感動の種類(「ドードーが落下する」「星の王子さま」「エリオスライジングヒーローズ」感想)
先週書いた「ミセン」の感想が思いのほか読んでいただけていて、やっぱりひとつの作品にしっかり文字数を割いて書くべきなんだよなあとは思うものの、見ている作品数に頭や手が全然追いつかない。見終わったあとにすこし頭の中で寝かせることで、じわじわと理解できる遅効性の面白さもあったりするので。そういうものを記録しておくためのnoteでもある。
舞台は公演期間が短いものも多いから、ここで書いて公開したときには既に見る手段が無くなっている、なんてことばっかりだ。他人が話題にしているのを見かけてふらっと見に行けるようなエンターテイメントではない、という残念な現状がある。逆に言えば、「ミセン」のnoteを見てもらえているのは公演期間が長いおかげでもあるんだろう。
今週は「ドードーが落下する」「朗読劇星の王子さま」「エリオスライジングヒーローズ」の3作を見てきた。
「ドードーが落下する」という演劇を見た、というXでのポストを、短期間に2件見かけた。投稿していたのは「飯沼一家に謝罪します」の大森時生Pと、奇奇怪怪のアカウント(TaiTan)だ。どちらも好きなコンテンツを作り出している人であり、昨年の超個人的コンテンツアワードにも挙げさせていただいている。
そんなわけで、そのお2人が話題にしているというだけでもう、わたしとしては見に行く理由になった。作中の基本的な設定だけネットでさらっと見て、あとは情報を入れず、中華街の入り口を横目に劇場へ。
開演前から客席は静まり返り、緊張感のみなぎる中、音楽もなにもなく主人公である夏目が舞台上に現れる。病院の待合室のようなセットの端にあるベンチがずれたとき、自分の目がおかしくなったのかと思った。そこから他の物も動き出し、ありえないところから何人もの人が無表情で湧き出してきたのが悪夢みたいだった。自分の認知がおかしい、という感覚を持つことは、この作品に向き合ううえでかなり重要な気がする。それを意図した演出なのかはわからないけれど。
この舞台を見に行ってよかった。だけど、見ていてものすごく不快になったし、つらかった。二度と見たくないと思う。でもやっぱり、見てよかった。
そんなだからこの作品を見て丸一日経っても自分の中でうまく言葉になっておらず、各所で思ったことをばらばらと書くのが限界だ。
別にものすごく嫌いというわけでもないけど、でもあいつのこの部分はさすがにちょっとなあ……と思うような人は、普通に生きていたら周囲にたくさんいる。そういう嫌な発言や行動の描き方がリアルすぎて、見ていて気分が悪くなる。
夏目とまったく同じではないが、やや似た状態になった人がかつて職場にいた。そのころの色々が生々しく思い出されてしまってさらに苦しい。同じような思いで見ていた観客がわたし以外にも何人もいただろう。夏目本人が一番つらいだろうと頭ではわかっていて、いい人なんだともわかっている。それでも夏目に共感して見ることはどうしてもできない。彼の行動に振り回される周囲の人間の苦しさを、ほんの少しではあるけれど実際に経験してしまっている。
相方の賢くんはたぶんお笑いの才能はない。相方というより、ただの親友だったんだろうなあ。夏目の芸を買ってくれて色々世話をしてくれようとする信也さんの思いは夏目に届かず、ただ隣にいる賢くんの笑いだけが夏目に届く。ここが本当にしんどかった。芸人としての夏目をどれだけ好きで応援していても、芸人以前のひとりの人間としての夏目が心底つらいときに、その応援はなんの支えにもならないのか。賢くんの本業が福祉士だというのにも、じわじわと納得がいく。
病気のことがばれて、とりかえしのつかない奇行も知られて、いくら今は落ち着いているのだと言っても、周囲の人間からは気の毒そうに見られて、そんな空気からどう持ち直せばいいのかわからない。もっとも絶望に打ちのめされたのは、中学のころから患っているのだという夏目の台詞だった。彼は飛ぼうとして失敗して飛べなくなったのではなく、そもそも最初から飛べないのだった。羽ばたいても落ちる。落下したどん底みたいなラストシーン、それでも賢くんが大きな声で笑ってくれることが救いだ。
日曜、12時開演の「朗読劇 星の王子さま」を見に博品館劇場へ。これはもう完全に、YouTube「板橋ハウス」でよく見ている吉野おいなり君の芝居を見たいがため。そもそも板橋ハウスを見始めたきっかけが、3人の演技力が高く動画内の小芝居にたいへん見応えがあったからだった。
わたしが見た回で「ぼく」を演じられていた三上瑛士さんのやさしげな声質のせいもあるのだろうが、約80分を通してゆるやかに滲み入るように語りかけてくる。鑑賞していてそこまで大きな感情の起伏はなく、寝そべってぼうっとプラネタリウムを見たときの感じに近い。
おいなり君は王子さまが出会うさまざまな星の住人を、語りと表情、しぐさで演じ分けていて、一瞬でがらっと雰囲気が切り替わるのはさすがだ。特に酔っぱらいの星での芝居が印象的だった。いわゆるわかりやすい酔いのまわった感じの演技ではなく、グイグイ飲むしぐさが入るわけでもないのに、もう手遅れであることがごく短い尺でも伝わってきて、ちょっとぞっとする感じがあった。誠実で朴訥とした街頭点灯夫の、でもどこか欠けた感じの演技もよかったな。内側に虚無をかかえた芝居が本当にすばらしく、星の王子さまの今回の配役はぴったりだったんではないかと思う。吉野おいなり君さん、また舞台のお仕事されないだろうか。もっと色々見てみたい。
さて、品川に移動し、ステラボールにて「エリオスライジングヒーローズ」を観賞。ゲームを2.5化した舞台のシリーズ第3弾になる。以前に第1弾を劇場で見ていて、見応えのある殺陣や、各キャラの見せ場があってストーリーも見やすくしっかり盛り上がる、ものすごい驚きやインパクトがあるわけではないけれど手堅く作られた良作品、という認識があった。今回もきっと楽しめるだろう、と期待しての観劇。
今回もその例に漏れず、すごく面白かったなあ。直球で、「面白かった!」と言える舞台だった。キャラクターが多いのに全員すぐに把握できるし、それぞれに役割や見せ場、萌えポイントがあって、それらが並行して進んでいって後半にがっつり盛り上がるようになっている。とにかく構成が本当によくできているのだと思うし、役者さんたちのいいところがたくさん出ているんだろうなあと思う。アクションステージと銘打つだけあり、殺陣も本当に派手で見応えがある。なによりキース・マックスがばかみたいにかっこいい。シリーズ続編も、ぜひ見たい。
不快にさせられることも感動のひとつだし、感情がそこまで振れないからといって感動していないわけではない。舞台を見て面白い、とひとことで言っても面白さは全然違うもんだよなあ、ということをあらためて感じた3作品でした。