンバーガーいいな」と思いました。
アメリカ文化のように、楽しい場所にいつもあるコーラとハンバーガーでありたい
―「ハンバーガーいいな」と思った理由は何でしょう。
そもそもアメリカ文化が好きなんです。本や映画でアメリカ文化が好きになったのですが、さらに好きになったのは大学3年生のときでした。
アメリカ人の友達が里帰りすると言ったので、アメリカまで一緒に行くことにしたんです。その友達は6年くらい真庭に住んでいて、家族ぐるみで親交がありました。仲が良かったのでアメリカまでついて行ったのですが……、そのときにやっぱりアメリカ文化っていいなと思って。
アメリカ映画を見ていると、ハンバーガーを片手に持ってドライブしたり、バーベキューでハンバーガーを作ったりするシーンがよく出てきます。なんというか、そういうハンバーガーの立ち位置が魅力的だなと思っていて。アメリカに行って、実際にその光景を見たときに、ハンバーガーは文化的にも好きだなと思いました。
あとは画力があるところも好きです。ハンバーガーを横から見たときの、肉感・チーズ・野菜のフレッシュさ。配色も、赤・黄・緑と鮮やかで。建築美を感じるというか、美しいなって。その美しさがかっこいい食べ物だなとも思います。
―その後は、アメリカ文化に共通するコーラとハンバーガーを作って販売するようになったと。
はい。たまたま自分が好きで作っていたものでしたが、コーラとハンバーガーってめちゃめちゃ最強の組み合わせだなと思いました。
―「地元のイベントに呼んでもらったことからスタートした」そうですが、どのような経緯で呼んでもらったのですか?
最初は、真庭あぐりガーデンの方々に呼んでもらいました。学生の頃によく行っていて、お店の方と話すときに「いつかお店をやりたいんです」と言っていたんです。
で、いざ僕が始めたら注目してくれたというか。「ついにやるのか!じゃあうちにおいでよ」と言ってもらって、スタートダッシュはスムーズだったと思います。学生のときはずっと種まきしていたので、始める前のほうが長かったかな。
―美しさや美味しさを追求してきた、テンズの自家製コーラとハンバーガーの特徴を教えてください。
自家製コーラは、フルーツや砂糖にこだわっているので体にいいものになっています。でも健康志向になりたいわけではなくて、あくまでもコーラはファストフードの一部なので、ハンバーガーと食べたときのペアリングを大切にしています。
ハンバーガーのパティは、ハンドチョップといって、大きい肉の塊から筋や油を取って赤みだけにして、みじん切りにしていく。それをスパイスと混ぜているのがこだわりです。ソースも、よくあるハンバーガーの味にならないように、ハーブなどを混ぜながらオリジナルの味付けにしています。
「見た目から美味しそう」なのもハンバーガーの魅力だと思っているので、見た目の美しさにはこだわっています。お客さんにも、建築美のようなものを感じてほしいので。ただ、きれいすぎるのは違うなと思うので、ハンバーガーもあくまでファストフード。その前提は、忘れないように。
やっぱりアメリカ文化が好きなんですよね。コーラやハンバーガーが、何気ない日常に溶け込んでいる文化が好きなんです。テンズの自家製コーラとハンバーガーも、どんなシーンでも楽しく食べられることを目指しています。
玉野での出店は、観光客や親子など関係人口が多い
―真庭で活動開始後、なぜ玉野にあるシェアショップUZ(以下、UZ)に出店したのですか?
2021年の5月に初めて出店したのですが、岡山市北区奉還町を中心に活動していた「創作キーマカレー ツドイバ器」(現在は休業中)というカレー屋の店主がUZにも出店していて、紹介してくれました。
当時は大学を卒業したばかりで、コーヒー屋のアルバイトはまだ続けていて、辞めて店をやるか悩んでいるときでした。店主の光一さんに相談したところ、「辞めて店やりなよ」と言ってもらい、決心がついたんです。光一さんは岡山出身で、東京から戻ってきたばかりで、フリーランスの美容師でもありカレー屋でもあり……という人だったので、背中を押してくれたことになんだか勇気が持てました。
その後、光一さんから「出店場所ないんだったら紹介するよ」と言ってもらって、そのひとつだったUZと出会いました。当時は光一さんも、UZで間借り営業していたんですよね。
―UZでの出店は、地元での出店と違いましたか?
知り合いではない人に食べてもらうのが、初めてだったと思います。その嬉しさや怖さを感じた場所ですね。
当時はまだ、自分が作るものでお金をいただく感覚がなかったんです。自分が一から考えて、プロデュースしたものが売れるのかなとか。急に登場したハンバーガー屋が、受け入れてもらえるのかなとか。そういう怖さはありました。
ありがたいことに、最初からお客さんが来てくれたのでよかったです。
―UZに出店してよかったことを教えてください。
ハルさんや玲美さんに、値段設定や提供方法など細かいところまで相談できたのがありがたかったです。飲食店での経験が豊富で、頼れる人がいたのは嬉しかったです。テンズの出店形態のベースは、UZで作らせてもらったなと思います。
あと、UZ自体がスタートしたばかりでもあったので、僕とハルさん・玲美さんが互い意見を出し合って、やらせてもらえたのがよかったです。僕がどうしたいのかを尊重してくださいました。
―玉野でも、UZでの営業ほか『うのマル』にも出店されていますが、他のマルシェとの違いは感じますか?
ステージがあるので、関係人口が多い気がします。ダンスをする子どもがいたら、その保護者が多くいる印象があるので。関係人口が増えると、イベントとして賑やかで楽しい雰囲気が出るので、出店者側としても楽しいなと思います。
『うのマル』は2023年に始まり、今までに2回(2024年1月現在)開催されていますが、2回とも出させてもらいました。1回目と2回目では、場所も規模も違ったので面白かったです。2024年は開催数が増えるということで、『うのマル』らしさが固まってくるんだろうなと思っています。今後も参加させてもらうのが楽しみです。
―テンさん(オーナーの愛称)にとって、玉野はどんなまちですか?
海外の観光客がよく来るので、海外文化好きとしては楽しいまちですね。ハンバーガーを海外の方が食べているのを見ると、自分の頭のなかにある画が現実になっているなと感じます。ハンバーガーがあるべきところにあるのが……、美しい画だなって。
前にアメリカに行ったから分かるのですが、海外旅行で何を食べたかって結構覚えているんですよ。だから玉野にいる人たちが母国に帰ったとき、「玉野で食べたハンバーガーが美味しかった」とか、思い出話をしているのかなと思うと、そういう光景も含めていいなと思います。
イベント出店と実店舗には、違う面白さがある
―2022年3月には、夢だった実店舗をオープンされていますよね。
正直、現実的に無理だろうなと思っていたのですが、色んなご縁があってオープンできました。
イベント出店のために軽トラを買って、改造して使いやすいようにしていたものの、やっぱりお店があった方がいいんじゃないかと思うようになって。
初期投資などもあるから、「本当にお店ができるのかな」と思いながらも物件を探していたところ、奉還町でイメージにぴったりな場所が見つかりました。
コンパクトな物件ですが、仕込みをしたり、友達やお客さんが遊びに来たりする画が浮かんで、ここでやろうと決意しました。
―現在は、イベント出店と実店舗での営業両方をされていますよね。
違う面白さがあるから、イベント出店も実店舗での営業もやっています。
実店舗に来る人は、テンズを目的に来るので、細かい説明をしなくてもコミュニケーションが取れるのは嬉しいです。「テンズのスタンスはこうですよ」と思いながら待ち構えられるので、ありがたいなと思います。
イベント出店では、他の店舗から刺激を受けて「もっとこうしたらいいんじゃないか」というアイデアが出てくるようになります。店舗だけで細々とやるよりはどんどんいい店になるし、知名度も上がるなと思います。
あと、イベントでは偶然のいい出会いがあるのが面白いです。自分の活動に愛があるというか、誇りを持っている人、信念がある人だと「もっと話を聞いてみたいな」という気持ちになるんです。ビビッとくる出会いがあると、イベント出店って面白いなと思います。
関わりがある人の循環のなかで生きてきた
―今日までテンズを続けてこられた理由は、何だと思いますか?
何だろう……、人と関わってきたなとは思います。面白いことをやっている人のところへよく行くので。そうすると、自然とアイデアが出てくるんです。地元の真庭は田舎ではあるけど、田舎の文化と新しい文化の融合を考えている人が多くて、すごく刺激を受けます。よく話を聞きに行っているから、テンズは甘え上手かもしれないですね。
あとは、テンズと関わりがある人たちの循環のなかで生きてきたなとも思います。例えば、チェーン店でコーヒーを買うのではなく、友達の店で買うとか。周りの大人の人たちがそうしているから僕もそうするようになったのですが、関わる人みんなでいい循環を生みたいと思うようになりました。
テンズは新型コロナウイルス感染症の流行時に始まったこともあり、ここまで色々な人に助けてもらってきました。助けてくれた人は、思いを持った人ばかりで、そういう人が作ったものを買って、僕も還元できたらなと思っています。
―最後に、今後の目標を教えてください。
実店舗や、実店舗がある奉還町を盛り上げていけたらなと思っています。
実店舗がオープンして、もう少しで2年(2024年1月現在)。今は店舗に自分好きなものを飾ったり、知り合いの作家さんが作ったものを置いたりしています。少しずつ理想の店に近づいてきて、愛着が湧いてきたからこそ、店舗での運営に力を入れたいです。
あと「喫茶天豆」(きっさてんず)もやってみたいです。相方のつくし(以下、つくちゃん)が正式にテンズの社員になったので、つくちゃんがやりたいこともやっていきたい。それはスイーツを作ることなんです。ハンバーガを食べた後につくちゃんのスイーツを食べながら、じゃあコーヒーでも頼もうかなとなるような、長い時間テンズで楽しんでもらえるような店にしたいなと思います。
テンズの実店舗がある奉還町は、色々な店や人が集まっていて面白いです。テンズに人が来ることで、奉還町が盛り上がるきっかけにもなったらいいなと思います。