大学授業一歩前(158講)
はじめに
今回はスコットランド啓蒙思想がご専門の小畑敦嗣様に記事を寄稿して頂きました。是非、ご一読下さいませ。
プロフィール
Q:ご自身のプロフィールを教えてください。
A:現在、私は某都内出版社で企画・編集部の社員として会社員をやっている傍ら、国際基督教大学のキリスト教と文化研究所で研究員をやっています。半分社会人、半分研究者というどっちつかずの身分です。
関心と研究テーマ
Q:現在、研究している内容とご自身の関心を教えて下さい。
A:私の研究関心は18世紀英国の、特にスコットランド啓蒙思想と言われている思潮に関心があり、主にデイヴィッド・ヒューム(1711-1776)やトマス・リード(1710-1796)といった哲学者の道徳をめぐる議論、具体的には自由意志論、道徳判断論、正義論といったトピックに関心を持っています。
また、スコットランド啓蒙思想史全体を俯瞰して、大学と教会、政治状況や商業の発展など多角的な視点から当時の思想を眺めるという手法にも関心があり、そこから「啓蒙(enlightenment)」の意義を見出したいと思っております。
元々はヒュームの哲学だけを学部・修士とやっていたのですが、博士課程からトマス・リードの常識哲学に惹かれて、デカルトからヒュームまでの観念説とそこから帰結する懐疑主義を乗り越える魅力があるのではないかと思い専門を変えました。その成果は、国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科にて、『トマス・リードのコモン・センスと道徳:ヒューム懐疑主義批判を主軸として』という博士論文で結実しており、最近公開されて弊学の機関リポジトリで閲覧できるようになっております。暇な方はご笑覧くださいませ。
オススメの一冊
Q:オススメの一冊を教えてください。
A:トマス・リード著・戸田剛文訳(2023)『人間の知的能力に関する試論』(下)(岩波文庫)です。
ここで気の利いた一冊をオススメしたいところですが、私自身がそこまで読書家というわけでもなく、専門の書籍以外はそれほど読まないため、ここは専門とするトマス・リードの書籍を推させていただくことにしました。
最近出たリードの主著の翻訳なのですが、なぜ上巻ではなく下巻かというと、リードの主要概念である「常識(common sense)」が出てくるからですね。もちろん、真面目な方は上巻から読み始めていただいても構わないのですが、いかんせん長いですので挫折する可能性があります。リードのこの著作は第八論まであって、それぞれの論考で異なるトピックを扱っておりますので、感覚・知覚に関心がある人は感覚論を、人格や記憶に関心がある人は記憶論を、抽象について関心がある人は抽象論を、といった形で読むことができます。
それでも、リード哲学のエッセンスである下巻の第六巻判断論の「常識について」をまずは読んでいただきたいと思います。常識と哲学というと乖離がある、もしくは常識を疑うのが哲学だ! みたいなイメージがあると思いますが、常識に根付く哲学もあるということも知っていただきたいと思います。
ご自身の読書術
Q:ご自身が実践されている読書術を教えてください
A:僕が実践している読書術のようなものは正直ありません。基本的に本を読むときは寝転がりながら読みたいので、強いて読書術というのであれば、姿勢をできるだけリラックスして読むということを実践しているという話になります。具体的には、温泉施設などに本を持っていって、サウナを一浴びしてからリクライニングの椅子に座ってダラダラ読むということをしています。ただこれだと緊張感がなく、たまに眠ってしまうことがあります。
もう一つは、そもそも今の生活では読書といったまとまった時間が平日に取れるのが主に通勤電車の中ということが多いので、そこで集中して読むということですね。ノートにメモを取ったりはしないのですが、興味深い論点が出てきたらスマホにメモをどんどんしていきます。帰宅してから後で見直してもう一回該当箇所を読み直す、ぐらいのことはしているかもしれません。あとは重要そうな箇所に付箋を貼っておくとかですかね。
メッセージ
Q:最後このnoteを読まれている方へのメッセージをお願いします。
A:人生はあっという間とも言いますが、実際はそうでもなく、長いので何事も焦ることはないと思います。私も30半ばまで大学院生をやっていてそこから仕事をし始めましたので社会人デビューは遅いですが、それまでの学びは大変役に立っております。
また、高齢になってから学び直したいと思われている方もいるでしょう。私も機会と十分なお金があれば英国に留学をしてみたいと思っています。学びは始めようと思ったときにできるものだと思います。
とにかく、学びというのは短期間で集中的にやるとか、めちゃくちゃ量をこなすみたいな話もありますが、私はダラダラやりたいときにやれるという気持ちでやっていくことが長く続けていくコツだと思っています。
1人でも多くの方が学びの中に入っていけるように願ってやみません。
おわりに
今回はスコットランド啓蒙思想がご専門の小畑敦嗣様に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中、作成して頂きありがとうございました。
「学ばなければならない」、「今日は何時間勉強しないといけない」という言わば脅迫観念に縛られている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか(私もその一人です笑)。ですが、自分の心を削ってまで勉強をするというのは、どこか違うのではないかと私も最近考えております。如何に脱力しながらも本気でという姿勢が良いのかもしれません。次回もお楽しみに。