お願いだから「充実した大学生活」を過ごしてよぉ【1/2】
とある私立大学に正規職員として勤めている男がいる。
今年で16年目になる。
男は現在就職課に配属されている。
この大学はボーダーフリー、
いわゆるFラン大学と呼ばれるような偏差値帯に属している。
この就職課に与えられたミッションはたった一つ。
卒業後就職率をとにかく上げること。
そのために、どこにも就職できなかった卒業間際の学生に対して、
「私は就職を希望しません。」と書かれた紙にサインをもらったり、
学生の希望を考慮せずに、地元の中小企業の推薦をかなり強引に勧めたりしている。
間違っていると思っている。
男はたしかに、自分のやっていることが世の中から見て、間違っていると理解している。
男はそんな風に自分を納得させながら、今日も業務に取り組んでいた。
男はもう100回は考えたであろうことをまた頭に巡らせながら、
学生の対応をしていた。
一応この大学の就職課にも、本来の就職課らしい業務はある。
履歴書添削や模擬面接をはじめ、
就職にまつわる相談事であれば基本的に時間を作って面談をする。
男は今まさに、就職の相談を受けていた。
「ぼく、学生時代に、特に、何もやってなくって」
「なるほど。別に『これ!』といった成果が求められるんじゃないんです。受けに来た学生の人物像を知ろうとしているだけなので。」
「あ、そうなん、ですね」
「はい。まずはそれを念頭に置いていただいて、今まで大学生活で一番時間を費やしたことってなんですか?」
「あ、え、え、とゲーム。ゲームです。FPSっていうんですけど、知ってますか?」
「あ、なるほどゲームですか。具体的にゲームをする中でなにを頑張りましたか?」
後編へ続く