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中国における先進的なAIの活用事例(小売編)

近年、業務の効率化・省人化、サービスの高度化等のため、AIの利活用が進んでいます。

中国では、企業におけるAIの導入率が85%に上り、AIの利活用に先進的に取り組んでいます。ここでは、日本企業のAI利活用に少しでも参考になるよう、中国におけるAIの活用事例を複数回に分けて紹介していきます。


1. はじめに:AIとは

AIとは、Artificial Intelligence(人工知能)の略語です。一意に定まった定義はないものの、「人が実現するさまざまな知覚や知性を人工的に再現するもの」という意味合いで広く理解されています。

AIはあらゆる分野で応用が進んでいます。自動車では、「AIが運転する」自動運転車の研究開発が進んでいます。金融市場では、大多数の高速トレードにおいて、AIが売買の判断を下しています。医療分野では、AIが蓄積された治療カルテを学習し、患者の治療方針を示すサービスが開発されています。このように、膨大なデータを高速で処理、学習できることがAIの強みとなっています

2. 主要国におけるAIの導入状況

人間と異なる強みを持つAIですが、導入状況は地域によってばらつきがあります。

下図は、主要国におけるAIの導入状況を示したものです。中国のAI導入率が最も高く、85%となっています。一方で、日本のAI導入率は各主要国のそれを下回る39%に留まっており、更なるAI活用の余地があるといえます。

出典:総務省「令和元年版 情報通信白書」

3. 中国におけるAIの活用事例

上記を踏まえ、AIの導入に積極的な中国に着目し、AIの活用事例を紹介していきます。本稿では、小売業の事例を2つ紹介します。

3.1. 無人小売におけるAIの活用事例:ユーザーエクスペリエンスが向上、運営コストが1/4に

中国の無人コンビニ「F5未来商店」において、AIの利活用により、ユーザーエクスペリエンスの向上と運営コストの削減を実現した事例を紹介します。

 3.1.1. F5未来商店とは

F5未来商店とは、2014年に中国、仏山でオープンした24時間営業の無人ロボットコンビニです。中国において多くの無人コンビニが実証実験止まりとなった中、F5未来商店は設立以来、広州、深圳を主な市場に据え、堅調に拡大を続けています。

F5未来商店で扱っている商品は食品、飲料と日用品です。消費者の生鮮・現場調理系食品へのニーズに着目し、「Machine Fresh Food」(ロボットがその場で調理した食品と飲料)を提供しています。メニューには車仔麵(香港風ラーメン)、ミートボール、コーヒー、ミルクティー等、広東地域での人気料理やメジャーな飲み物が多数並びます。

消費者はWechatアプリや店内の注文機を通じて商品を注文し、イートイン、もしくはテイクアウトします。

 3.1.2. F5未来商店におけるAIの活用方法

F5未来商店では、「サービスクオリティの向上」、「顧客の嗜好分析」、「物品の仕入れ量分析」、「セールスプロモーションロジックの作成」にAIを活用しています。

  • サービスクオリティの向上
    F5未来商店では、「AIテーブルクリーナー」を導入しています。イートインの顧客が食べ終わると、カメラが自動的にテーブル上にゴミがあるかを検知し、ゴミ回収及びテーブル清掃指令を発令します。これにより、新たに入店した顧客は、前の顧客の食べ残しを見ずに済みます。

  •  顧客の嗜好分析
    F5未来商店では、顧客の注文商品に基づき、店舗別販売状況の分析をAIを利用して行っています。こうした分析により、例えば、深圳の店舗では広州の店舗に比べて辛い料理が売れることが明らかになっています。AIの分析レベルは、8年の経験を有する店長のレベルに匹敵すると言われています。

  • 物品の仕入れ量分析
    F5未来商店では、過去の売上、天気、活動量等から、日々の食材等の需要量をAIを活用して分析します。これにより、物品の仕入れ量を調整し、無駄になってしまうのを回避しています。

  • セールスプロモーションロジックの作成
    F5未来商店では、賞味期限が近づいた商品のプロモーションロジックをAIが作成しています。現場調理系の商品は賞味期限が24~48時間であることを踏まえ、期限6時間前に値下げ開始、時間が経つにつれ値下げ幅が拡大し、期限2時間前には商品が自動で取り下げとなるロジックを作成しています。

 3.1.3. F5未来商店におけるAI活用の効果

F5未来商店では、AIの活用により、「ユーザーエクスペリエンスの向上」、「物品ロスの低減」、「運営コストの削減」を実現しています。具体的には、顧客から「便利」、「安くておいしい」等と好評の上、物品ロスを店舗当たり2~3%に抑えることに成功しています。また、AIとロボットの合わせ技により、運営コストを従来のコンビニのわずか4分の1である1500元(約28,000円)に抑えています。

3.2. オンライン小売におけるAIの活用事例:サービスの利便性が向上、価格が半減

つづいて、中国のオンライン小売企業「衣邦人」において、AIの利活用により、サービスの利便性向上と低価格化を実現した事例を紹介します。

 3.2.1. 「衣邦人」とは

衣邦人とは、2014年に杭州で設立された衣服のカスタムオーダービジネスを手掛ける企業で、衣服のオーダーメイド用アプリ「衣邦人」を提供しています。

「衣邦人」では、消費者がアプリ経由で計測を申し込むと、「採寸師」が消費者のもとを実際に訪れ、サイズを計測します。計測したデータはアプリに保存され、ユーザーが気に入ったアイテムを注文すると、シームレスにデジタルでつながった工場にデータが送られます。そして、わずか10日でオーダーメイドのアイテムが生産され、ユーザーに郵送されます。

2022年2月時点で、アプリユーザー数約400万人、直営のオーダーメイド体験センター63か所、服装顧問600人強を有しており、全国220都市の消費者に無料で計測サービスを提供しています。

 3.2.2. 衣邦人におけるAIの活用方法

衣邦人では、「採寸」と「レコメンド」にAIを活用しています。

まず、大量に蓄積した消費者のサイズや衣服のデザインのデータを活用し、消費者が入力したサイズを基に、適したサイズやデザインを推定・レコメンドする「AIオーダーメイドサービス」を提供しています。衣服のサイズは一般的には4つですが、AIを活用することで、より詳細な64パターンのサイズを作成しています。これにより、オンラインでの衣服購入でよく起こる「サイズが合わない」という問題を解消しています。

また、コロナ渦を受け、現在訪問型で実施している計測のリモート化にも取り組んでいます。具体的には、カメラでユーザーの写真を撮ることで計測を行う「AI計測器」を作成しており、これにより、従来訪問型で実施していた計測がリモートで実施可能になります。

衣邦人のAI計測器

 3.2.3. 衣邦人におけるAI活用の効果

衣邦人では、AIの活用により、衣服オーダーメイドの「利便性向上」と「低価格化」を実現しています。顧客が自身に合った衣服をオンラインで入手できるのはもちろんのこと、AIのサイズ推定でテーラーを代替することにより、通常のオーダーメイド服に比べ30~50%の価格低減を実現しています。

最後に

本稿では、小売業を対象に、中国における先進的なAIの活用事例を紹介しました。中国では、AIの活用を運営の高効率化、顧客満足度向上の両面につなげています。日本においても、AIの活用には同様のメリットがあると考えられ、このような事例も参考に、AIの利活用がより一層進むものと信じています。

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