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夾竹桃の花言葉にゆれながら

八木重吉の詩集を開いたついでに、僕の初恋を少し語らせて欲しい。

その人と出会ったのは僕が中学2年生の時だった。その人は後から聞いたら当時26歳だったそうだ。

四月、その教科の最初の授業。

教壇立ち、簡単に自己紹介も兼ねて挨拶をする若く溌剌としたその人に僕は、ありきたりな言葉で言えば一瞬で恋に落ちた。

担任でもなければ学年団も違うその先生とは授業以外での全く交流はなく、その教科自体も週に数が少ない科目だった。

一目でも先生をみたい僕は、先生が顧問をしている部活の練習を帰りがけにチラっと盗み見るくらいしかできなかった。

お察しの通り、僕は今で言う所の影キャというやつで、授業中や合間に彼の周りを囲む陽キャに混じって話しかけるなんて出来るわけなかった。

それにこの初恋を、ましてや大人に恋してしまった事を誰にも言えずにいた。

モヤモヤと過ぎていく一学期を終え、夏休みに入り今から思えば野外の部活だったから先生の姿を遠くから確認するくらいは出来たのだが幼い僕は夏休みに学校に行くとか考えも及ばなかった。

長い夏休みを終え、待ちにまった先生の授業。

授業中の雑談で先生が既婚者であることを知った。

その日僕は部活を盗み見ることなく、さりとて真っ直ぐ帰宅する気にもなれずひとり街を歩いた。


おおぞらのもとに 死ねる
はつ夏の こころ ああ ただひとり
きょうちとうの くれないが
はつなつの こころに しみてゆく

八木重吉 夾竹桃

九月、悲しみの視界にぼやけて見えた濃いピンクは夾竹桃だったのだと数年後この詩に気づかされた。

先ほど紹介した おもいで と同じページにこの詩が掲載されている。

だからこそ剥がれ落ちるほどに何度も開いてしまったのだった。

本の修繕は不恰好ながら無事完了した。


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