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Were Wolf BBS ShortStory _狼と雨のワルツ または人狼BBS役職紹介に代えて
雨音が強くなりましたね。今日は一日中こんな天気のようです。
ふらりとやってきた私に雨宿りの場所を貸してくださったのはありがたいのですが、土砂降りにあたるとはまったくもって運が悪い……。これでは私の帽子とマントもいつまでも乾かなそうです。
そうですね、ここでただ雨宿りというのもつまらないですから雨音と私の奏でるフィドルの演奏に乗せて、私が旅の途中で聞いた人狼話を皆様にお教えいたしましょう。
もしかしたら、これからの参考になるかも知れません。フィドルの調子は……うん、大丈夫ですね。
では『狼と雨のワルツ』をお一つ。
世には人狼という、人を喰らう恐ろしい魔物が存在しております。
私達人間から見れば全く無敵の存在に見えましょう。しかし私達からそう見えても、彼らは案外臆病なのです。
何故かと言いますと人狼はまず一匹では狩りを始めません。狼は群れで行動いたします……二匹以上の群れが集まらないと村を襲ったりはいたしません。せいぜい一人旅をしている者を襲うぐらいです。私は運良く襲われたことがないので、幸運な事にまだこうやって生きておりますが。
そして人狼は群れが揃うと人狼同士にしか通じない会話を交わしはじめます。私はそれを「囁き」などと言っておりますが、実際聞いたことがないのでどんなことを話しているかは分かりません。時々人狼になって日の浅い者の中には、囁いたつもりで己の口から言葉を吐く者もいると聞きますが、それはかなり希でございましょう。
とにかく仲間にしか通じない秘密の言葉で人狼は人を襲う計画を立てるのです。
さて、それを聞いてしまうと「一体どうやって、ただの人間である自分達が人狼に対抗したらいいのだろう」とお思いでしょう。
しかし魔物であると言っても人狼は無敵ではありませんし、不死でもありません。人と同じように縛り首などにされればあっさりと死んでしまうのです。もし皆様が人狼に出会うようなことがありましたら覚えておくとよろしいかと……と言っても、一番は人狼が私達の前に現れないことに決まっておりますが。
人狼の群れが集い、人間を狩る準備が出来ました。
いくら人狼が縛り首で死ぬと言っても、私達からは人狼が全く分かりません……人狼は普段私達と全く見分けが付かないのです。それでは縛り首にしようがない。
しかしご安心を。
その時のために神は人狼と戦う者達を、ちゃんと地上にお遣わしております。神も黙って指をくわえて自らの子らが人狼に襲われるのを見ているわけではございません。
まず紹介いたしますは、一日に一人を人狼か人間かを見分けられる「占い師」という存在です。その者が人狼を占えば占い師からはその正体がはっきりと分かります。その真実の眼をごまかす事はいくら変身上手の人狼にも不可能でしょう。
ただしこの者は人狼から見ても大変厄介な存在故、人狼や、後で説明します存在が『自分が占い師だ』と嘘をつく場合も少なくありません。
それを見分ける方法ですか?
流石の私もそれは分かりません……お互いの話を聞き、どちらが本物かを自分達で判断するしかございません。そこはお互いの説得と、信頼がものを言うのではないでしょうか?
もしくは『人狼に襲われた占い師は、偽か真かは分からないが必ず人間である』ということぐらいでしょうか……まあ、これはあまりに乱暴な判断でございますが。
占い師の力は大きなものであります故、時々尊大な態度に出る者がいるようですが、そのような占い師がいた村の末路というのは大抵悲しいものでございます。
さて占い師が現れました。しかしどちらが本物か分かりません。
話を聞いても判断が付かないのでは仕方がない、どちらも仲良く縛り首にいたしましょう……その時に力を発揮する次なる存在が「霊能者」。その日縛り首にしたり、また不慮の事故などで亡くなった者が人間か人狼かを見分けられる能力を持っております。
ここでたまに勘違いされる方がおりますが、人狼に襲われた者は必ず『人間』でございます。人狼は大変仲間意識が強い故、どんなに餓えていてもお互いを喰い殺したりはいたしません。この辺り努々お忘れなく。
……おっと、話が逸れましたね。
霊能者は誰かが縛り首にならないと力を発揮できない因果な能力でございますが、その力は自分達の判断が合っていたのかどうかを知るための重要な指針にもなります。この辺りも人狼達からは厄介だと思われ、占い師と同じように偽者が出ることも多いようですが、やはり信頼がその村の命運を大きく左右すると思われます。
もしお客様の中にそのような能力をお持ちの方がいらっしゃいましたら、発言には十分注意してください……貴方の力次第で村の行く末が変わってしまうかも知れません。
さあ、霊能者の力で縛り首にした人狼が分かりました。でもこのままでは、次の晩には霊能者が残りの人狼に襲われるかも知れません。
その時のために毎晩一人だけを人狼の襲撃から守れる「狩人」の登場でございます。狩人が「今日はこの人を守る」と決めた者を人狼が襲えば、その襲撃を阻止する事が出来ます。流石に人狼を殺せはしませんが、その日の朝に犠牲者が出ることはないでしょう。
時々頭のいい人狼がわざと人を襲わない事もありましょうが、狩人にだけはそれが分かります。自分が誰かを守れれば、確かに手応えがありますからね……しかし、それを皆様に告げるか否かは狩人次第でございます。
無敵にも見えるその力ですが、ただ悲しきかな、狩人は己の身を守ることは出来ません。その力は人を守るために与えられた力であり、自分が狩人だと人狼に知られれば次の日は逆に人狼達に狩られることになるかも知れません……人狼から人を守る強く儚い力を持つ者、それが狩人という存在です。
人知れず襲われたり人狼の疑いを掛けられて縛り首になったとしても、その影だけでも充分驚異になるでしょう。
……雨はまだ止みそうにないですね。
私の話にはまだ続きがございますので、雨が止まないのは都合がいいのですが。
よろしければもうしばらくお付き合い下さいませ。頼もしい存在と恐ろしい存在についてお話しいたしましょう。
まず頼もしい存在からまいりましょうか。
人数の多い大きめの村であれば、お互いが『絶対人間である』と確信している者達がいたりします。色々な呼び名がありますが、私が聞いたことがあるのは「共有者」という呼び方です。
何を共有しているか? さあ……血縁関係であったり、財産だったり秘密だったりするのではないでしょうか。私はその方々と話をしたわけではありませんからそれぞれ抱えている物がおありなのでしょう。
さて、この共有者。一体何が頼もしいのかと言いますと、占いをせずともお互いが人間だと分かっております。人狼騒ぎが起こり、誰が人間だか分からなくて混乱する事ほど人狼にとって好ましい状態はございません。
そんな時に『私が共有者の一人である』と進み出ればその人が人間であるということは確実なのですから、皆さん安心して人狼探しに専念する事が出来ますよね。まあ、必ず進み出なくても、皆さんが混乱せずに話し合いが出来るのであればお互い隠れたままで偽占い師や偽霊能者を謀る事も出来ますが。
とにかくこの共有者、何の力も持たない村人達から見れば心強い存在でございます。
さて……これだけ心強い能力を持つ者が揃えば、人狼を退治するのはたやすくなってきたように見えるかも知れません。しかしそれは間違いと言うものでございます。
人間が必ずしも同じ人間の味方をするとは限りません。
人間であるのに人狼達の味方をする恐ろしい存在……それが「狂人」です。狂人は人狼達が村を滅ぼす事を望み、人狼達に味方する厄介者でございます。なぜなら狂人を占ったり、縛り首にしたりしても『人間』であるという事が分かるだけなのですから。
しかも狂人が生きている間は、村人の数に入ります……たとえば人狼が二匹、村人が四人生き残っていてその中に狂人が混ざっていた場合、迂闊に狂人だからと縛り首にすると、狩人がその日の襲撃を阻止できなければ、その村は人狼に滅ぼされるのです。
そしてさらに厄介なのが、狂人の中には時々「人狼と囁きが交わせる」者がいる事です。
そうなると狂人は人狼と連携して議論を引っかき回すだけでなく、狼と組んで「自分は共有者である」と、大胆な事を言い出す事があるのです。
人であるのに人狼に肩入れし、占っても縛り首になっても人間だとしか分からず、占い師や霊能者だと嘘をつく存在……たった一人の狂人が議論を混乱させ、村を滅ぼす重要な鍵を握る事があるのです。人狼ではないからと言って甘く見てはなりません。
おや? 少し小降りになってきたようですね……これぐらいなら何とか外に出られそうです。
私が知っている話もそろそろ終わりに近づきました。
最後に、一般には知られておりませんが、人狼でも人間でもない第三の存在についてお話ししておきましょう。
それは縛り首になれば死にますが、人狼に襲われても傷一つ受けない存在。
しかし、占いを受けると儚く死んでしまう存在。
私はこの呼び方が嫌いなのですが、よく「ハムスター人間」または「妖魔」などと呼ばれております……何故ハムスターなのかは分かりません。一説ではネズミのように恐ろしい勢いで増えるとか、ネズミが病気を運ぶように災いを運ぶからだとか言われております。
それが真実であればもっと広く繁殖していそうなものですが……。
彼らはとにかく人狼に襲われても傷一つ受けません。しかし、自分が人狼に襲われた事も分かりません。ハムスター人間を襲った人狼は「狩人に護衛された」と思うかも知れませんし、狩人は「人狼がわざと襲撃を行わなかった」と思うかも知れません。
一体何が目的なのか。人間との共存か、それとも新たに人の敵となる者か。覚えておいても損はないでしょう……人生何が起こるか分かりませんからね。
さて、長々とお付き合いいただきありがとうございました。
願わくば皆様の元に人狼が現れる事のなきよう願っております。
ああ、私の名前をお教えするのを忘れていましたね……失礼いたしました、私は『緑の狼』ニコラスと申します。
勘違いしないでくださいませ。狼、と言っても人狼ではありません。ベネディクト派の僧院で頂いた、私には勿体ない称号でございます。ロザリオもちゃんとマントの下に付けております。
もしかしたら、この中に人狼がいるかも……ですか?
そうですね、そのような事もあるかも知れません。
しかし、私は流れ行く身でございます。今語ったのは雨が上がるまでのひとときの、ちょっとした小話だったとお思い下さい。
人間のために福音を持ってきた神の御使か、それとも人狼に知恵を与える実を渡そうとする蛇なのか。私の話を信じるも信じないも、それは皆さんの自由でございます。
よい雨宿りをありがとうございました。
今のうちに私は大聖堂のある街まで向かおうと思っております。少しぐらいの雨は今の季節でしたらむしろ気持ちいいぐらいでございます。ご心配なく。
では、お後がよろしいようで。
fin