【小説】弥勒奇譚 第十一話
ある日気分を変えようと里の衆に聞いた少し山を上った所にある古い社の跡へ行ってみた。
かなり以前から人の手が入っていないらしく社も朽ち果てていた。
境内の大きな石に腰を下ろしていると疲れが出たのかついうとうとしてしまった。ほんの一瞬だったような気がしたが「あの夢」を見た。今回はいきなり仏に鑿を入れている場面から始まった。そしてはっきりと仏のお顔を見ることが出来るのだった。
そのお顔は加波多寺の釈迦如来のように重厚で秀麗な大御輪寺の十一面観音のように威厳に満ち崇高ささえ感じさせる表情であった。
「これだ」弥勒は飛び起きると走るように家に帰り、今見たばかりの仏のお顔を写し取り細かいところまで書き加えた。
今までの事が嘘のようにあっと言う間に図面は完成した。
弥勒は気になって不動に聞いてみた。
「山の上の社の跡は何か由緒があるのですか」
「あそこは元々この龍穴社があった場所じゃよ。
私が来た時にはすでにここに遷座しておったので詳しくは知らんが先代の話ではなんでも水場が枯れてしまったので仕方なくこちらに移ったと言う事じゃ。雨乞いの神が水枯れでは示しがつかんかったんじゃろうよ」不動は自嘲気味に短く笑った。
「実は昨日社の跡でうたた寝をしておりましたら例の夢を見ました。
今回はじめて仏のお顔を見ることが出来たのです」
「弥勒殿の夢は何らかの神仏の啓示としか思えんな。
あそこは言い伝えでは龍神が天から降り立った場所だと言われておるので、もしかするとそなたは龍神さまと因縁があるやも知れんな」
「前世からの因縁なのでしょうか」
「分からんが弥勒殿の夢はただの夢ではなく、
神仏の意思を縁のあるそなたを通して世に伝えようとしていると思えるな」
「神仏のご意思となれば逆らうこともなりませんし思い描く仏のお姿とも相違ありません。
神仏のご加護を得てこの仕事を成就させたいと思います」
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