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自由を纏う:O projectが描くジェンダーレスな日常の美学

ベルギー・アントワープの街には独特な空気が流れている。歴史とアートが交差し、世界的なファッションの拠点として知られるこの地でまた一つ興味深いブランドが生まれている。その名は「オー プロジェクト(O project)」。ブランドを手掛けるのはアントワープ王立芸術アカデミーを卒業したヤン=ヤン・ヴァン・エシュ。彼はすでに自身の名を冠したブランド「ヤン ヤン ヴァン エシュ(JAN-JAN VAN ESSCHE)」で評価を得ているが、2016年春夏シーズンから新たにスタートしたこのプロジェクトでは全く異なる方向性を打ち出している。

ベルギー産の上質なジャージ、モルトン、ニット

オー プロジェクトが目指すのは固定された概念を打ち壊し、服を着る人それぞれが自由にその意味を見出せるような服作りだ。シーズンテーマを設けないのもその一環だろう。ベルギー産の上質なジャージ、モルトン、ニットといった素材を使い、ユニセックスで展開されるアイテム群。服そのものに語らせるのではなく、着る人の感情や日々の気分が自然と服に溶け込み、新たなストーリーを生み出すことを狙っている。

繋がり

ブランド名の「O」には、「繋がり」という意味が込められている。ヤン=ヤンはこの文字を、循環や無限、そして互いにリンクするアイデアの象徴として捉えているようだ。コレクションのデザインにもその思想が反映されている。過剰な装飾を排し、ミニマルで流れるようなシルエットを持つアイテムたち。その中には、日常の動作や時間の流れを柔らかく包み込むような感覚がある。一見シンプルに見えるデザインの裏には繊細な計算とクラフトマンシップが息づいている。

服は生きるための道具である。

ヤン=ヤン・ヴァン・エシュは、アントワープ王立芸術アカデミー在学中から注目される存在だった。2003年の卒業ファッションショーでは、ドリス ヴァン ノッテン賞を受賞。アカデミー出身の才能豊かなデザイナーの中でも特にその美学が際立っていた。彼のデザイン哲学は常に「服は生きるための道具である」という考えに根ざしている。そのため、オー プロジェクトのアイテムも華美な演出よりも実用性と感性の融合が重視されている。

着る自由さ。

また、オー プロジェクトの最大の魅力はその「着る自由さ」にあるだろう。サイズや性別に縛られないゆとりのあるシルエットはどんな体型やスタイルにも寄り添う。たとえ同じ服であっても、着る人によって全く異なる印象を与える。今日の気分でゆったりとリラックス感を楽しんだり、逆にアクセサリーやレイヤードで個性を強調することもできる。この可変性こそがブランドの真髄だ。

アントワープという特異な環境で培われたヤン=ヤンの感性と、「O」という概念に込められたアイデア。それらが結びついた時、生まれるのはただのファッションではなく、もっと根源的な「生きるための表現ツール」なのかもしれない。オー プロジェクトは、現代の服が持つべき本質を問い直すブランドと言えるだろう。

Noteにて書かせて頂いた題材を中心に
Spotify for Podcastersにてお話させて頂いております。

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神奈川・三浦海岸に位置するビンテージ・セレクトショップ「UNKNOWN」の
オーナーによるラジオ番組。

古着と言う知識だけではなく
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流行りや時代の進化を音源や思想を通しながらお話ししています。

音楽はオーナー自身が発掘した
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